彗星の軌跡T

意識があちらへ、こちらへ。
長い旅路であったようにも思えるし、あっという間であったとも思える。
魂の放浪とは存外ぼんやりしたもので、結局その旅の終わりがなんなのか、自分でもよく分からなくなっていた。

あちらの世界を、こちらの世界を。
たくさんの平行世界、剪定世界をさまよっていた。

そんな中。
ふわふわとした意識が、ある時突然定まった。
焦点が合い、いつもよりはっきりと明確に鮮明に世界が見えた。

そんな世界の真ん中にいたのは、呆けた顔をした少年だった――。



「カルデア?」

「そうそう、俺、そこのマスターで…」

聞き覚えのあるような、ないような4文字を口の中で反芻する。

カルデア。
人類の危機を守る最後の砦。
人理焼却の今際の際まで追い詰められたにも関わらず、魔術王を打ち破り見事人の未来を取り戻した組織、だそうだ。

世界が1度滅びかけていたとはイマイチ実感がなくて考え込んでしまう。

「あ、名前言い忘れてたね。俺、藤丸立香!よろしく!」

ぱっと明るく笑いかけてくる少年―もとい、藤丸立香。
その笑顔からはおよそ、21世紀の魔術師らしさを感じ取ることはできない。
21世紀の魔術師といえば、どこか薄暗くじめじめしていてお堅い感じの…あまりいいイメージはなかった。

だが藤丸立香からは、そんな雰囲気は微塵も感じない。
彼は恐らく、正規の魔術師ではないのだろう。
魔術師というよりは一市民、といった方が彼にはぴったりに思えた。

「私は――ルーラー。クラス、ルーラーのサーヴァントです。よろしくお願いします」

差し出された手に応えようとしたが、思いとどまった。

―逡巡。

それから素直に、胸の内に灯った罪悪感を口にする。

「申し訳ありません…。訳あって、真名を告げることができません。
貴方は名前を教えて下さったのに、このようなこと…。
本当にすいません」

深々と頭を下げ、再度謝る。

それに何故か慌てて、立香は引き止めるように私の両肩に手を置いた。

「いや、いいよいいよ!そこまでして謝らなくても…!」

困惑気味の声色に頭を持ち上げ、彼の様子を窺う。

私の行動に困ったように、自分の頬を指でかきながら笑った。

「訳があるなら仕方ないし、信頼とか信用とかって真名が全てじゃないだろ?
気にすることないって」

未だ眉尻は下がっているが、その言葉に嘘偽りはないらしい。
彼の澄んだ青い瞳がこちらを見据える。

その純真で素朴で真っ直ぐに輝く瞳が、遠い昔の"我らが王"によく似ている気がした。

その懐かしい感覚に思わず笑みが込み上げてきた。

「ふふ、はい。分かりました。
ありがとうございます。
…あぁ、貴方はとっても優しいのですね」

「改めて、よろしくな!」と再度差し出された手に、今度こそ自分の手を重ねるのだった――。



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