「うわっ!お前めちゃくちゃ手冷てえ!」
「さっきジャグ洗ってきたばっかだもん」

冬合宿3日目の夜。
地獄のような練習を終えて食堂に向かえば、マネージャーさんたちがクリスマス仕様の飾り付けに食事、ケーキまで用意してくれていた。
乾杯するぞ、グラス回せ、という先輩たちの声に紛れて聞こえた言葉に振り返れば手を握り合う2人が目に飛び込んだ。

片やさっきまでケーキに興奮していたはずの栄純くん、
片や忙しそうに働いていたはずのマネージャーであり、最近付き合い始めた相手でもある望月さん。

コップでも渡す時に手が当たって、驚いた栄純くんが何も考えずに握り込んだんだろうけど……。
胸に生まれたモヤモヤを飲み下してみたものの、手はほどいた2人は悪巧みでもしているのかクスクス笑いながら今度は顔を近づけて話し始める。
たった今飲み下した筈のモヤモヤを、今度は溜息と一緒に吐き出した。
声をかけようと僕が足を踏み出したタイミングで望月さんも栄純くんから離れ、今度は背を向けて立っている金丸くんへ近付いて行く。

「か・ね・ま・る・くんっ!」

悪戯っ子のような笑みのまま背後をとった望月さんは、呼びかけると同時にその手を首筋に押し付けた。
金丸くんはビクリと肩を跳ねさせて振り返り、逃げ出そうとした望月さんの手首が捕まった。

「何しやがんだてめぇ!」
「わーー!金丸くんが怒った!沢村くんヘルプ!」

ケラケラと笑いながら栄純くんに助けを求める様子はとても楽しそうで、結局乾杯の音頭が取られるまで止めに入ることができなかった。

明るく元気で人懐こい彼女は男女問わず友達が多くて、最近の心配の種だったりする。

*****


「ごめんね、小湊くんも疲れてるのに」
「ううん、気にしないで」

駅に向かう他のマネージャーさんたちとは別の方向へ帰る望月さんを家まで送る道すがら、ふと気になって彼女の手に視線を投げると手袋を着けていないことに気が付いた。
考えてみれば、手袋をつけているところなんて見たことないかもしれない。

「望月さんって手袋しないの?」
「昔から苦手なんだよね。ムズムズして」
「へえ、寒くない?」
「大丈夫!体中にカイロ仕込んでるから」

そう言ってポケットを叩いて見せる手に自分の手を伸ばして軽く握ってみると、確かにポカポカと温かい。

「本当だ。温かいね」
「わっ、あっ、え、」
「今日、食堂で栄純くんが冷たいって言ってたから」
「あっ、あの時は、水仕事したばっかで、あの、小湊くん」
「繋いで帰ってもいい?」
「えっ!えと、あの、……うん」

アワアワと顔を赤くして慌ててから、さっきまでとは打って変わって段々と細くなっていく声。そして小さく頷いたまま俯かせてしまった顔。
普段の望月さんと、このしおらしい姿とのギャップにいつも心臓がうるさくなる。
まるで握った手から伝染してしまったように自分の顔も熱を持ち始めたことに気付かれたくなくて、手を繋ぎ直して歩みを再開させた。
半歩分下がった位置を歩きながら、微かに触れるか触れないかといった力加減で握り返され思わず笑ってしまう。

「ふふ、くすぐったい」
「え、あっ、ごめ、ん」
「手つなぐの苦手?」
「ちがっ!くて、でもなんか、その、恥ずかしい……」

いつもはよく動く口が小さくもごもごと言葉を紡ぐ様子を見ながら、繋いだ手にほんの少しだけ力を込めてみる。
少しの間を置いて同じように握り返されて、胸がくすぐったい。

「今度からはさ、」
「え?」
「手が冷たくなったら僕のところに来て?」
「……うん」

恥ずかしそうで嬉しそうな照れ笑いを見ると、こんな表情を他の人に知られるのも何だか勿体無く思えて。
口を衝いて出た言葉ではあったけど、本当に来てくれた場合、僕はどうしたらいいんだろうか。

心配の種からまた新たに芽が出た予感がした。




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