わたしの心臓が止まるまで


「本当にそれでいいんだな」

高くもなく低くもない、少年のようでいて青年のようでもある声が問いかけてくる。

「構いません」

それにはっきりと肯定する。
迷いはなかった。
はじめから、ただこうすることを私は望んでいた。

「きっともう元には戻れない」

「覚悟の上です」

「揺るぎはない、か。分かった。その願いを叶えよう」

言葉の上では躊躇いをみせるが、その音に色はない。ただ淡々と紡がれる声に少しだけ安心させられた。

「誰かと共に死ぬことのできる自由と幸せを対価に、君の願い―ただ1人の愛する友の幸せを叶える」

「…はい」

「彼女に百年の比翼を。君に千年の孤独を――」


男の声が遠ざかっていく。

私の意識も薄らいできた。

ぼんやりした空間の中で、これまでの記憶が浮かんでは消えていく。

ねぇ、小夜。

誰かと共にいることを知らなかった、あなた。
毎日が血に塗れ、それでも一心に刃を振っていたあなた。
誰よりも綺麗で、美しくて、凛としていて、穢れの知らない小夜。
私の大好きな、小夜。

どうか幸せになってください。
誰かと共に生きて、共に死ぬ――そんな当たり前の人間みたいに。

あの男の想いを受け継いでいるみたいで癪ではあるけど…。
でも、あの人の最後の憂いを聞いたもの。
あなたの閉ざされたこれからを聞いたもの。
きっと、正しい選択だったよね?


私の大好きな小夜。
後悔なんてない。
あなたを 決して独りにはさせない。
あの島で私が言ったこと、嘘じゃないから。

これはそんな親友から、最期のプレゼントです。
どうか、あなたの行く先がぬくもり溢れるものでありますように。
その冷たさは、私が貰っていくからね。

甲高い耳鳴りのような音を伴って、目が潰れるほど強烈な光を放った刀が私に真っ直ぐ向かってくる。

小夜…

それは私の胸の真ん中を深く、深く突き刺す。暴力的なまでの鉄のような冷たさと鋼のような硬い衝撃を私に与えて溶け込んでいく。


「願いは、叶った」

男の、四月一日と名乗ったミセの主人の声が、遠く木霊した。
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