薬物

 

 海藤が言うには、佐倉花織とは劇場前広場で出会ったらしい。とりあえず、何の手掛かりもないので八神たちはそのまま劇場前広場へと足を向けた。
 佐倉花織。明るい髪色に、着崩した服装。強面の海藤に突然「キャラメルちょーだい」と声をかけてきて、持っていないと言うとあっさり引き下がった少女。何が目的かは、まだ分からない。

「何で海藤さんにキャラメル強請ったんだろう」
「さあな。俺から甘い匂いがしてたとか」
「えー? 海藤さん、煙草の匂いしかしないよ」
「うお!?」
「杉浦、何でここに!?」

 八神と海藤の会話に、ひょっこりと何食わぬ顔で第三者の声が参加する。驚いた二人が振り返ると、「やっほー」と詫びれた様子もなく杉浦がヒラヒラと手を振っていた。例のモグラの事件以来、彼は時々八神の仕事を手伝ってはふらりと猫の様に消えたりする。

「新しい依頼? 僕今ちょうど暇してたんだ。手伝うことある?」
「お前なあ、声かけるなら普通にかけろよ」
「探偵が背後を取られるなんて、八神さんたち平和ボケしてる?」
「生意気言うようになったよなあ、お前も」

 それほどでも、と杉浦が笑い、八神と海藤も顔を見合わせて笑った。色々あって暗い表情も多かった杉浦は、出会った頃に比べて随分と笑うようになった。縁あって出会った弟のような存在を、八神達は少なからず気にかけている。
 人を探しているなら、人手は多いに越したことはない。八神はポケットから例のプリクラを取り出し、杉浦に見せた。

「この右の女の子を探してる。名前は山下咲良。そんで、その子の手がかりを待ってそうなその左の子も探してる。こっちは佐倉花織」
「あれ、その子…」

 思いがけず、杉浦からはすぐに反応が返ってきた。「知ってるのか?」これは幸先が良い。期待して杉浦を見ると、彼は顎に手を当てて少し考え込んでから「うん」と頷いた。

「多分、最近ここら辺で話題になってる子じゃないかな」
「なんだ? 何かやらかしたのか?」
「うーん、半分あたり?」

 妙に勿体ぶった言い方をするので、八神が「で?」と目だけで先を促す。杉浦はキョロキョロと周りを見回した後、二人だけに聞こえるようにそっと声を潜めた。

「最近、若い子達の間で薬物が流行ってるの、知ってる?」
「いや、知らないけど…。珍しい話でもないだろ、神室町じゃ」
「まあね。でも今流行ってるのはちょっと違う。安いから若い子も手が出しやすくって、依存性も高い。手軽にハイになれて、効果は短い。でも安いから次から次へと購入できる。要は若い連中は良いカモ、てこと」
「はーん。腐ってんねぇ、世の中はよォ」

 ヤクザの時もドラッグとはあまり縁がなかった海藤は、眉根を寄せて腕組みをした。組長がそういうのを好まなかったせいもあるが、海藤自身ドラッグは好きではない。そんな曖昧なもので士気を高めるより、己の力の強さの方が何倍も信頼できるからだ。
 実際、ドラッグに手を出して廃人となった組員も、いなかったわけではない。かつての仲間の正気の失った顔を思い出して、思わず苛々と吐き捨てた。

「それで、それとこの子とどんな関係が?」

 八神が問う。

「この子、ここら辺でこの薬物ついて聞き込みしまくってるんだよ。そこで吃驚。この薬、甘い匂いがするんだって。見た目も匂いも、キャラメルそっくりだとか」
「「………キャラメル?」」

 杉浦の言わんとしていることを漸く理解して、八神と海藤は目を合わせた。キャラメルにそっくりなドラッグ。見た目はヤクザの海藤に、キャラメルをくれという不良少女。彼女が求めているのは、甘いだけのお菓子ではなかったらしい。

「お兄さん、キャラメルちょーだい」

 その時、海藤の耳に身に覚えのある声が届いた。ハッと声のした方向へと振り返ると、例の少女が赤いシャツを着た若い男に話しかけているところだった。

「!…あの子が」

 噂をすればなんとやら。
 慌てて三人は少女の元へと駆け寄った。

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フロランタン