>手が足りなくて困ってる。と、いわれて、手伝えることなら。と、快く承諾したのは、昼食のオムライスを食べ終わった後だった。
ウソップの作業は、まるで計画性のない実験のようで面白いし、私はその手伝いをすることが(なにがあるかは分からないにせよ)嫌いじゃない。酷い目に遭ったことは一度や二度じゃないけれど、面白さに比べれば「熱さも忘れる」ものだ。
ウソップに教わった手順で、もはやなにを作るのかなんて知らないけれど、色々な薬品を混ぜていく。
ある作業まで終えると、新しい試験管にそれの繰り返し。三つ目を作って、手順が頭に入りだした頃、チョッパーが興味しんしんで私の隣に腰を下ろした。

「なに作ってるんだ?」

キラキラした大きな瞳からの視線は、私の持つ青色をした試験管に注がれていた。
「いや、わかんない」
「ええ?!」
驚くチョッパーに苦笑いを返す。本当に、知らないんだから言い訳のしようもない。
「ウソップは?」
「本部でなにか作業中。もしかすると、またなんか面白いもの作ってるのかもね」
「なるほどなー。ウソップって、すごいよなァ・・・。ところで、オレここでこれ見ててもいいか?」
もちろん、と返事をすればチョッパーは「よかった」と笑った。それから、飽きもせずずっと、わたしの作業を眺めては、時々海の方を見たりしていた。
「あ、寝ちゃったか・・・」
最後の試験管を試験管立てに入れて、ふと、隣の小さな呼吸を聞いて気づく。
いつから寝てたのかは分からないけれど、気にならないほどのつつましさが、彼の愛嬌さだ。仕方ない、と小でんでん虫(船内無線)でウソップに作業が終わったことと状況を説明して、わたしはそこで初めていつの間にか日陰ができてることに気が付く。
側にはパラソルが立っていて、そんな気遣いができるクルーを一人だけ思い浮かべていた。
すぐに、品のいい靴底の音が聞こえて、そこには思い浮かべたとおりのひとが立っていた。
「青ちゃん、終わったのかい?」
「あ、やっぱり。これ、サンジがさしてくれた?」
集中してて、全然気が付いてなかったからね。と、笑われては、わたしも少し恥ずかしかった。
ナミやロビンほど自分のことに気を使うつもりがないわたしには、女らしさ、が欠ける。それを時々ほじくり返しては、きっと少しだけ楽しんでるところがあるのは、サンジだった。
年齢云々言うつもりはないけれど、年下のくせに、と思わないでもない。一つ違うだけ、とはいえ。
「これ、どうぞ。ウソップの仕事なんて手伝う必要ないんだぜ?」
「これ、もしかして抹茶?ありがとう、嬉しい!」
そのトレーから緑色の冷たいジュースを受け取れば、どういたしまして、と柔らかな物腰が返事をする。
「これはわたしが好きでやることだから、いいの」
「それなら、オレは青ちゃんが怪我しないように気をつけとくよ」
サンジは笑ってそれだけ言うと、キッチンの方へ戻っていった。
彼の優しさは、やっぱりわたしには少し余りすぎて恥ずかしい。いつかナミやロビンのように受け止められるようになるだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えながら動かずにいると、ウソップがやってきて小声で言う。
「青、ありがとな」
「どういたしまして。楽しかったよ」
「あとこれ、サンジが」
渡された毛布にお礼を言えば、ウソップはチョッパーの方を見て笑っていた。
「これじゃあ、動けねぇもんな」
「全くだ」
わたしは頷いて同意する。
それじゃあこれは貰っていくからな。と、ウソップが試験管を運んでしまったあとは、わたしもする事がなくなってしまっていた。
かわりに、毛布から、すぐ側の暖かい温度から、どんどん眠気がやってくる。
「夕方になれば、誰か起こしてくれるかな」
チョッパーを抱え込んで、いつものような日差しの中。それを遮る白いパラソルの下。よくあるお昼過ぎのこと。


***


オレがちょっと息苦しくて目を覚ましたときに、目の前にあったのは真っ赤な色だった。すぐにそれがルフィだとわかるのは、俺の鼻がよく利いたからだ。
それから、オレを背中の方から抱き抱えてるやつもすぐにわかった。青だ。
オレが目線をあげてルフィの顔を見ると、ばっちり、その目と視線が合う。しししっ。と笑うその顔がおれは好きだ。

「青、寝ちまってるな」

ひそひそ、とルフィはオレに話しかけてきた。
ルフィは、オレを挟んで青をしっかりと抱きしめてるみたいだった。
「きっとオレが先に寝ちゃったから、動けなかったんだよ」
「バカだなー、青は。チョッパーを起こせばいいのによ」
青の寝顔を見て、ルフィはやっぱり笑ってる。
すっかり寝入ってるのか、青はちっとも起きそうにない。それをいいことに、ルフィは青のほっぺたをフニフニと触った。
「そんなことしてると、起きるぞ」
「起こそうとしてんだよ、オレ」
でもそんな触り方じゃすぐには起きないよ、なんて。オレだって言わなくていいことくらい、分かってる。

……………20130118
DODO