>好きだ、好きだと繰り返すのが馬鹿みたいだと、青は思った。でもそれは、羨ましい、という浅い思いから来てることも分かっていた。彼女には、それができない。
ルフィは笑顔で言う。
「もちろん、好きだ」
ナミのことを好きだ、という。その前には、ロビンのことも好きだと言った。
わたしも。と、青は言っておいた。勿論そこに嘘はないし、下手すると ルフィよりも好きである自信があった。けれど、それは「好き」の言葉一つで表せるものでもない。おんな同士の友情はかくも複雑なのだ。それを、目の前の男に理解できると青は思ってない。
「で?」
どうした?と、言いたげな、大きな丸い瞳が2つ。青はそれに、何でもない。と、首をふった。本当になんでもない、確認作業だっただけの話。
そんな、確認のなかで女の名前があった、それだけのこと。ナミやロビンは、彼女にとって特別で、けれど複雑なことに特別な不安をくれる存在でもあった。
「一昨日は、ブルックだったよなァ」
何でもないルフィの呟きに、青は、どきり、心臓が跳ねあがって飛び出そうな思いがした。
「その前は…いつだか覚えてねェけど。サンジとか、ゾロとか。チョッパーとか」
「あははは…」
一度に聞くのは不自然か、と間を開けて聞いていたのに。そう、青は内心で舌打ちをする。
案外この男、抜け目がないのだ。それを失念していた。
「なんとなく、聞いときたかっただけ」
ルフィにとって大事な物が、青の中にある浅くて軽い嫉妬なんかよりも意味があるのだと確めたかった。
ルフィが「大切だ」と言えば、同じだけ頷けることを、確かめなくては、と彼女は唐突に思った。それが、半月ほど前のこと。
「そっか」
ルフィが笑った。青も同じように笑い返せた。その事に、誰よりもほっとするのは青自身だ。
甲板の芝生の上に、ルフィはグッと背伸びをして寝転がる。青はその横で体を起こしたまま、空を仰いだ。
伸ばした足を覆うボトムス越しに、熱い日差しが照りつけて「暑いなぁ」と言葉が漏れる。
「そーだな。夏島でも近ェのかもなァ」
ルフィはそんな呟きに、律儀に返事を返した。 それから、日差しを避けるようにして、麦わら帽子を顔の上に乗せる。青は麦わら帽子をじっと見つめながら、膝を抱え込んだ。そのまま、ぼんやりと考えるのは、やっぱりルフィのことで。
前を向いて立ち止まらない船長を好きな気持ちと、いつも天真爛漫で優しいルフィが好きな気持ち。青の中で、それはいつもグラグラと頼りなく揺れる。
もしも、その天秤の重さが大きく変わることがあれば、と彼女は思う。ルフィのことが、誰よりも好きで、それがもう誤魔化せなくなった時には。
「じゃあ」
ルフィがいきなり声をかけてきたせいで、青はぼんやりとした意識をかき集めなくてはいけなかった。
帽子の下で、ルフィがどんな顔をしてるのか、勿論彼女に分かるはずもなく。
「明日か?」
「え?」
一体何の話だろう?青が首を傾げてルフィを見たところで、麦わら帽子からでは何も透けて見えないと分かっていた。
「明後日?」
「ごめん、えっと…なにが?」
「だからァ」
それでも、その後に続く言葉をルフィはちっとも口にしないのだ。
青はルフィの続きを待って、先を急かしたりはしなかった。ルフィが言葉をを探すとき、時々時間がかかることをよく知っていた。
「だからよォ…」
「うん」
「青の番はいつなのかって話」
うん?と、傾げられた小首が見えるはずもなかったが、ルフィにはその雰囲気が伝わっていた。
ぼんやりとしていたせいか、それでもまだ青にはピンとくるものがないことも。
「だーかーらァ!」
がばり、と起き上がったルフィの、その顔から転がる麦わら帽子。青はそれを目で追って、近くでちゃんと動きを止めたことに安心する。それから、ルフィの方へ視線を戻して、小さく飛び上がるように驚いた。
ルフィの、怒ってるようにしかめられた顔が、彼女の方を見つめ返していた。
「お前!分かってて分かんない振りしてんのか?!だったら、怒るぞオレは!」
「なんで?!」
「……。ほんっとーに、わかんねェんだな?」
ルフィが、こんなに答えを渋ることなんて、実は凄く珍しいんじゃないか。と、怒ったルフィを目の前に、青はのんびり考えた。
「だからよォ。おめー…。…青のことも好きかどうか、聞くんだろ?」
「えっ……あー……はははっ」
一瞬、青はルフィの口にした「好き」に驚くほど反応して、けれどよく噛みしめれば、それは空笑いになった。
何を馬鹿な期待をして、挙げ句ガッカリしてるんだ。と、恥ずかしくなったのを誤魔化す様に。
「なんで笑うんだよ?」
クイッと、ルフィの眉が持ち上がる。
本当に怒り出しそうなその雰囲気に、青は慌てて口元を引き締めた。
「だ、ダイジョブ!聞かないから!」
「ハァ?」
「えぇ!?」
怒らせないように答えたのに、と。ルフィがとうとう、本気で怒ってしまったのを見て、青の背中を冷や汗が伝う。
「何でだよ!聞けよ!今聞け!」
「何でだよ!?」
思わず声を大きくしてツッコミを入れた青に、ルフィは真剣な顔のまま口を真一文字に接ぐんでいた。
それが、小さく開く。
「聞けって」
とうとう笑っていられなくなって、青は耳まで真っ赤にして俯いてしまう。
ルフィを正面に見つめあう、なんて事すら彼女にとっては高いハードル。ましてや、「好き」という一言を、そこにどんな意味が無かったとしても、口にするのは辛くさえもあった。
「き、聞かなくても分かってるから…」
やっと絞り出して、言えたのはそれだけ。
ルフィなら、口にしなくてもみんなと同じように好きでいてくれる。そう、青は思っていた。
「ふぅん?」
ルフィは、目を細くする。
「あっそ」
それから、青の俯いた顔を下から覗き込んだ。
「へぇー?」
ばっちりと噛み合った視線に、青は身を引いて「なに?」と聞く。
「なんでもねーよ。…んでもよォ……」
うんうん、と頷くルフィが何を考えてるかなんて、誰にも分かるはずがない。
「じゃあ、お前」
今まで、こんなに意地の悪そうなルフィの笑った顔を見たことがあったっけ?そんな青の思いを、蹴散らすかのような一言が言い放される。
「オレのこと、好きか?」
「!」
口をパクパクと、呼吸を忘れる青を見て、ルフィは「ししし」と笑った。たかだか、何でもないこと。少しすまして、「好きよ」と言えば良いだけのこと。
けれど言葉も出なくなって、泡を吹いて倒れた方がマシ!と、抱えた膝の殻に籠る青と。その殻にずっと、ルフィは声をかけた。
「なぁ、なぁ?おめーだけ聞いてたらズルいだろ!」
………20130220
好きなら好きで良いじゃん
DODO