遭遇
「おじさん、キャラメルちょーだい」
不意にかけられた声に、海藤はそれが自分宛だと気づくのに僅かに時間を要した。煙草を取り出していた手を止めて視線を横に流すと、すぐ隣で自分を見上げる大きな瞳と目が合う。どうやら相手は女子高生の様で、明るい金に近い茶色の髪。薄いピンクのカーディガンの下は制服なのだろうが、短すぎるスカートの下から覗く足は白くて露出度が高い。海藤にはそれがどこの学校かは分からなかったが、校則違反なことはよく分かる。
「キャラメルだぁ? ンなもん持ってねぇよ」
ポケットに入ってるのは財布と、鍵と、煙草。それだけだ。探すまでもなく自分では少女の要望には応えられない。そもそも、何故自分がキャラメルなんて物を持ってると思ったのか。あまりにも自分とは不釣り合いなお菓子の名前に、海藤は怪訝な顔で少女を見下ろした。
そんな海藤の反応を見て少女は小首を傾げながら探るように数秒沈黙した後、一人納得したように頷いた。
「なーんだ。おじさん、それっぽい服着てるから勘違いしちゃった。ごめんね」
「はあ?」
「じゃーね!」
海藤の疑問の声は、少女には届かなかったらしい。今度は海藤が大きな頭を捻っても、少女はそれに答えることなくサッと身を翻し去って行ってしまった。
「……何だあ?」
一人取り残された海藤は、その小さな背中が人の海に飲まれていくのをただ呆然と見守った。