>ああ、たぶん。
砂の国と呼ばれるこの場所で、見渡す限りの黄金色の砂の中で、月明かりの下あの人の赤い髪ばかりが揺らめいて、それは蜃気楼にしては確かすぎる存在だと知った。
きっとあの人の事が、憎くて仕方ない私。両親を殺されたことは憎くて仕方がないはずなのに、わたしは。
この風の里を囲う土壁、その向こう側の砂の海。そのうえで、一体あの人は何を見ているのだろう?人に自慢できるほどもない私の、唯一とも呼べる視力の良さ。そんな両目が捉えるのは、笑っているように見えるその表情で。

独りで立つことの苦しさは、本当のところよく知らない。世界でたった独りぼっちになったと思ったあの日、私にはそれでもここまで生きてこられるだけの支えがあった。世界でたった独りぼっちだなんて、そんなことはきっと、この世界に他人がいればあり得ない話なのかもしれない。独りだと、思いこみ閉じこもることさえしなければ。そう思うことは、わたしがやっぱり幸せだというそういうことなのか。
あの人は、どう思うだろう。きっとあの人も、世界でたった一人だと思う夜があったはず。どんなに近い人も、殺してきたと聞く。人を殺すことを知らない私とは、到底比べることもできない思いがあったのかもしれない。
それでも、と前置くことが許されるのなら。
それでも。私は世界でたった独りぼっちの夜を。あの人が過ごした夜と同じその夜を、過ごしたのだと思いたい。

この砂の海の向こうには、緑の豊かな土地がある。私は、この里を離れてそこへ行く。幼いころから夢見た、一面が緑の、雨が惜し気もなく降る、日差しが温かい土地へ。
ここから見るこの月景色も、あと数回で見おさめることになる。ここから見る、あの人の姿も。
右手と左手で、長方形の枠を作る。そこから、赤い髪のあの人を覗いてみた。この中に閉じ込めることが出来れば、私はなんの未練もなく、この熱い土壁を越えていける。いつも、眺めることが出来るのなら。なんの、躊躇いも、迷いも、なく。けれど、きっとあの人は、この壁の内側で一番偉い人になる。


ああ、たぶん。わたしはあの人の事が、少しも憎くない。わたしは、だって、あの人が。


そんな筈もないのに。
長方形の枠の中の、あの人が私の方を向いて、笑っているように。見えた。

――――――――20110511:20130216
花も鳥も、風も月も。生きてるって。
レミオロメン「花鳥風月」
DODO