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 せっかくおいで下さいましたのに、何もおかまい出来ず、お気の毒に存じます。文学論も、もう、あきまし
た。なんの事はない、他人の悪口を言うだけの事じゃありませんか。文学も、いやになりました。こんな言い
かたは、どうでしょう。「かれは、文学がきらいな余りに文士になった。」  本当ですよ。もともと
戦いを好まぬ国民が、いまは忍ぶべからずと立ち上った時、こいつは強い。向うところ敵なしじゃないか。君
たちも、も少し、文学ぎらいになったらどうだね。真に新しいものは、そんなところから生れて来るのですよ
。 まあ私の文学論は、それだけで、あとは、鳴かぬ蛍ほたる、沈黙の海軍というところです。
/>  どうも、せっかく遊びにおいで下さったのに、こんなに何も、あいそが無くては、私のほうでしょげて
しまいます。お酒でもあるといいんだけど、二、三日前に配給されたお酒は、もう、その日のうちに飲んでし
まって、まことに生憎あいにくでした。どこかへ飲みに出たいものですね。ところが、これも生憎で、あはは
は、――無いんだ。今月はお金を使いすぎて、蟄居ちっきょの形なのです。本を売ってまで飲みたくはないし
まあ、がまんして、お茶でも飲んで、今夜これからどうして遊ぶか、ゆっくり考えてみましょうか。
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