弔い


 翌日、八神たちは花織が死んだ廃ビルへと向かった。まだ規制線は貼られているものの、辺りには警察官の姿もなく。元々人通りの少ない路地裏ということもあって、まさかここで二人の少女が死んだなど表通りを歩く人たちは想像もできないだろう。

「俺はここで見張っててやるから、二人で行ってこいよ」
「え、海藤さんはいいの?」
「ああ。俺の分の線香も頼んだぜ、ター坊」
「うん」

 海藤から買ったばかりの線香を受け取り、「これもな」と見慣れた箱を渡される。「…そうだな」と目を細めてそれをポケットに突っ込んで、足早に現場へと向かった。ここで万が一でも警察に邪魔されては、元も子もない。

 現場には、分かりやすく血の跡が色濃く残っていた。ここで、花織は死んだのだ。かつての親友を、自分が葬った場所で。

「杉浦、大丈夫か?」
「……僕はつくづく、運が良かったんだなって思ったよ」

 八神からの気遣いに小さく頷き、杉浦はポツリと呟いた。
 姉を亡くした時の深い絶望も悲しみも、きっと一人きりなら乗り切れなかったかもしれない。そこには同じ思いをした家族が側にいたことが、少なからず救いになっていた。だけど、花織には、花織には誰も信頼できる大人がいなかった。相談できる相手も、一緒に泣いてくれる人も。

 八神から聞いた花織の母親のことを思い浮かべて、杉浦は小さく息をこぼす。それなら、僕らに声をかけてくれれば良かったのに。そんなことを思っては、後の祭りだと打ち消す。

「彼女にも、手を差し伸べてくれる人がいれば良かったのに」
「…うん。そうだな」

 短く相槌を打って、八神はしゃがみ込んで線香の蓋を開ける。カチカチとライターを鳴らし、赤い灯火をその先端に宿した。

「花織ちゃんがハッピーエンドだって言ってたのが、ある意味救いかもな」

 どこか遠い目をする八神に、こくりと頷いて杉浦も八神のすぐ横にしゃがみ込む。八神からライターを借りて、自分の分とそれから、海藤の分も続けて火をつけた。
 八神はポケットから先ほど海藤から受け取ったものを取り出し、外箱を開けて三つ並んだ線香の横に中身を並べる。
 彼女が好んで食べていた、市販のキャラメル。八神はそれを一つ手に取って、口の中に放り込んだ。

「………甘い」

 何故か切なくなる様な線香の匂いと、キャラメルの甘い匂いが風に乗って、八神達を包み込む。それはやがて薄くなり、ビルを出る頃には消えてなくなった。


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フロランタン