>恋人同士に見えるか、と聞かれればそんなことはないだろう。だからといって、姉弟にも見えない。
ルフィがああやって手を引くのは、たぶん、彼女だけで。それは、ルフィ自身ですら自覚の無いことで、だからこそあの二人は、ずっとああやって傍にいる。
「サボ、何してんだ」
海の家のロッジ、そのテラスでぼんやりしていたオレに、エースが声をかけた。
今は遅い昼休憩の時間。この海の家は、この休憩時間が終わってから二度目の修羅場がくる。冷たいスポーツ飲料をゆっくり飲めるのも、この時間くらいだ。
「あれあれ」
オレが、指を指してエースに見せた先には、ルフィと青がいた。
「あいつら、来てたのか?」
コイツは相変わらず、ルフィと青が手を繋いでても、特に不思議に思うどころか、気付きさえもしない。下手するとオレも混ぜろ、と手を繋ぎに行きそうなヤツ、それがエースだ。
鈍感なわけじゃないと思うが、基本的に鈍くある事を特化させたのがこいつだった。ルフィのアレは天然だが、エースは違う。
どんな事があっても、それで自分が傷つかないようにする。それが、オレから見たエースの、最も根本にある壁だ。そしてそれを、青も持っている。
「あれ?エースにメールいってねぇの?」
「いや……」
それは、珍しい。
青のことだから、エースには真っ先にメールをしていると思った。
これは、本格的に「もしかする」のかもしれない。
「オレが呼んでおいた」
「はぁ?」
「つっても、まさか今日の今日に来るとは思ってなかったけどな」
この「海の家」は、とあるレストランの系列で経営している。
そのせいなのか、この辺は別荘地も少なくないからか、単に海が綺麗だからという理由からか、とにかくここを訪れる人は多い。
昼間も火急を極めるが、夜はビアガーデンが開いてさらに輪をかけて忙しい。
近くにいるなら、手伝いにこれないか、というメールを送ったその返信が『今日、そっちに行く事になりました』だとは、思いもしないだろう。
『手伝えるかは、分りませんが』とも続いていたから、忘れているという事もないはずだ。ただ、あの状況で思い出せるかどうかは、はなはだ疑問とはいえ。
「エースはさ」オレは、なんとなく思ったことを聞いてみることにした。
「青のこと、どう思ってんの?」
「どう?妹だろ」
「あっそ」
あれだけ分りやすくアピールされておいて、気付かないとは鈍感以外のなんでもない。馬鹿だ、コイツは。ただ、青のアピールが、他人から見たオレには分りやすいとして、エースにとってもそうなのかは分らなかった。
エースと青では駄目だと分っているだけに、その返事には少なからず安心する。それでも、ルフィがいいというわけでもない。オレにはいつも、女は敵に見えるし、オレの大事な兄弟とも呼べる友人の傍に、その女がいることが許せないと思うときもある。
「そっくりじゃなければなぁ……」
思わず呟いたオレに、エースは不思議そうな顔をした。
「いや、こっちの話」
エースに似ていなければ、今になっても同情することはなかった気がする。
鈍感同士、時々噛み合うことがあるんだろう。それは、オレの知らないところだけど。例えば。
少しだけ、行動が似ていたりだとか。同じところであってしまう事があるだとか、なぜか言葉が伝わる、だとか。
そういう、好きになる、っていう手段もあると思う。
似たもの同士、傷には気が付き易いはずだ。一緒にいれば、楽もする。
(それじゃあ、ダメだと思うのは、オレのエゴだよ。どうせ、な)
オレの父親と母親は、そんな依存関係にあった。オレは小さいながら、そういうことを見抜くことにはよく聡かった。
「あの二人のところに行かねェのか?」
エースは、オレの言葉に生返事を返す。
「そうだな」
何を考えてるのか、ぼうっと二人を見るだけだった。
エースの考えている事が、透けて見えるわけでもなく。オレは、次に口が開くのをただ待った。手に持っていたペットボトルのスポーツ飲料が、もう温い。それに、中身ももう、ほとんど残っちゃいなかった。

「ルフィは青のことが、好きなんだろうな」

待っていた言葉とは、随分と違うものを返されて、オレは跳ね上がるほど驚いた。どうしてか、それをエースにバレないようにしなくちゃならなくて、無駄にいつも通りなそぶりを繕う。
「そうか?お前の言うように、キョウダイなんだろ」
「姉弟が手ェ繋ぐのか?それに、」
まだ他にも続けたそうだったのを、オレは無理矢理遮った。
「繋ぐだろ」
あの二人なら、ギリギリ姉と弟でも気にしなさそうだ。いや、青の方は分らないけど。
手を繋ぐこと以外を引き合いに出されると、オレは言わなくていいことまで言っちまいそうだった。口が軽いのは、生まれつきなもんで困る。
「……。そうだな」
一体急に、どうしたんだ。と、オレはエースに目線をやる。
「今更だろ」
「だな」
それに、そんな事に気付くなら、エースはもっと青から自分自身に向けられてる目を気にするべきだ。いや、気にしなくていいんだけど。どの道、見てる側は気を揉むわけだ。
「でもよ、それだけじゃねェ気がすんだよ」
それはそうだろう。あの二人は、そんなに簡単に友人をしているわけじゃない。
子供の部分を、周りと同じほどにすり切らす事が出来ずにここまで来てしまったルフィ。子供の部分をすり切らすことを忘れて、ここまで来た青。
「青は来年、大学を受けるんだろ?上手く合格して、友達も増えれば、ルフィとの付き合いも変わるだろ」
それは、エースに、というよりは、オレがそう思い込みたいことなのかもしれない。
「それは、ないな」
「なんだよ、エース。お前、オレになんていって欲しいわけ?」
オレは、溜息をつく。
そんな様子じゃあ、もう、いじけているようにも見えて、フォローにすら回り様がない。
「いや……悪ィ」
エースがばつが悪そうにするもんだから、オレは更に途方にくれた。
早く話題をそらして、あわよくば、この面倒な男をあの二人のところへさっさとやりたくて、オレはとうとう悪い癖を出した。
「青にはずっと、好きなやつがいるわけだしな」
「は?」
あ、口が滑った。
「そうなのか?オレ、そんなこと一回も……」
そりゃあ、そうだろうよ。
「まー。いるだろ、一人や二人」
なんとかそうやって誤魔化したが、オレは少し前の博物館の時並みに、青に罪悪感を感じていた。
ずっと黙っていた事をバラしちまうなんて、案外人間、単純に出来てるもんだ。なんてな。
「え、ってことは。そりゃあ、ルフィじゃねェってことか?」

ああ、もう、こいつ。めんどくせェ!

…………20130913
取り合えず、ここにマルコさんがいないのは救いだ。

DODO