>「あれ。サンジくん知らなかったの?」
その日、オレが教室に入っていったとき、ナミとサンジが何か話をしてた。それが青の事だろうっていうのは、なんとなくわかった。
オレはあの時のサンジにちょっとばっかり後ろめたかったから、わざわざ二人に割り込むような事はしないで、黙って席に着いた。第一、サンジは学年一個上なんだから、放課後とかに来ればいいのによ。
今の青のことを知ってるのは、ナミだけだったんだ。女のことは女に聞けって、エースにアドバイスされたからだ。
「ちょっと、ルフィ!」
さっさ始業すればいいのに、ナミがオレに気づいて手招きをしてる。オレは少し溜息をついて、呼ばれるほうへ行った。
「あんた、サンジくんに言ってなかったの?言うって約束したじゃない!」
「うるせーなー。もう、知ってんだからいいだろ!」
「よかないわよ!」
サンジが青のことを心配してたのを、ナミはよく知ってた。だからナミは、オレが青のことを話したその日に、サンジに「少なくとも青が元気でやってること」を話す約束してきた。
そのときは、オレだってちゃんと話すつもりだった。でも、どうしても、どうしてか言い出せなくて。気づいたら、こんなに時間がたってた。そうだ、ナミにそんな約束をさせられたのは、高校に上がる前の、中学のときだった。
「ごめんね、サンジくん。隠しとくつもりじゃなかったのよ、わたしは」
「わかってるよ、ナミさん。どうせ、ルフィが言うつもりなけりゃ、ずっと知らなかったことだしね」
「なんだよ、その言い方」
いや、サンジは悪くねーんだけど。さすがに、そんな言い方はカチンとくる。
「マジでびびったんだぞ。お前が普通に話してるから!」
オレは、今まで青っていう別の子のことかと思ったくらいだ。って、サンジが耳元でギャーギャーうるせェから、とりあえず指で耳栓をした。
「そもそも、サンジくんどこで会ったの?わたしも、実は一回も会ってないのよ」
耳栓してても、勿論ちっせー音は入ってくる。
ナミの少しむくれた声を聞いて、オレは心ん中で頷いた。ナミが会いてェっつても、オレは何かと理由をつけてきた。それには、ちゃんとしたワケっていうのがあった。エースと、シャンクスと、じいちゃんと、約束した事だ。
「この前、ショッピングモールで遊んだときに……」
「えーっ?!ちょっと、ルフィ!!!っていうか、サンジ君も!!なんでその時教えてくれなかったのよ!わたしも会ってみたかったのにっ」
あっさり青のことを話したサンジを、オレはちょっと睨み付けた。あの日、他のやつ等に特別そんな話をしなかったから、サンジは黙っててくれるもんだと思ってた。
言う必要なんかホントはねェんだ。だって、昔っからあいつを知ってるのは、今オレの周りに居るやつではサンジくらいしかいないんだから。
それに、サンジ以外は青が学校に行ってないことも、知らない。エースも、シャンクスも、じいちゃんも、それを誰かに言い回る事だけはするなって、オレに何度も言ってた。オレに悪気がなくても、それは絶対に言っちゃいけねェことなんだ。青が昔みたいに元気になれるように、それは大事な事だってオレは今ではちゃんと理解してる。
「ルフィは未だにどこの学校の子かも教えてくれないし…」
むすっと頬を膨らまして、ナミはオレたちを睨む。その迫力には、付き合いからヒヤッとしたりするんだけど、それでも言えないことだ。
「それは、秘密だ!」
「ルフィはそればっかり!なによ、わたしには色々聞いてくるくせに!」
「それは、それだ」
もういいわよ、とナミは溜息をついた。それから、ハッとしたようにサンジに向き直る。ナミが何かを言うより、オレのほうが早かった。オレは、サンジの腕をつかんで、教室を飛び出す。「逃げるなっ!」っていうナミの声が聞こえた。
「な、に、すんだよ!ルフィ!痛ェ!」
「あ、わりィ」
やっと廊下の裏に来て、オレはサンジの手を離した。しかし、ちょっと冷や汗でたな…。
「なんだよ、ここまできて、なんかあんのか?」
「……」
「ルフィ?」
この前の、青のことを何にも話さないで黙ってたことは、オレだって本当に悪いと思ってた。だから、その上何かをサンジにお願いするっていうのは、ちょっとやりづらい。
「なんもねェなら、行くからな?もうすぐ始業だし」
教室に戻ろうとするサンジに、オレは慌てて言うしかなかった。だって、時々遊びはすんだけど、基本的にこんな広い学校じゃ、毎日会える訳じゃない。
「悪かった」
「はぁ?」
「青のこと、黙ってて。すみません、でした」
みっともないから、こんなの教室じゃ言えねェし。
「んでさ、ほんと、勝手だって流石にわかってんだけど、よ。青のこと、学校に行ってないこととか、ナミあんな感じで知らねェから……言わないどいてくれよ」
なんで、青のことでオレがこんなにがんばってんだろ、って、時々思う。何でオレ、こんなに恥ずかしいんだ?
サンジは、俯いたままのおれに、上から溜息を吐いた。それは、怒ってるというか、呆れてる感じだった。おれは、やっと顔を上げる。やっぱり、サンジは呆れた顔をしてた。
「言わねーよ。余計な心配してんな」
「お、おう」
「しかし、ルフィ。ナミさんに世話かけてんだったら、話せないなりにちゃんとフォロー入れるんだぞ……っつても、お前には無理か」
サンジとかナミとか、時々すっげー失礼だと思う。まぁ、別にそれが嫌な感じって訳じゃないから、オレもそれはそれでいいんだ。フォローって言われたって、どうしたらいいかなんて分らんわけだから、どっちにしても言い返せねェし。
「大丈夫。ナミにもそのうち、会わせっから。最近、なんか調子いいんだあいつ」
だから、オレなりに「フォロー」しておく。
「そういうことじゃねーんだけど…。ま、いいか。って、調子いい?青ちゃんどっか悪いのか?!」
「あ!そ、それは言えねェ!」
慌てて滑った口を手で塞げば、サンジは噴出して笑った。それから、そのまま帰っていく。
「……わーったよ。じゃあな」
オレ、あいつのああいうところが、気分がよくて好きだ。そう思ったら、オレの口は勝手に開いてた。
「サンジ!」
「なんだよ!声でけぇよ!」
眉間に皺が寄った顔が、こっちを向いて怒鳴った。
「しししっ!ありがとう!」
オレが大声でそう言えば、やっぱり皺は寄ったままだったんだけどよ。それでも、サンジは片手を上げて返事を返してくれた。ああいうのなんつーんだっけ?
そうそう、ほんとサンジは「キザ」なやつだ。

………………20130606

DODO