>彼女は知っているのだった。
海賊は陸を海から攻め、ものを奪い、命を殺す。彼女の故郷では、そうやって何人も何物も奪われた。すべて、戻らない。彼女の家族は、戻らない。
それから、ものを持つことに興味を無くしてしまった。必要なものだけ、必要なときに、必要なぶんを。それは、皮肉なことに陸での生活よりも、海でのそれにあっていた。それだけのこと。
「綺麗事だね」
それを言われた男は、表情を僅かに変えて、首をかしげた。悪びれない、表情だった。
「海賊がか?」
「じゃなくて、わたしたちが」
「ほーか?」
男は、ルフィは口一杯にホットドッグを頬張って、彼女のとなりを並んで歩いた。
何処とも知れない、港町だ。彼女の乗る船は、久しぶりの陸への停泊だった。
「どこが?海賊だぞ、俺たちは」
ドロボーだってしたことがある。と、ルフィは胸を張る。
そういうところは、少し怖いくらいだ、と彼女は思う。取り敢えず、海賊が行うのは強奪なのだという訂正はいれないでおいた。彼にとって、強奪は少し違うのだ。
「あ、あれ美味しそう」
「お!あれ、買おう!」
二人は特産品と書かれたのぼりの下に、お好み焼きに似た食べ物を見つけた。
彼女は上手く、話をそらして見せた。彼相手では、それは造作もなかった。
「半分ずつね」
「えー?!一個食いてぇ!」
「おい、お金は誰が出してやってると思ってんだ」
ケチ!そう詰られても、彼女には痛くも痒くもない様子で、買った一パックをルフィに渡して寄越した。
「一口くらいは残してよ」
「わかった!」
どうせ半分も入らないから、
と笑う。その顔を見て、ルフィは少しだけ押し黙った。
パックを開けて、大きく半分に中身を切り分ける。そのうえ豪快にその半分を箸で持つと、彼女の目の前にそれを突き出した。
「ん!」
いさぎいい程の気前だったが、それがルフィにとって相当な決断だということは分かりやすい。
突き出しておいて、自分の口が大きく開いてしまいそうなのを我慢しているようにしか見えないのだ。
「ど、どうしたの?」
「いいから、食え!一口!」
いや、一口なんてサイズじゃない。そんなに開く口を持ってるとでも思われてるんだろうか。それ以前に、いいから、とは人の金で買っておいてどういう了見だろうか。
と、そのすべてを飲み込んで、彼女は顔を歪めた。
何か裏があるに違いない。そう、思えて。
「いいんだよ?気にしなくて。というか、ここ、道端だし」
「うるせえっ」
「むぐっ!?」
勢いよく突っ込まれたものを、彼女はやっと一口だけ受け止めることができたが、残りはぼたぼたと箸から溢してしまう。
珍しく気を利かせたルフィが、パックを受け皿にしてくれて事なきを得た。
「食ったな。よし」
「はにふんの…」
もぐもぐ、口を動かす彼女に、ルフィは大きく笑って返す。
「オレ、お前のこと嫌いだなぁ!」
「ぶん殴ろうかな!?」
事もあろうに、歯に衣を羽織らせもしない台詞に、何も感じないと思われてるんだろうか。そう、彼女は頭を抱える。
「私だって、傷つくんだけどね」
「だよな!よかった」
「もー…なんなの」
しししっ、といたずらっぽく笑うルフィを見て、ため息をついたのはそんな彼に対してじゃなく。
どうしても、許せてしまう彼女自信に対して。
「うそ」
「は?」
「嫌いなわけねーだろー!」
「ひでぇ…!」
なんて男に付いて行くと決めてしまったんだろう!
簡単にずけずけと、側に寄ってはヒトをからかって、気持ちを拐ってしまうような男だと。
「お前が変な顔するからだ。オレ、その顔好きじゃねェ」
「て言われても、自分じゃわかんないしなぁ」
とにかく、食ったんだからそんな顔すんなよ。と、ルフィは強く言った。
「もう、お前はオレの船に乗っちまったんだからな。だから、お前は逃げられねェんだぞ」
「なんの話だよ」
「ん。何となくだ」
彼女は笑って、その自分より大きな手を握った。その、骨ばって、血管が見える甲にキスをする。
驚いて目を丸くする瞳が、こぼれ落ちてしまいそうだった。ルフィは、小さく開けた口で、息を飲んでいた。
「ルフィは、もう、私を捨てることなんて出来ないんだからね」
いたずらっぽく笑う彼女に、どうやって仕返しをすればいいのか、彼は知らないのだった。
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DODO