※middle「東条くんが告白したのは〜」の続編ですが、読んでなくても大丈夫です。
雑踏に視線を彷徨わせながら、信号が変わるのを待つ。
信号の先に探していた姿を見つけられずスマホの時計に視線を落とすと、待ち合わせの20分前。
少し早く着きすぎたかと考えているとトンと左腕が誰かにぶつかった。
咄嗟に謝ろうと顔を向ければ先程まで探していた人物が照れくさそうにこちらを見上げていて、自然と顔が綻ぶ。
「おはよう、東条くん」
「おはよう。早く着きすぎたかと思ったけどタイミング良かったね」
「そう、だね!」
細い肩から滑り落ちたマフラーの端を巻き直しつつそう言えば、パチパチまばたきをしながら少々ぎこちない返事。
最近は幾らか会話や表情の硬さも和らいだけれど、度々こうして照れて見せるから、その度にこっちまで気恥ずかしくなる。
「……行こっか」
「うん、」
女の子らしいミトンに包まれた手を握って、横断歩道の先の待ち合わせ場所に背を向けた。
「昔はよくあそこで遊んでたんだ」
志保の家へ向かう最中、彼女が指差したのはバスケットゴールとベンチが2つずつ、あとはゴミ箱くらいしかないフェンスで囲まれた公園だった。
小学生の男の子たちが数人、ベンチの周りで携帯ゲームに熱中しているのが見える。
近くにボールが転がっているからバスケに疲れて小休憩、といったところだろうか。
「バスケして遊んでたの?」
「そうだよ、小学生の頃はミニバスやってたから」
「へえ、ちょっと意外」
「中学では部活入らなかったし、今は全然」
時々遊ぶくらいだよ、そう話す志保は腕も足も細くてスポーツのイメージは全然ないけど、体育の授業がバスケだった時は確かに楽しそうだった気もする。
ユニフォーム着たら可愛いだろうななんて頭の隅で考えながら公園へと足を向けた。
「ねえ! ちょっとボール借りてもいい?」
「東条くん?!」
「あ、はい! どぞ!」
驚いた様子を尻目に小学生たちに借り受けたボールを数回つく。
「ちょっと遊ぼうよ」
「バ、バスケで……?」
「うん。まあ俺あんまり上手くないけど」
バスケなんて授業かほんの遊びでしかしたことないし。
バウンドさせてパスを出せば、受け取った球を同じように
軽くつきながら何やら悩んでいるようで。
「志保?」
「……やっぱダメだよ。東条くん突き指したら大変だし」
その言葉と心配そうな顔に、ちらりと過去にサッカーで骨折した後輩の顔が頭をよぎった。
それならばとフリースロー対決を提案してみればパッと明るく笑うから、本当はやりたかったんだと思うけど。
悪いなあって気持ち以上に、心配してくれることや俺の野球を優先してくれることが胸をくすぐって、口元が緩むのを堪えられなかった。
この子に告白した過去の自分に拍手を送りたい。
「結構本気だったんだけどなあ」
「東条くん2本目から3連続で入れてたもんね。私負けるかもって思った」
結局フリースロー対決は4-3で俺が負けた。
ボールを借りた小学生たちに礼を言って公園をあとにして、志保の家へ。
道中、楽しそうに笑う顔はいつもより少し幼く見えて。
突然の行動だったこともあり、楽しんでくれたことに胸をこっそりなでおろした。
「飲み物、ここに置くね」
志保はそう言ってマグカップを置き、逡巡する素振りを見せてから妙な間を開けて横並びに座った。
遠くない?と尋ねれば焦った顔でごにょごにょと口ごもる。
精一杯の甘えに胸が騒ぎ始めて、体をそちらへ向け手を差し出す。
「志保、もうちょっとこっち来れる?」
「う、ん……」
差し出した手を掴んだ志保がほんの少しだけ距離を詰めるけどまだ物足りなくて、「もうちょっと」「もうちょっと」と声をかけては微々たる距離を詰めるを繰り返した。
距離が近付くにつれてドクンドクンと自分の心臓が勢いよく血液を送り出し、全身を巡るスピードが上がっていくのがよく分かる。
試合の緊張とは違う、熱くて首の後ろがムズムズするような感覚。
「はい、到着」
ようやく届く距離にきた肩を抱き寄せれば、しがみつくように背中に腕が回される。
そのことに少しだけ安堵して、同時にこの幸せが癖になりそうだと舞い上がった頭で考えた。
つくづく過去の自分に拍手を送りたい。
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