「あ、倉持くん。ちょっと良い?」
昼休みの購買前。
倉持先輩と遭遇して立ち話をしていると、
校舎の方から歩いてきた人から、
倉持先輩に声がかかった。
「邪魔してごめんね」
そう言って申し訳なさそうに浮かべた笑顔に
慌てて首を横に振った。
「おー、何か用か」
「さっき野球部の小湊先輩が教室に探しに来てたよ」
「は?!亮さんが?!何か言ってたか?!」
「用件は聞いてないよ。
急ぎじゃないからいーや、って言ってたけど」
それを聞いて、倉持先輩は時計をちらりと見て
昼休み終了までに時間があることを確認したようだった。
「いや、でも今から亮さんとこ行ってみるわ。
サンキューな、わざわざ」
「いいよ、アイス買いに来たついでだし」
「わりーけど続きは後でな。じゃ」
「はっ、はい!」
僕に声をかけてから
小走りで校舎へ戻って行った倉持先輩の背中を見送って、
その人はこちらへ視線を移した。
「ごめんね、話の邪魔しちゃって」
「いえ、大丈夫です」
口振りからして2年生。
多分、倉持先輩のクラスの人だろう。
優しそうな人だな、なんて考えながら軽く頭を下げた。
「それじゃ、失礼します」
「うん。あ、部活頑張ってね。小湊くん」
その人はにこりと笑ってそれだけ言うと、
購買のアイスのケースへと向かって歩いて行った。
野球部への注目度の高い学校だし、
ベンチ入りメンバーの名前が知られていてもおかしくないけど。
それでも、名指しで応援されるなんて、
少しくすぐったくて、嬉しかった。
「あ……お礼言いそびれた」
◇◆◇
次に会ったのも、やっぱり購買の前だった。
その人は僕が水を買おうと向かった自販機のところで、
御幸先輩と話していた。
「もー!!御幸くん最低!!」
「はっはっはっ、わりーって。つい、な?」
「つい、じゃないよ!
わたしミルクティー飲みたかったのに!」
その人の手にあるのはオレンジジュース。
多分だけど、お金を入れたところで
御幸先輩が悪戯にボタンを押したんじゃないかと思う。
「こんにちは」
「小湊か、よお」
少し近付き辛かったけど、
軽く御幸先輩達に頭を下げてから
自販機に小銭を入れる。
後ろからは
「あ、オレ財布持ってきてないわ。ごめりんこ」
「はああ!?」
「まあまあ、落ち着けって望月」
なんてやり取りがまだ聞こえている。
望月先輩って言うんだ……なんて考えていたら
水を選ぶはずの指は、ミルクティーのボタンを押していた。
「あの、良かったら」
「えっ」
差し出した先の驚いた顔が
僕の顔をまじまじと見つめるものだから、
自分でも顔が赤くなるのが分かる。
まともに話したこともないのに、いきなりすぎた……
俯いて後悔し始めた僕に返ってきたのは、明るい声で。
「もらっていいの?」
「以前、頑張って、って言ってもらえて嬉しかったので」
ありがとうございました。と続けた筈の声は小さすぎて
届いているのか分からないけれど
「ありがとう、小湊くん」
ミルクティーが僕の手を離れていき、
顔を上げると、そこにはにっこりと笑う顔があった。
「水じゃなかったの?」
オレンジジュースを持って教室に戻ると、
降谷くんに首を傾げて尋ねられた。
ふわふわと落ち着かない今の自分じゃ、
余計な事まで言ってしまいそうだから
「貰ったんだ」
とだけ笑って答えておこう。
交換、という形で渡されたオレンジジュースは
何だか飲むのがもったいない気がした。
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