>この辺は田舎とも都会とも言えない町で、大抵遊びの待ち合わせは近くのショッピングモールですることが多い。ある程度のブランドの店も、映画館も、ゲームセンターも、リーズナブルで無難なフードコートも、そこには全部揃うからだ。
ふと、いつもの集合場所に、一人だけたっているのが見えた。
「お、ルフィがオレより早いなんて珍しいな」
「あ!サンジ!」
当然のように待ち合わせ場所に居るルフィに、オレはは目を丸くして、言った。しつれーな反応だな、とルフィは顔をしかめたが、言い返せるだけの事がなかったのか、特に何も弁解がない。ついついゲーセンに寄ったりして、いつもならむしろ遅れることが多いからだ。
でも今日は、珍しくそんな寄り道をしなかったらしい。お陰で待ち合わせには、遅刻しないですんでる。しかも、三十分も早く、だ。
「あ、そういやルフィ。メール読んだか?」
ナミさんからのメールを思い出して、ルフィに聞いた。
「いや?なんかあったのか?」
やっぱりな、とオレは肩をすくめた。それから、メールを読め、とだけ言った。ルフィは、しぶしぶカバンから携帯を出す。
前に聞いた話になるが、ルフィはあんまり携帯を使わねぇらしい。だから、持ち歩くのを忘れることが多い。
それでも今日は、しっかりカバンに入っていたようだ。横からその画面を覗くと、充電は、残り一つしかなかった。
「あ。ナミからか」
馴れない手つきで、カチカチとルフィはメールを開いた。
「そうだよ。遅れるってかいてあんだろ?」
「三十分くらい、別にわざわざメールしなくて良いのにな」
だと。何とバチ当たりなことを、ルフィの口は簡単に吐き捨てる。すぐに、バシンッとその頭を叩いたのは、オレの磨き抜かれた反射神経の賜物だった。
「お前はな!彼女はそんな図太い神経してねぇんだ。繊細で、優しい、そんな心の現れだろうがッ」
「あー…はいはい」
ルフィは、適当に相づちを打って、割りと思いきり叩かれた後ろ頭をさする。口を尖らせて、ブーブーと不貞腐れる頬を、今度は思いきりツネってやった。
しかし、相変わらずガキみたいにすべすべの肌で、餅みたいに、みょん、と伸びるのが腹立たしい。伸ばせるだけ伸ばして、ばちん、と音がする様に離してみた。当然、音なんか出ないが。
「イッテェ!!!」
痛かったことは痛かったらしい。
「お前なぁ、そんなんだから彼女出来ても長続きしないんだよ」
ルフィの一体何処に惚れてなのか、彼女にしてくれと告白されることがしばしばあるのは知っている。でも、ルフィという「男」は決まって、来るものは拒まず、去るものも追わない。
どこのプレイボーイか、と思うがルフィには至ってそれが「自然なこと」の様だった。下心も、悪意も、野心もない。ルフィは今度こそ声を大きくして、眉を潜める。
「…どーでもいいだろー?それに、別にオレから付き合おうって言ってる訳じゃねぇじゃんかっ」
いつもなら、その事は笑って過ごすのに、ルフィにしては珍しく割りと怒っているらしい。
「そーゆーとこ、恐ろしいほどに思うぜ…」
そう言ってはみたものの、ルフィには聞こえなかっただろう。これ以上怒らせても厄介だ、と勝手に声は小さくなっていた。
「お、ルフィ!」
じゃあまず、他のやつらが来るまでにも時間があるな。と、オレが考えていたときだった。
軽くて癖のない、そんな声がルフィを呼んだ。
「サボ!」
不機嫌だったルフィはどこへやら、声をかけてきた男にルフィは駆け寄る。
サボってのは確か、ルフィ曰くもう一人の「兄ちゃん」だったのを思い出した。見るからに、好青年。普通にしていてもモテそうな容姿だが、その性格や物腰がいわゆる老若男女問わず好まれる、らしい。オレには、なんとなくほんの少しだけだが、同じ空気を感じて苦手な相手だった。
「こんにちは」
それでも、挨拶をしないわけにもいかないだろう。ルフィに続いて、軽く頭を下げた。
「えーと、前にあったよね?」
えーと、と困っているサボさんに、ルフィが助け舟を出した。
「サンジだ」
「そうだ。サンジ、くん」
「サンジでいい、っす」
同姓の年上ってのは、自然と腰下引ける。とりあえず、サブいぼが立ちそうな「くん」付けだけは勘弁してもらった。
「ルフィたちは、昼飯まだなんだろ?」
「おう、今からみんなで集まって、そっからまずメシだ!」
「じゃあ、一緒に食べるかな」
ルフィのことだ、他の奴らの意見なんか聞かずに、すぐに「うん」と頷くだろうと予想できた。
「あー……」
でも、その考えとは全く逆に、ルフィは返事の言葉を濁している。イヤ、というわけでもなさそうだ。でも、いい訳でもないらしい。
確かに他のメンバーがいるが、そんな事を気にするようなヤツは一人もいない。むしろ、人数が増える事を喜ぶヤツも多いだろう。どう見ても、ルフィ自身が返事をしあぐねていた。
「いや、無理にとかじゃねーからな」
そんなルフィに、サボさんはそう言って断りやすくしてくれた。でも、そんなことじゃねーんだよ、アンタ。こいつが「ハッキリしない」ってこと自体、珍しいんだ。
頭を悩ませるルフィを見ていると、その視界にこちらに近寄ってくる女の子が写った。確かに、こっちに向かってくる。
「サボさん、ごめんなさい。待たせちゃって。って、ルフィ?」
「んーん。あ、勿論昼飯って青も一緒だけど」
青?サボさんは今、青と言ったか?
「青」
ルフィも確かに、青と言った。
オレはなんて言えば良いのか、青と呼ばれた女の子を見て固まっていた。
「ルフィも来てたんだ。そういえば、予定が満席なんだって言ってたね」
「…おう。ていうかよ、ま、いーんだけど!」
「なに?」
ルフィが普通に話をしている時にも、オレは横から言いたいことだらけだった。でも、そんなことを分るはずもない。ルフィは、サボさんに向かってはっきり言った。
「…サボ、やっぱ昼はまた今度一緒に食べよう」
「うん。じゃあ、また近いうちに連絡するからな」
「ああ!エースも誘っとく!」
じゃあな、とサボさんと女の子はあっさり行ってしまったが、その背中を目で追い続けた。そのまま、ルフィのほうは見ずにオレの口はやっと開く。
「おい、ルフィ」
「ん?」
「おまえ、中学のときにオレが聞いたこと覚えてるか?」
「……」
「青ちゃんなんだろ?なんで黙ってたんだよ」
「ごめん」
ルフィをもっと責めたい気持ちは大きかったが、そのらしくない声にオレは声を詰まらせるしかなかった。すごくすまなそうな声色の奥に、泣いているのか、怒っているのか分らない震えがみえる。
オレは溜息をついて、さっきの女の子の顔を思い出していた。どうして、もう何年も見ていない顔が分ったのか。面影もあったのかも知れないが、あの隠しようもない雰囲気でピンときた。なんというか、上手くは言えないあの雰囲気は昔のままで。
青ちゃんには、もう会えないと思っていた。
小学校の低学年の頃、よく遊んでいた女の子がいた。小学校では同学年だったが、一つ下のルフィ繋がりで知り合った女の子。青ちゃんとは、中学に上がって会うことがなくなり、姿を見かけることが無くなったと気づいた時には学校をやめていた。
それから何度か、ルフィに聞いたことがある。「青ちゃんとは会わないのか?連絡先を知らないのか?」でも、ルフィの返事はいつも「しらねぇ」だった。
ルフィがどうしてあんな嘘をついたのかは、わからない。本当に、聞いたときには知らなかったのかもしれない。ただ、その見たこともない横顔が。
(なんて顔してんだよ……)
ルフィからの返事のような、言葉には出来ない言い訳のような。オレには、そう見えた。

……………20130519

DODO