皆で酒盛り
ここは緑の国の執務室だったはずの部屋。
本来ならユビテルが職務を全うするはずの此処は、今や宴会場となり果てている。
そこで肩を組んで喧嘩しながらめちゃくちゃうるさくしてるのがプロミネとフルミネ。笑顔でお酒を胃に入れ続けてる酒豪がユビテルとリプカ。散々暴れてから爆睡してるのがモルニィヤ。涙が止まらないのがフェゴ。
今現在この場で全くの正気なのが僕一人なので、状況報告は僕、ティエラがやっていくね!
何故こんなことになったのかと言うと、遡ること二時間前。
ユビテル主催で和気藹々な龍族で集まって飲もうということになり、急遽僕達は緑の国に集められた。
考える程の事でもなく、阿鼻叫喚からの死屍累々な結果が目に見えていた僕は大人からの悪いお誘いを断り続け、現状になるまで見守り続けてたんだ。こんなに四文字熟語のみで終わらせたい事ってないよね!
最初は介抱しようと思ったよ? でも無理だよ。数が多すぎる。
「おいちっこいのー! そこの酒持ってこい!」
「さっさとしろよガキー!」
「もー、うるさいなーキャラ被りなんだから連続で喋らないでよー」
「「あんだとコラ」」
言うまでもなくプロミネとフルミネだ。こんな大人にはなりたくないシリーズの仲良しツートップに仕方無くお酒を渡して僕は絡まれないように距離を取った。
「あはは、リプカ、またお酒強くなったんじゃない?」
「そうかしら? 今日はユビテルを潰すまで潰れないわよ」
「臨むところだね」
酒豪二人の周りに並ぶ瓶の数が一二三……やめよう。この二人に近寄ると匂いだけで気分が悪くなってくる。
「スー……スー……」
「うっ、本来なら年長の私は二人を率先して導いていかなければいかないと言うのに……ぐすっ、情けない……先代、申し訳ございません……」
壊れた色んなものに囲まれて安らかに眠っているモルニィヤの隣で、大きなフェゴが日頃の懺悔を口にし、円らな瞳からボロボロと涙を零していた。
モルニィヤは予想通りだけど、フェゴは何か深い事情がありそう。これ以上聞くと悲しくなってくるから逃げよう……
あ、にーちゃんとショコラも勿論いるよ。僕同様、結果が分かっていたにーちゃんはショコラを連れて離れた場所にいる。
僕、にーちゃんがお酒飲んでるの見た事ないからさすがに予想出来なくて、地味に飲んでるのを一番観察してみたんだ。
僕の予想は、その一、見た目通り普段と変わらない。その二、意外に弱くて直ぐに眠くなる。その三、日頃の怒りが爆発する。
ここで問題です! 結局どうなったでしょうか!
「ふふ、エス可愛いー……」
「うるせえ」
二人は大きなソファーの上。
にーちゃんはショコラの膝の上に頭を預けるという全力で羨ましい状況。
正解はまさかの甘えたでした! 目に毒だね! 今すぐ退けて代わりたいな!
飲みながら最初は変わらず真顔だったんだけど、どうやらだんだん眠くなってきたみたいでウトウトし始めて、それを隣で少しだけお酒を飲んで大胆になっちゃったショコラが膝を叩いて誘導してたんだよね。
にーちゃん、普段なら何考えてんだコイツ頭大丈夫か? って顔して即拒否するだろうに、めちゃくちゃ素直に膝枕を了承してたんだよね。
寝転ぶ前に、別に使ってやってもいいけど、みたいな事言ってたけど、もしかしてにーちゃん、ツンデレっていうやつなのかな。デレが無さすぎてただの無表情だと思ってたから、お酒飲むと意外にチョロいんだなって思っちゃった。弟ながら悪い言い方しちゃってごめんねにーちゃん!
ふわふわさらさらとにーちゃんの髪を撫でては周囲に花を飛ばして幸せそうなショコラと、撫でられて満更でも無さそうなにーちゃん。……にーちゃん、それどこふにふにしてるの?
「にーちゃん、さすがにセクハラだよ!」
「は? コイツは俺のもんだろうが」
「理由が横暴だよにーちゃん!」
寝返りを打ってショコラのお腹側を向いているにーちゃんは、ショコラのお腹の肉を摘まんだりつついたりしているのだ。
お前もっと痩せろよ、とか、好きなだけ食え、とか、どっちなんだよっていう台詞を眠そうな声で言うにーちゃん。これで本人に記憶が残ってたら後々自己嫌悪に陥るんだろうな。
「うん! もっと痩せる! 食べる!」
うん、ショコラもちゃんと返事しなくていいからね?
そんな嬉しそうな顔で笑うとあんな大人にはなりたくないシリーズの二人がやってきてしまうよ?
「テメー、元々美味しいポジションの癖に何が膝枕だ!!」
ほら来た。フルミネ参上。
「おいショコラ、お前も嬉しそうな顔してんじゃねぇ。意味分かんねぇ事言われてんだから」
勿論プロミネも参上。
「貶そうが褒めようが勝手だろ。どう扱っても俺の獲物なんだから」
あ、獲物って言っちゃってる。本能抑えてにーちゃん、まださっきの横暴な台詞の方が人型らしいよ!
しぶしぶ寝返りを打って此方を向いたにーちゃんは二人を睨み付けてるけど、体勢が体勢だから全くと言っていい程怖くない。
「やだー! 嬉しそうなショコラちゃん可愛い! エストレアそこ代わって」
「やだ」
頬に手を当てて興奮しているリプカへの切り返しも早く、
「リプカ、こんなの叩き落とせばいいんだよ? 実力行使で」
「させるか」
ユビテルが雷を落とそうとした瞬間に氷でバリアを作っていた。
「まじでうざい」
睡眠を妨げられて不機嫌丸出しのにーちゃんはショコラの膝から起き上がって、それはもう当然のようにショコラの肩を抱いた。
にーちゃん、僕そこまで行ってるって聞いてないよ?
「後から何頭来ても無駄。渡さねえ。掠め取られるとしたらアイツだけ」
…………。……え? 僕?
にーちゃんが指を差す先を振り返ってもやっぱり僕しかいなかった。めんどくさい大人達の視線が僕に降り注ぐ。
「にーちゃん、僕、にーちゃんが本気なら身を引くよ?」
「ふざけた事言ってんじゃねえ。俺がいない間、コイツのどこもかしこもお前の匂いしかしなかった」
う……確かに、僕、上書き以上に触ったけど、間違いなく触ったけど……
大人の視線がきついものになってきたよ! 絡んでこようとしてる二人とかもいるよ! 酒豪二人も物凄い笑顔だよ! 僕の命は今日までなのかな!
「皆ティエラを虐めないで! 大人でしょ?」
ショコラが喋ったかと思えば執務室一体にバケツをひっくり返したような水が降ってきた。ショコラが魔法を使ったみたいだ。
炎龍族は弱点属性だから絶叫、雷龍族は目が覚めたようだ。にーちゃんは氷で傘を作ってノーダメージ。然り気無くショコラと僕まで防いでる。
「エスもお兄さんならティエラを虐めちゃダメだから!」
「……わかった」
水を被らなかったせいでまだ酔いが覚めていないにーちゃんは、ショコラに注意されて素直に頷いていた。
どうしよう。僕、二人が本当にこんな雰囲気になるとしたら見ていられるかな? たまに攻撃してもいいかな? 得意の物理で。
それからは執務室を片付けるのがすごく大変だった。
何人かはまだお酒が残ってるし部屋は水浸しだし、元に戻ったにーちゃんは酔っていた時がすごく不本意だったのか終始機嫌が悪そうだったけれど、ショコラはずっと恥ずかしそうにしてたりユビテルに水浸し謝ったりしてた。
出来ればもう皆でお酒はやめてほしいな。僕には面倒見きれないから。
まあでも、にーちゃん。僕がショコラに言った僕かにーちゃんかって言うのは割と本気だから。にーちゃんが警戒すべきはほんとに僕だけでいいのかもね?
2016/01/27
四章以降。パラレル。
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