>エースもオレも、夏休みに入った。エースは知り合いの海の家でバイトがあるって言ってたけど、それはもう少し先になってかららしい。だから、ここぞって時にオレと青は予定をあわせた。次の木曜は、三人で遊びに行く。
遊びに行くっていっても、特に予定がねェのはいつもの事だ。気分が乗れば映画を見るし、お金があればゲーセンでひたすらゲームをする。
エースは大学に用事があるとかで、休みに入っても何度も大学に行ってた。その日も、午前は「どうしても顔を出さなきゃならん」らしい。「ならん、ならしょうがねーな」と、オレは青にそのことをメールしておいた。何でオレが伝書鳩みたいな事を、とか思ったんだけど、口が勝手にそう言っちまったんだからしょうがなかった。ガリガリくんを食べながら、ぽちぽちボタンを押す。
『午前中にそっちに迎えに行く あとエースは昼過ぎに合流』となんとかメールを打って送った。
『わかった エースくんお昼は一緒に食べるの? ルフィは午前中行きたいところある?』二時間ぐらいボーっとしてたら、いつの間にかそんなメールが入ってた。で、オレは、青に言われて「そーいえば」とエースにその事も聞く。
「エース。昼飯どーすんだ、って青が」
一緒にポケモンの映画を見てたエースは「んー……」とソファに寝転がったままだ。
エースがオレにソファの場所をちっともくれねェから、オレはその前の床に座ったまま。エースは結構わがままだ。と、じいちゃんもオレも知ってる。青だけは、なんつーか、そういうところもいい、とかなんとか思ってるみたいだけど。
青のやつオレがわがままいうと、すぐに怒ったり機嫌悪くなったりするくせに。つまりこういうのは、不公平ってやつだ。じいちゃんに言わせると、盲目、なんだってよ。
だんだん腹が立ってきたんで、オレはエースの返事も聞かないで青にメールを返した。
『エースは昼はいいってよ 行きたいとことかねーからお前んちにいる』はい、ソーシン。
そうすっと、次の返事はわりかし早かった。
『え?でも、エースくんお昼ハンバーガー食べたいってよ?』オレは驚いて顔を上げると、エースがニヤニヤしながら自分のケータイを振って見せた。
「エース!なんで、んなめんどくせーことすんだよっ」
オレがぎゃーぎゃーとわめくほど、エースは面白がっちまうのはよく知ってる。けど、知っててもからかわれれば、腹が立つんだ。これが。
「青手間を省いてやったんだろうが?つーか、勝手に返事してんなよ」
「どこがだ!返事しなかったエースが悪ィんだろ!」
お前が聞こえてなかっただけだろ。とか言いながら、エースがまたなにか携帯をいじり始めた。オレにはわかる!また青にメールしてるに違いねェ。しかもきっと、オレの事をからかう様などうでもいい事だ。
『エースの言ってる事全部嘘だからな!!』と、慌ててエースより先に送ってやった。ざまーみろ。
すぐにオレの携帯が鳴ったかと思えば、今度はメールじゃなくて電話だった。

「もうっ!どっちなのかはっきりしてよ!」

慌ててとったオレがなんでか怒られたんだけどよ。これってオレ、全然悪くねーだろ?
謝ればいいのか、反対に怒鳴り返せばいいのか分らないでいるオレの傍。そこで、エースが青の声を聞いて、腹を抱えて笑ってた。


***


木曜になった今日。オレは青んちに来ていた。シャンクスは、昨日から帰ってきてないらしい。「しばらく帰れないんだって」と、青が教えてくれた。
「しばらくって、どんくらいなんだ?」
シャンクスに会えるかも、と楽しみにしていたオレにとっては少しガッカリだ。
「わかんない」
青はこういうところは、ものすっごく適当だ。シャンクスがいればあんなに嬉しそうにする「ふぁざこん」のくせして、いつもはちっとも気にしてない。
いてもいなくても、大丈夫。なんだって、言われたわけじゃねーけど、オレはいつもそう言われてる気になる。そうやって、シャンクスがこの家を離れていってときも、青はそんな感じだった。オレはそれに、嘘だろ、とは言えない。
「ふぅん。でもま、シャンクスはすげーから、さっさと仕事なんて終わらせちまうだろ」
「どうかなぁ?」
そう、青が笑う声が聞こえた。
聞こえたって言うのは、青は部屋に入って服を選んでるからだ。俺と遊ぶときなんか、テキトーな癖に。
さっきまで、寝てたときの格好だっただろ。そんままでも、なに着てても大して変わんねーんじゃねーの。と、ちょっと思う。もちろん、絶対、口が裂けても言わねェ。ナミに言ったときに、ボッコボコにされたからな。学習した。
「スカート着るなよー」
と、オレはリビングから言ってみる。この前、エースの連れてきた彼女はスカートだった。
「えー?」
青がどんな服を持ってるか知ってるわけねーけど。なんとなく、短めの青いジーパンを想像する。似合う、気がする。
「ふりっふりのやつも、だめだ」
「なんで、ルフィがそんなこというの?」
青はやっぱり、笑う。どうせ、オレの言ったことなんて、聞こえてねーんだから。多分、エースの好きな感じの服を着てくるはずだ。
エースの好きなっつーか、オレもそれはよく知らねーけど。つまり、女子が可愛いとか言ってる、あの感じ。ああいうの、エースは結構まんざらでもねェと思う。
「なぁ?まだかかんのか?」と、聞いてみれば「もう着替えた」らしい。思ったより、早かった。
「お前が着て出てくる服当ててやる」
オレがそう言えば、青が扉の向こうで少し止まった。
「ふぅん?どうぞ?」
「スカートで、上がふりふりのやつ。そんで、髪の毛ぜってー綺麗にしてるだろ」
がちゃっ、と開いた扉から、青がニヤニヤしながら出てきた。その笑い方がエースにそっくりで、いつもなら腹が立ってた気がする。でも、そうやって腹が立つより、オレは驚いていた。
「ざんねん。自分で言っておいて、なんでそんな予想するかなぁ?」
青いズボンだった。少しだけ短いヤツ。
上の服は、ふりふりなんだけど、オレの考えてたのとも違う。
「なんか、その反応、すっごく不安になる」
何にも言わないオレに、青は困ったように眉を落とした。
でもオレだって、なんていえばいいのかわかんねーんだから、しょうがないだろ。似合ってる、と思った。それから、ちょっと変な感じだ。むしょーに、抱きしめたいとかも思ってる。
「ルフィ、ちょっと。変な顔やめて!やっぱ、着替えたほうがいい?この格好おかしい?!」
「いや。うーん、そーじゃねーんだよなぁ?」
「ええっ?!」
おかしいってことじゃなくて。
「ああ。うれしーんだ、オレ」
サンジはよく、オレにナミに着せてみたい服の話だとか、女子の格好の話をする。オレはいっつも、「そんなもんか?」と思うだけなんだけどよ。
いまならちょっと、それ。分るかもしんねーな。
青はしばらく、きょとん、っていう顔をして。それから、よく分らない、と首をかしげた。
「なんかそれ、ルフィの言ったとおりにしたから嬉しいって聞こえる」
「おう!そうだな」
「……ん?」
青はやっぱり、ちょっとだけ首を傾げて、それから顔を真っ赤にした。オレは、それもすっごく嬉しくて、ニヤニヤと青の方を見る。
「えーと、その」
顔が赤い事なんて、なんでもないようにしたいらしい。青は顔をそらしたりしないで、何か言おうとしてるみたいだった。
「変では、ない?」
「ない」
「そ、そっか。安心した」
ルフィも何か飲む?と、青はそのまま、オレと目を合わせないでキッチンへ行く。「ココアがいい。つめてぇの」なんて返事をしながら、オレはちょっと考えてみた。
いつもは、青をあんなふうに慌てさせるのはエースだ。本当に時々、顔を赤くして、困ったようにするときがある。エースはそれを見れば、からかったり、面白がったり、時々すごく嬉しそうだ。
オレには絶対に、そんな事は出来ねェと思ってた。でも、違ったらしい。「へぇ」とか「そうなのか」とか思う。なんとなく、すごい事を発見しちまった気がする。今すぐ誰かに話して聞かせてやりてーけど、ここには青しかいないもんな。
はい、ココア。って、グラスを渡されたときには、青はもういつも通りだった。
「この服ね、この前父さんと買い物に行ったときに買ったの」
少し照れくさそうに、そう教えられる。で、オレは心ん中で首を傾げて、ちょっと複雑な気分になった。
(ん?)
それって、オレが言ったのを着たんじゃなくてよ。新しい服を着ただけってことか?
「ルフィ、また変な顔してる。どうかした?」
「どうもしねェ」
まぁ。もう、どうでもいいや。


***


久しぶりに、三人で遊ぶのはほんっとーに楽しかった。
エースは前より、いつの間にかUFOキャッチャーが上手くなってて、やたらと青とオレに色んなものを取ってくれた。三人で、ゾンビをやっつけて、あとちょっとのところでボスを倒せたのに、小銭が無くなったのは惜しかった。相変わらず、青はゾンビとかのゲームは嫌いらしい。無駄撃ちがあんまりにも多くて、エースもオレもフォローが大変だった。
遅くなった昼飯を食べながら、どうでもいい話もした。エースは時々、彼女の話をして、青はそれに何でもないように笑ったり、相槌を返したり、アドバイスみたいなこともしてた。オレは青みたいなことは出来ねーけど、その話を聞きながらふと思った。それは、青にも当然分ったんだろう。
「エースくん、今の彼女さんほんとに大切なんだね」青は、おかしそうに笑った。
「いや。……まぁ、そうかもな」エースのその返事は、オレが思ってたのは違った。けど、それでも多分、それは照れてるだけなんだろうな。
「エースの話もいーんだけどよ」オレは、とりあえずその話を止めておいた。昼飯を食ってから何をするかの方が、大事だろ?
結局、映画を見ることになって、SFの新作を見た。なかなか面白かった、と思う。多分。オレは後半寝ちまってたけど、青もエースもそう言ってた。
家に帰り着くまで、エースはオレに映画の内容を一生懸命説明して。それから、くどくど寝てたことに文句を言われた。金が勿体ねェって言われたら、もっともだ。
映画の話をしてたからか「借りたままのポケモンがあるな」と、エースが突然思い出した。しかも期限が今日までっていうのも、覚えてた。そのままエースは走って家に戻って、車で返しに行くらしい。
「じゃあな」と、エースと別れたのは、もうマンションの前だった。今日はじいちゃんも遅ぇし、と青の家にちょっとだけオジャマすることになった。エースが帰ってくるまでの間だ。どうせなら、三人で晩御飯を食べるか、と青が聞いてくる。エースにメールすれば、しばらくして返事が返ってきた。『わかった 買ってくるものあるか?』だってよ。青にそれを見せたら、オレの携帯で返事を打ち始めた。だから、なんでオレの携帯なんだよ。なんてもう、言う元気もねェ。とにかく腹が減ってた。頭がぐるぐるする。いや、ぐらぐら?
「シャンクス、帰ってきてねーな」と、オレはなんとなくそう言った。
「今日は無理だよ」青はやっぱり、仕方ない、っていう顔をする。さっき、エースの話を聞いてたときも、きっと同じだった。オレはやっぱり、どうすればいいとか、何を言えばいいとかは分からん。
「どうしたの?」
だからオレは、どうすればいいかはわかんねーけど、とりあえず青の傍にいることにする。ぎゅう、と抱きしめれば青もやっぱり、抱きしめ返してくれた。
「今日はなんとなく、一回こーしたかった」
昔から、言葉にするのもどうしようもないくらい嬉しい事だったり、辛ぇことだったり、そういうのはぜんぶ、こうやってきた。こうすれば不思議と、元気になったり、全部なんとかなる気がする。
「そっか」
エースみたいに上手く言葉に出来ねェオレでも。青を、少しは元気にしてやれる気がすんだよな。

………20130820

DODO