あなたの元素をかきあつめる


「主、燭台切が……!」

燭台切光忠が、戦場で折れた。
そう報告した清光も、それを聞いた私も、涙が止まらなかった。
光忠、光忠。出陣の前には、優しい口づけを交わしたのに。いってきます、と笑顔で言っていたのに。どうして帰ってこないの。

「ごめん、ごめんなさい、主」

予期せぬ検非違使の襲撃に遭い、光忠は犠牲になったという。清光は、光忠の破片を一つ、私に渡した。光忠の温もりが残っているような気がした。そんなこと、あるはずがないのに。
あの優しい笑顔を、大きな手を、背中を、はっきりと覚えているのに、彼がそばにいないなんて、どうにかなりそうだった。
暑くて仕方がなかった。無駄に元気な太陽が夏を主張する。風はあるのに、ちっとも涼しくはならなくて。どこかで蝉が鳴いていた。嫌になるくらいに空が青かった。

***

「きゃあっ!」
「ははっ、いい反応だ」

気づけば、冬になっていた。あたり一面が真っ白になって、短刀たちと鶴丸が外ではしゃいでいる。それをぼうっと眺めていると、鶴丸がいたずらな笑みを浮かべながら、私に向かって雪玉を投げてきたのだ。

「もう、びっくりしたじゃない」
「きみが間抜けな顔をしていたから、つい」
「何それ。失礼な」

あのときは、もう立ち直れない、心の底から笑うことなんてできないと思っていたのに。時間というのは残酷で、ゆっくりと、しかし確実に、光忠のいた日々を過去にしていく。
彼が隣にいなくても、笑える自分が、どんどん前に進んでいく自分が、怖かった。

「ほら、座ってないで雪合戦に参加するといい。短刀たちも待っているぞ」
「じゃあちょっと、私の腕前を見せちゃおうかな」
「……て、」

ふと、風に乗って声が聞こえてきた気がした。隣の鶴丸からかと思ったけれど、どうも違うらしい。空耳だろうか、自分でも気づかないうちに、疲れがたまっていたのかもしれない。

「それじゃあ、その腕前とやらを見せてもらおうか、……げほっごほっ」
「鶴丸?どうしたの」
「なに、大丈夫だ。はしゃぎすぎたのかもしれないな」
「子どもじゃないんだから、落ち着いてよ」
「少年の心を忘れないのは、いいことだろう?」

「……じ、……るじ」

また、声が聞こえる。
どこかで聞いたことのあるような声。
寂しそうな、苦しそうな声。
いったい、誰の声なのか。

「ん、主。どうかしたのか?そんなに険しい顔をして」
「うそ、そんな顔してた?」
「ずいぶん怖い顔をしていたぞ。何かあったのか?」
「ううん、何でもない」

そうやって寒い外で話し込んでいたからか、翌日鶴丸は熱を出して寝込んでしまった。神さまでも熱なんて出るんだ、なんて思った。


淡い光を放ちながら現れた人影に、私は心臓が止まってしまうのではないかというほど驚いた。思わず見とれてしまうような整った顔立ち、心地よく響く声。
ずっと待っていた。ずっと会いたかった。ずっと求めていた。光忠、そう呼ぼうとして、思いとどまる。
この光忠は、あの光忠ではない。暑い夏の日に折れた彼と、この燭台切光忠はまったくの別人だ。私と過ごした時間の記憶だって、もちろんない。私は、彼ともう一度出会いから始めなければならないのだ。好きだと囁いてくれる光忠は、もういない。
それでも、目の前の燭台切光忠に、同じことを求めてしまいそうになる。駄目だとわかっているのに、私を好きになってくれることもないかもしれないのに。好きだと言って、私を愛してほしいなんて。

「はじめまして、僕は燭台切光忠。よろしくね」

はじめまして、その言葉で私はまた、光忠を失ったことを突きつけられた。だけど、同じ形をした燭台切光忠が私の前に現れた。
彼が好きだと思ってしまうのは、おかしいことだろうか。ぽっかりと開いたまま、塞がることのない穴を埋めてくれるのは彼しかいないのだ。同じなのは姿だけだとしても、それでも私は彼が好きだと思ってしまうのだ。

「……よろしく、光忠」

その翌日、顕現したばかりの燭台切光忠は折れた状態で発見された。出陣したわけでもないのに、彼は自室で亡くなっていた。外部から何者かが侵入したのか?謎の事件に、本丸の空気はどこか重くなっていく。

どうしてまた、光忠が?
私が何をしたというのだろう。私はただ、みんなとずっと一緒に暮らしたいだけなのに。戦いとか、本当はどうだっていい。誰にも、傷ついてほしくはないのに。

「主」

泣きそうになったとき、どこかから声が聞こえた。雪の日に聞こえたあの声と同じ、今なら誰の声だかわかる。心地よく響く声。

「……光忠?」
「そうだよ、僕だよ。やっと、気づいてくれたんだね」

部屋のどこかから聞こえてくる声。押し入れの中から?誰かに導かれるように押し入れの扉を開けて、そっと隅に置かれている箱を開ける。あの日、清光から渡された光忠の一部。

「ようやく見つけてくれたね、ゆり」

心地よく響く声。彼はずっとここにいたのか、暗い箱の中で私を見ていた、愛してくれていた?鈍く輝く彼に触れると、指先に痛みが走る。ごめんね、と彼が謝る。

「でも、ゆりが悪いんだよ。僕はずっとここにいたのに、姿が同じだけの僕を好きだと思ったり、僕以外の男と楽しそうに話すから。僕もいっぱい傷ついたよ。ずっとずっと、きみだけを愛してるのに」

ねえ、だから。
光忠が微笑んだ。私が見ているのはただの破片のはずなのに、それがわかった。

「もう、僕以外はいらないよね?」

6番目の町さまに提出

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