>勉強は、あんまり好きじゃねぇけど。でも、しなきゃ皆と進級できねーから。
そんな気持ちで、なんとか毎日学校に行って机に座ってる。いっつもオレが残念だと思うのは、机に座ってるだけじゃベンキョー出来るようにならねーってこと。
仕方ないので、家でも一応やってるけど、エースが見張ってくれてなきゃ、オレが宿題にかける時間は長くなるばっかりだ。眠いから、寝ちまうんだ。そもそも、活字とか見てるだけでも眠い。
そんなオレのことを、ヤベェって最初に思ったのも、エースだった。エースはオレより三つ上だから、小学校以外の学校が同じになることなんてなかったし、そもそも、エースはオレなんかよりずっと頭が良かった。つまり、オレが今通ってる所じゃない学校に行ってた。
「お前さぁ、いや、いーんだけど。これからとか、そういうのちょっとは考えたりするだろ?」
そう、エースに聞かれたことがある。つまり、それは将来のなりたいものについての話だった。オレは、頭を傾げた。デケェことしてみてぇ気持ちは、たぶん誰にも負けてねぇ。だけど、そのデケェことをまだコレだって決められねーんだ。オレって、時々自分で思うけど、ほんとに周りに誰か居てくんねーと何も出来なくって笑っちまう。
「ある。けど、あんま長く考えてると、頭いたくなんだよなぁ…」と、オレは正直にそう言ってみた。
そういえば、その頃からだった気がする。アイツが、「勉強しよう」と、いつもの秘密会議に筆記用具と参考書を持ち込み始めたのは。
あれは、間違いなくエースが仕組んだのだと、オレだってそのうち気づいた。そもそも、エースの事が大好きなアイツは、エースの頼み事を断ったり出来るはずがない。
アイツっつーのは、幼馴染みの女子のこと。学校に行ってねーし、それなのにオレより
一個だけ上で、口では大きいこと言ったりするけど、やることはちっせーやつ。次いでに、引きこもり。
名前は、青。
青はエースが大好きで、もう何年もエースの話を聞かされてる。聞くまでもなく、アイツよりオレの方がエースについて詳しいのに、だ。はっきり言って、うじうじしてばっかで、エースの話をするアイツは嫌いだ。ウゼェんだもんよ。
…でも、それ言うとビミョーにショックらしいから、それもまた面倒くさい。
いつだったか、どうしてエースを好きになったのか聞いちまった事もあったけど、まぁ、オレのことだから覚えてるはずがない。どうでもいいことは、聞くだけ聞いておいて頭からいつの間にか無くなっちまってるってのは、オレの特技でもあるし、悪いところでもある。らしい。
で、その青が、どうして学校に行けなくなったのか、オレはそれだけは聞けないでいる。
聞いたって忘れない自信だってあるのに、その話は絶対にしない。何でなのかは、不思議なことにオレだってわかんねぇ。
ただ、何年も前に始めた「秘密会議」が、今でもあん時とちっとも変わらねーから、オレはそれでいいかって気になったりもしてる。どう変わらないのかって聞かれても、それは上手く言えないんだけども。初めて会議したときに、ジョッキにコーラを入れて乾杯をした、あの感じと。今、そうやって乾杯をするときの感じが、同じなんだって言えば近いかもしんねぇ。
オレが変わってないのか、それとも青が大人になってないのか、それは分からない。アイツは学校に行ってないから、皆より成長期ってのが遅いのかもしれねーし。
だって、オレだってそれなりに高校生やってるはずなんだからよ。何も知らないで棒振り回して、冒険だ!とか言ってた時と頭ん中が一緒だったら、それはそれで怖ぇじゃんか。
ま、気分は変わってないって自覚あるけど。それは、それだ。
話は変わるんだけどよ。
オレにだって、得意教科がある。あと、読んでも眠たくなんねぇちっせー文字の本も。
得意なのは、ダントツの体育を一先ず置いといて、地理と生物だ。ただし、興味あるとこだけだから、常に出来るって訳じゃねーんだけど。
地図を見て、なんとなくドキドキする感じに任せて授業を聞ければ、以外と覚えててテストが上手くいく。
そんで生物は、勿論、もともと嫌いじゃないってのもあるけど、青が色々教えてくれんのがスッゲー上手い教科だからだ。
そんなんだから、オレは図鑑だとか地図の小さい文字は眠くならずに読める。
青の部屋には図鑑がたくさんある。アイツのとーちゃんがアイツに買うたびに、それを読ましてもらう。因みに、青のとーちゃんにオレはでっかな貸しがあんだけど、それはまた別の話だ。オレは、あの人の事をめちゃくちゃ尊敬してっから、一気にここで話なんか出来ないし。
オレは、青の事をどう思ってるかって、聞かれんのが一番嫌いだ。
強いて言うなら、この前アイツの部屋で読ましてもらった、生物図鑑に載ってたアレ。カタツムリ。
あいつらは暑いのや寒いのが苦手で、そういうときは殻ん中に入り込んで、殻の入り口に蓋をしちまう。
青も、そういうときがある。急に黙ったまま、何にも聞こえないし見えなくなる時があって、アイツのとーちゃんが言うには、そうやって自分の事を守ってるんだって。時々、自分の部屋からでて来なくなれば、そんなのもうカタツムリ以外のなんでもない。
で、大丈夫かなって思ったら急にもとに戻るんだ。何にもなかった、って顔して。
今の青が嫌いって事はない。それだけは、ほんとに、本当だ。寧ろ、オレなんかより色々知ってて、面白くて、優しいアイツのこと、大事な親友だと思ってる。
だけど、暗い顔をすることが増えたアイツを見てると、オレはなんだか何とも言えなくってモヤモヤしてしょーがない。オレが助けてやりてーんだけど、上手くいかねーんだよな、これがさ。
昔のアイツは、皆が怖がったり嫌がったりすることを、平気でやれるようなヤツだった。しかもそれが、楽しそうでしかたなくって、オレはそれが羨ましかった。
オレにとって青は、いつだって誰も知らない世界が見えてる、すげぇヤツなんだ。
..............20130223