「はいみんなちゅうもーーーく!」
カタカタとタイプ音が響くオフィスでの昼下がり。
ここQuizKnockのCEOである伊沢拓司が突然大きな声で皆の視線を集めた。
「今日から皆と一緒に会社を盛り上げてくれる頼もしい仲間を紹介するぞー」
伊沢の一言の後、ガチャリとオフィスの扉が開く。するとそこには、見知った顔が一人と、見知らぬ顔がもう一人。
「え、須貝さん?」
「ちょっと須貝さんタイミング笑」
見知った顔ことそこに現れた一人、須貝駿貴は頭に手を当てへこへことそれを下げながら、オフィスの真ん中に立つ伊沢の隣に並ぶ。
それに続くように、細身で長身、髪は肩にかからない程度の短さ、男性とも女性とも取れる端正な顔立ちをしたもう一人が並ぶ。
なぜ須貝が?というオフィス内の疑問に満ちたざわつきも、その後の自己紹介ですぐに別のざわつきに変わることとなる。
「じゃ、自己紹介を・・・。」
「はいどうも、ナイスガイの須貝でーす!」
『ナイスガイの妹でーす・・・。』
なぜならそれは、お馴染みのポーズをした"兄妹"だったからだ。
***
「初めまして!僕、山本祥彰って言います!歳は2個下のライターです!よろしくお願いします!」
新しく入社してきた須貝さん・・・須貝なまえさんに挨拶をする。
須貝なまえさん。27歳。主に動画編集者、加えてライターとしてこの春からQuizKnockに入社。須貝駿貴の実の妹。東大卒、現在大学院にて生物化学を専攻し博士課程の修了のために勉学に励んでいるとのこと。須貝さん(兄)は物理大好き人間だけど、妹はどうやら生物大好き人間らしい。いや、大好きかどうかはそう言ってた訳じゃないからわからないけど。でも博士課程まで進むくらいで、加えて須貝さんの妹だ。きっと生物化学に対する熱意は凄まじいのだろう。というか、そんな二人を輩出しているなんて・・・須貝家恐るべし。
書類が散乱していた隣のデスクが最近綺麗になっていたのはそういうことだったのか、とデスクに目をやると、目の前にやってきた彼女が表情一つ変えずに言葉を発した。
『初めまして。よろしくお願いします。』
「・・・あ、えーっと、その・・・」
「こらなまえ!さっそく超絶人見知り発動して!」
今まで生きてきて初対面の人とやり取りした中で最上級ともいえるような塩対応に狼狽えていると、こいつ滅茶苦茶人見知りでさ、と須貝さんが苦笑いをして僕と彼女の間に入る。兄妹でもこんなに違うんだ、と妹さんの横顔を見る。静かに佇まう彼女は、絵画が一枚そこにある様な感覚さえおぼえるほどに綺麗な顔立ちである。
「なまえ、この顔で初対面こんな感じだからお高くとまって見えるというか、誤解されがちなんだけどさ、人見知りしてるだけなのよ!まじで!慣れたら普通に喋るやつだから!それに兄という贔屓目なしに根は超良いやつなの!仕事もまじで早いし、信頼出来るやつだから!」
『・・・ちょっとお兄ちゃん、恥ずかしいからそんな事言わなくていいって・・・。』
呆れた様な気まずそうな、少し恥ずかしそうにも見える顔で須貝さんをシッシッと追い払う仕草をする彼女。
「こんなんだけど、皆たくさん絡んでやってな!そしたら絶対なまえの良い所分かってもらえるはずだから!」
オフィス内にいる他のメンバーからもアハハと笑われながら、須貝さんは自分のデスクに戻っていった。面倒見が良い人だとは思っていたけど、実際にも良いお兄ちゃんらしい。・・・妹さんは過保護だと思っていそうな顔をしているけれど。
『・・・いつも兄が騒がしくてすみません。』
そんな妹さんが口を開く。突然の声かけに、失礼だと思われない程度に少し驚く僕。
「あ、いや、須貝さんのお陰でいつも楽しいですよ!」
『なら良かったです。』
あ、笑った・・・?妹さんの口元が少し緩むのが分かった。その瞬間、僕の胸がほんの少しだけキュッと痛くなった気がした。
「そういや須貝さんが二人いることになるわけなんだけど、呼び方どうする?」
『皆さんお兄ちゃんの事須貝さんって呼んでるみたいだから、私の事は名前で呼んでもらって大丈夫です。』
思い出したかの様に自身のデスクのパソコンから顔を覗かせる伊沢さんからの声かけにそう答える妹さん、もとい、なまえさん。
「なまえさん、改めてよろしくお願いします!」
『よろしくお願いします、山本くん。』
口当たりも耳触りも良いその音に心地よさをおぼえつつ、未だ硬いその口調に苦笑いをしつつ、新たな仲間を迎え入れた喜びを感じながら、僕達はそれぞれの仕事に移った。
【善をなす鍵は素晴らしい仲間との人間関係にある。 /アイザック・ウォルトン】