>広い校舎。広いグラウンド。
校舎は大きく四つも建ってる。そんで、それに挟まれるように、三つのグラウンドがある。どんだけ広いつっても、オレは、この学校に入ってから直ぐに殆どの場所を探検し尽くしてる。五年もたった今では、知らないところなんてない。と、思う。
学校は当たり前の場所になったし、今さら新しい発見もない。五年もここにいたけど、こんな気持ちになったのは久しぶりだった。
青がここに、遊びに来る。それが、オレはすっげえ楽しみで仕方がない。
高校校舎が、中でも頭一つ分高い。そこから中庭やグラウンドを見渡すと、なんとも言えない気持ちになった。こんな気持ちも、初めてだった。
あいつが来るのは嬉しいけど、でも、なんとなく来て欲しくないとも思ってた。だから、ナミに青を連れて来いって言われたときも、それを理由に青を誘ったときも、なんっつーか、どうやっても、胸んトコがぐるぐるして、気持ち悪くて。でも、青は来てくれるって、それはホントに嬉しかった。変な感じだ。ほんっとーに、変な感じなんだ。
『いかない』
エースの話をした途端、機嫌が悪くなった。
オレは実はちょっとだけ、青がエースを避けてる気がしてた。だから、多分、わざとあんな風に言っちまったんだと思う。そんで、泣かせた。
ナミもよくオレに言ってたことだったから、オレは青がエースの事を好きだってことで変に首を突っ込まない。そういうことされんのは、あんまりいい気がする事じゃないことくらいは、オレにだって分ってるつもりだった。
でも、このままの二人でいてもらっちゃ困る、事情ってやつがオレにはある。余計なお世話なのも、オレみたいなのにどうこう出来ることじゃないってのも、分ってんだ。ほんとは。分ってるはずなのに、自分でも何をしようとしてんだろーな。
「ルフィ」
屋上入り口の扉の音がして、名前を呼ばれてやっと。オレは、口に咥えたままのストローの、その紙パックがぺしゃんこなのに気付いた。
「なんだよ、ウソップ」
「何はないだろ、何は。どうせサボってどやされる前に、迎えに来てやったんだよ」
ウソップの言ってることは多分、半分嘘だ。
教室はもう、週末の文化祭に十分間に合うほど、準備が終わってる。ウソップは手先が器用だし、何でも作れるから、そういうのが得意なやつらと一緒になって、ずっと飾りやら小道具ってやつを作ってたはずだ。そのウソップがこうしてオレを呼び戻しに来るんだから、戻ったってすることなんか殆どない。
「呼び戻しにきたんじゃねーのか?」
思ったとおり、隣に座っちまったウソップにそう言ってやれば、鼻で笑われた。
「戻りたきゃ、戻れよ」
なんだそりゃ。
「戻ったって、暇だろー?」
「まぁなぁ」
週末は、多分晴れる。エースが、天気予報を見て教えてくれた。
青は、来てくれるはずだ。エースが、一緒に連れてくるって言ってた。
そしたら、オレの部活の屋台で食券を使って、一緒に飯を食う。もちろん、この屋上で。ほんとはサボも誘ったんだけど、その日はどうしても無理らしい。
あいつは人が多いとこダメだから、きっとここなら大丈夫だ。もしなんかあっても、第二保健室がある。エースも、いる。そんで、しょーがねェから、ナミ達にも会わせる。
「その青ってよ」
「ん?」
ぼーっと、文化祭の用意をしてる校庭を見てた。ウソップも同じようにしながら、聞いてくる。

「お前、好きなんだろ」

ずこっ。紙パックが、さらに小さくなる。
最後の一滴でも入ってれば、と吸い込んでみた。けど、やっぱりもう中身なんて残ってねェ。
「お前がオレに時々言ってたやつって、青ってやつなんだろ」
エースは、オレに女のことは女に聞けって、教えた。オレは、それは勿論そうしたけど、オレの事はエースには言えなかった。兄ちゃんで、同じ男でも、エースにだけは言えなかった。
代わりに、ウソップだけには、その話をした。名前を教えたことはねェから、さっきの話で気付いたんだと思う。
「……気持ち悪ィ」
うまく言えない感覚は、その一言にするに限る。
ウソップだけは、なんとなく、オレの言いたいことが分った。ウソップにはカヤって彼女がいるせいかもしんねーし。そこは、わかんねェけど。
「エースさんも来るんだろ」
「あぁ。呼んだ」
「お前、ほんとに馬鹿なんじゃねーか?」
「うるせー」
いつだったか、オレがエースに言った。青のこと、姉ちゃんだって思ってないって意味は、きっとエースには伝わらなかった。伝わっても、エースにとっては、そんなことはどうでもいいんだ。オレには、わかる。
ウソップが言う、好きとかそうじゃないとか、それには頷けねーんだけど。
「……好きとかって、よ」
わかんねーし、考えたくもねェ。続きが上手くでて来なくて、唸った。
「お前には早すぎる話かもな」
ウソップは、馬鹿にして言ってるんじゃない、はずだ。考えなくていいって、意味なんだろ、きっと。
「お前は別に、どうせ周りのことなんか結局関係なしなやつなんだ」
それにはオレも、笑うしか出来ない。にしししっ、と声がでた。
「オレが何言ったって、そうやって笑ってんだろ」
ウソップは、呆れてた。でも、笑った。
そうだ。どうせ、オレは文化祭も、エースが遊びに来ることも、青が来てくれることも、嬉しい。
ごちゃごちゃ考えたって、それが答えになるような脳みそなんて持ってねェ。まだ変な感じはすんだけど、それは、うざったくて嫌な時もあんだけど。そういえば、別に、無くなって欲しいなんて思ってねー気がする。
それに、そうだ。今日は確か。
「楽しみだなっ!」
「だな。おれ等の教室が一番盛り上るんじゃねーか?」
ウソップは、ただでさえ高い鼻がもっと高くなる。けど、オレが言いたいのはそっちじゃねーんだ。
「食券!」
今日の帰りに配られるはずの、小さな紙の束。それが、オレの頭んなかで焼き鳥になった。

………140201

DODO