>オレの部屋には、モノで使う場所もない勉強机と、ちっさい折り畳みのテーブルがある。
その小さいテーブルを青と囲んで、今日は珍しく参考書以外の物が広がっていた。『日帰りドライブ』だとか『春のお出かけ特集』とかピンクのでっかい文字が目に痛い。青曰く、家庭教師に貰ったんだと。
青の家庭教師はエースの友達で、シャンクス(青の父ちゃんっていう説明は、もうしないからな)が一目置いてるってゆー奴だ。エースとは友達だけど、あっちはもう社会人なんだってよ。
「えー……ヤダ」
それはともかく。
今は、青とエースと今度出かける場所を、どうやって海にするか。だ。
「ヤダって、もう…。るふぃぃ……」
青は大きくため息をついて、机に頬杖をついた。「いい加減にしてよ」って、口にして言われなくったって、見ただけで分かるような顔だ。
そりゃ、まあ。わがまま言ってるジカクくらいは、ある。
だけど、青だってエースだって海が好きなんだから、別に「どこでもいい」行先にどうでもいい場所なんて選ばなくてもいいだろ?
確かに、寒いかもしんねェけど。
「オレは海に行きたい」と、やっぱりそれだけ主張してみたけど、青は「駄目」の一点張り。
しかも、その理由っていうのが、オレには更に気にくわない。
「エース君もダメって言ってたじゃん」
ほら、これだ。すぐに、これだ。
だって、もしエースが何も言ってなくて、オレと青と一緒に遊びに行くだけだったら、絶対に海のことだって考えてくれたはずだ。
「エース、エースってよ……」ああ、ほんと!こういう時は面白くないったらない。
ぶつぶつ文句を言うオレに、青は小さくため息を吐いた。吐きたいのは、オレの方だ。
「だって、連れて行ってくれんの、エース君なんだよ?」
そりゃ、そうだ。
青の言ってることは、間違ってない。だから、オレのコレはわがままだってちゃんと分かってる。
そりゃ、そーなんだけど。
「それだけじゃ、ねーくせに」
「え?」
オレは机に頭をつけて、青に顔を見られないようにした。
すっげェ嫌な顔をしてるのが、自分でもわかってた。オレだってべつに、せっかく楽しいこと決めようとしてんのに、喧嘩とかしたいわけじゃねーからよ。
だからそのまま、声は籠っちまったけど、話を続けた。
「エースが海行きたいって言ったら、行くって言うくせに」
青の顔は、当然オレだって見えないんだけど。何も言い返さないってことは、そういうことだ。
でも、あんまりにも青がずっと黙ってるから、オレは少しビクビクしながら頭を動かして見た。
その顔は、なんていうか。
困ってるようにも見えたし、照れてるみたいだったし、少し悲しそうだった。
オレが想像してたのと、そんなに変わらない顔だった。青はいっつも、エースの事を考える時にこんな顔ばっかりしてっから。
「海、お願いしてみる?」
青は困ったように笑って、オレにそう聞いてくれた。
エースの事を考えてるような。つまり、エースのことが好きなんだっていう、そんな顔をさせた時。オレは、決まって腹の底が痛くなる。
もうずいぶん前にソレを相談した、その相手だったナミが言うには、これは罪悪感ってやつらしい。それからオレは、これを何度も何度も味わってる。
分かってたって、理解出来たって、止められないことだってあるんだ。
「もしかすると、海の近くで遊べそうなところもあるかもしれないし」
でも、間違っても。
オレは青のことを悲しませたいわけでも、辛くさせたいわけでもない。
「別に……」と、取り敢えず、それだけ返事が出来た。
机に押しつぶされて、頬っぺたが痛かった。
「ほんとは、どこでもいーんだけどよ。そもそも、オレだってエースと久しぶりに遊びに出るし」
大学生になってから、エースはますます大人になったと思う。
オレには、結局なにをしてたって、やっぱり一番にかっこよく見えちまうのも兄ちゃんだ。
「でも、もう一度お願いしてさ。それで駄目だったら、の場所を決めようよ」
青はなんだかんだで、オレに甘いと思う。
我儘だって、実は結構聞いてくれてる(ってことを教えてくれたのは、もう一人の兄ちゃんだったんだけど)。
エースのことが好きなことは知ってるし、オレはそれが上手くいかなかったとしても、そんなことは関係ない事だと思ってる。万が一、億が一、上手くいったとしても、だ。
それなのに、オレはそれが最近、なんだか面白くない事なんじゃないか、と気づいちまった。ナミにそのことを話せば、勝手に色々言ってくる。あいつらの言いたいことは置いといて、上手く言える事じゃねーんだけど、とにかくオレにとって面白くない事なんだ、きっと。
だからって、オレに何ができるのかもわかんねーし。
分からん、ばっかりで嫌になる。
そーすっと。やっぱ、楽しい事だけ考えときゃいいかなってなるわけだ。
「じゃあ、そんときはココにしよう」
オレはやっと体を起こして、笑って言った。指を差したその場所は、青が好きな博物館だ。
少し離れた場所にあるから、なかなか行けないんだ、って言ってたのは覚えてる。
「いいの?!ルフィ、つまんなくない?」
そんな風に聞いてくるくせに、他の記事なんてもう見てない。きっともう、そこに行くこと以外考えられないに決まってる。オレなんか当たり前に、行きたいところ以外のことは、あんまり考えたりしない。
青が嬉しそうに、雑誌の写真を見つめてて。オレは、どこに行くことになっても、まぁいいかなって思った。
……………20130322