>学生の、いつもと変わらないサイクルの日々。そこに、いつもと違うものが混ざれば、誰だって目ざとく気付くってもんだろう。それが、よく話す相手ならなおのこと。
最近、ルフィの様子がおかしい。
目に見えて、はっきりおかしい訳じゃない。多分、このクラスでそのおかしさに気付いてるやつは殆どいないだろう。文化祭の準備で舞台のセットを作ってるときも、昼飯の時も、一日最後のHRが終わった後だっていつも通り。
それでも、例えば。(オレがせっかく作りかけた)舞台のセットを壊すと思うほど乱暴に組み立ててるとき、ルフィは「楽しみだなぁ」を何度かうわ言のように呟く。その顔が、やたらと上機嫌になるほどには、まだまだ完成は先だっていうのに、だ。他にも、昼食の時。学校で一番見晴らしのいい場所を探して、最近は色々な場所を転々として飯を食べた。「ここでもない」「あっちでもない」と試行錯誤の末、結局あの単純馬鹿は高等学校校舎の屋上で落ち着いたようだ。今までそんな事がなかっただけに、これにはナミもサンジも、あのゾロまで首を傾げていた。そして極めつけは、放課後のこと。「あの」ルフィが、第二保健室(この学校はでかいせいで、普通の学校には一つでいいものがいくつかある)で頭を下げているところをオレは目撃しちまっている。そこの保険医のクロッカスが笑って何かを言っていたが、堂々と入って話を聞いていく勇気はなかった。
そんな事が何度か重なっていくうちに、ナミが突然オレ達に言ってきた。
「謎は解けたわ」と、得意げに。
当然、その場にいたオレ達は、ポカン、とする他にない。一体何事だ、という顔をしたのは、当然のようにその場にいたルフィも同じだった。
「ルフィ」
「おう!なんだ?」
ナミの威勢のいい声に、ルフィが、何が始まるのかとわくわくしてるのが手に取るようにわかる。そんないいモンじゃないと思うぞ。
「正直に答えなさい。と、言っても、アンタは嘘吐けそうにないけどね」
「だから、なんだよ?」
眉根を潜めるルフィの反応を横目に、くだらねェ、とゾロが横になった。そんな気のない振りをしたって、ゾロ君がちっとも眠らないのはお見通しだ。いつもなら「くだらねェ」
のゾロだって、ここ最近のルフィの異変には気付いている。
ナミは鋭く指摘するその言葉を指を突き出して言った。
「青さん、来てくれることになったんでしょ?」
ぴくり、と反応したのはサンジだった。どうやら、その、青という人に心当たりがあるらしい。当然、ごまかしや嘘がめっぽう不得手なルフィは、図星を指されたというあからさまな表情をとうとう隠しきれない。
「そうなのね?嬉しいっ!」
飛び跳ねて喜びそうなナミの傍で、苦い顔をするのはルフィだけでなく。珍しい事に、サンジまでも同じ顔をしている。
そしてそんな様子をぼんやりを見ながら、オレははじめて、青という名前に心当たりがあった事に気付いた。そうだ。名前までは頑として聞かされていなかったが、一人だけ、ルフィが本当に偶に相談を持ちかける相手がいた。それは確か、ルフィより一つ上の女の人のことだ。なるほど、名前は青っていうのか。
大方、ナミが「つれて来い」とせがんでいたのかも知れない。
「あんたにしては、様子がおかしいと思ったのよ」
と、得意げに語るナミに、ルフィは少し溜息をついた。
「文化祭の日まで黙っとくつもりだったのによ」
「そうやって、また、青さんだって教えてくれないつもりだったんでしょ!」
ぎくり、と目を見開くルフィいわく、当にナミの言うとおりだったらしい。
「でも、へぇ〜?あんたが会わせたくないってほど、とはますます面白いわ」
オレがそんな台詞に肩をすくめるのと、寝たふりをしたままのゾロが溜息をつくのは殆ど同時だった。つまりその意味は、またこいつの癖が始まった、ってとこだ。女子っていうのは、たいがい、噂話なんかが好きな生き物だ。あのカヨでさえ、やっぱりそういう話には、食指が動くときがある。
悪い、というつもりもないが、飽きないな、程度にはオレ達男子も呆れが出る。
「ま、諦めな。ルフィ」
オレには、取り合えず、その普段より下がった肩に手を置くしか、同情する術がない。
しかし、と。オレはまだ、内心で首を傾げていた。
それならばそうと、どうしてルフィがクロッカスに用事があったんだろうか。そのうえ、サンジの様子も気になる。
なんだかんだ隠したかったルフィには悪いが、こいつは、よくも悪くもこの学校では目立つほうだ。珍しく努力してみたところで、それは直ぐに徒労に消えるだろう。一体そこまでして、オレ達にすら隠したような心境、というのをどうにも想像できない。少しだけ「隠したい」考えだけなら理解できなくもなかったが、それとはどうにも違う様子だ。
「なぁ、サンジ」
オレは、唯一状況が分っていそうな男に、声をかけてみる。
「その青って人、知り合いなのか?」
「……ああ、まぁな」
下手すれば開きそうにないと思っていた口が、あっさり答えた事に驚く。
「ルフィは、あんだけ名前教えちゃくんなかったのにな」
一度開いた口を、閉じさせるには勿体無い。オレは、会話が途切れないように続ける。
「まぁ……そりゃ、いろいろあんだろ。あいつなりに」
あいつなりに。つまりサンジには、なんとなく心当たりがあるらしい。
「カヤと同じ学校の人か?この辺で名前を聞くのは、あとは男子校とそこくらいだろ」
なにせ、とにかくこの学校がデカイ。周りに学校が建っても、需要なんて皆無だろう。必然的に、お嬢様学校と呼ばれるような女子校と、ルフィの兄貴が通っていたという男子校以外に、想像できる学校はない。
まさか文化祭のために、あるいは何時間もかかるところからくるとは思えない。それに、ルフィの今までの話では、そうそう遠くに住んでいるわけでもなさそうだ。
「いいか、ウソップ、それから、そこのマリモ野郎」
突然、眉間にしわを寄せたサンジが、潜めた声で鋭く言い放つ。
「彼女に、学校に関してのことを一切聞くんじゃねェぞ。でなけりゃ、オレは、お前達を蹴り倒すからな」
やはり、馬鹿馬鹿しい、とゾロは鼻を鳴らしただけだ。オレは、その声色にひたすら、首を振って頷く。
サンジがそこまで凄むほどの何か、事情があるんだろう。保健室に顔を出していたルフィを思えば、もしかすると、物凄く病弱だとか。だからこそ学校には、行きたくても行けない、とか。
オレは、そこまで想像をめぐらせて、そして諦めた。
どうしたって、答えはでないことで。それに、なんとなく、それ以上勝手に想像する事すら、サンジに蹴られる理由になりそうだった。

Next>>b

DODO