あたしとカフェ
あたしはカフェで執筆するのが大好きだ。
珈琲の香りと静かな空間。たまにカチャリと陶器同士が触れ合う音が聴こえてくるのがとても心地よい。あたしがいつも通っているカフェはお洒落なジャズが店内には流れているのもまた心地よい。このお店のと出会いは大学のテスト勉強を家では気が散ってしまって出来なかったのと、SNSにテスト勉強のハッシュタグを付けてお洒落なカフェでのひとときを載せたいが為に探し出した癒しの空間なのだ。お店の雰囲気も大学生の頃のあたしには大人な感じがしてこの空間に居るとテスト勉強をしていても学生だという事を忘れさせてくれるような、そんなところも魅力的で好きなところだ。
あたしはいつも窓際の3番目の席に座りココアを注文する。珈琲は某緑のお姉さんの絵のお店みたいにフラペチーノとかだと飲めるけれどブラックはちょっと苦手。だからと言って珈琲を頼みお砂糖やミルクをたっぷり入れて飲むのはお店の雰囲気を潰しているみたいでしたくない。あたしの勝手な意地なのだがしたくないのだ。なので同じような茶色の液体だけど甘くて美味しいココアをいつも頂いている。ココアはホットもアイスもどちらも心をほっと落ち着かせてくれる甘すぎない優しい味だ。
「なまえちゃん。今日もココアかい?」
『はい!いつもの優しいココアをお願いします!アイスで!』
カウンターの向こう側に居るマスターはいつもココアかい?と聞いてくれるが、あたしがココア以外頼まないのを分かっているのでいつも聞きながらもう淹れてくれている。マスターとはお店に通い始めてからの付き合いだが、もうかれこれ3年くらいのお付き合いになる。常連客の1人として認識して貰っていて名前を呼んで話しかけてくれるし自分の娘の様に心配してくれたり時には怒ってくれたり第2のお父さんみたいな人だ。
冒頭であたしはカフェで執筆するのが大好きだと言ったが大学を卒業して小説家になったのでは無い。あたしは事務職でもなく広告代理店みたいなお洒落な職場でもなくIT関連の様な頭の良さそうな仕事が出来る訳もなく、バイトを掛け持ちしているしがないフリーターさ。書いているのだって大好きな漫画の二次創作、夢小説だ。こんな事リア友には絶対に言えることでは無い。夢小説とは、漫画やアニメのキャラと疑似恋愛や友達関係など日常の中に自分を入り込ませて話を作って公開している小説の事である。( あたし調べ。 あたし辞典。 )
あたしが夢小説に出会ったのは中学の頃。漫画好きの友達に「こんなの書いてる人が居るんだって〜。書いてる方も読む方もキモ〜い。」と言われて知ったのがきっかけだった。あたしはキモイなんて思うわけもなく素晴らしいと目を輝かせていたのを隠せていた自信はない。人生で初めて夢小説を読んだ時は頬の緩みが止まることを知らず人様に見せれる顔はしていなかったと思う。それくらいニヤけるほど夢小説は素晴らしいとあたしは思った。ただ、その界隈の人達をキモイと一刀両断にする人達が居ることもあたしは同時に知ってしまったので夢小説を書いている事は何がなんでもひた隠して生きていく決意を高校生の頃にした。本当は家の外での執筆は危険なんだろうとは思うけれどカフェで珈琲の匂いに包まれながら、ココア片手にキーボードを叩きながら文字を打ち込んでいると自分ができる人間になったと錯覚してしまった。とても幸せだった。あの味を知ってしまえば誰しも辞められるわけが無い。だからあたしは今日も夢小説を書きにカフェへやって来たのだ。
マスターの淹れてくれたいつもの優しいココアを1口、喉へ流し込みノートパソコンへ手をかける。ただのフリーターが何故ノートパソコンなんか持ってるかって?夢小説を書くために。そして人様の素晴らしい夢小説を読むためにお金を貯めて24回の分割払いで買ったのだ。話が逸れたがノートパソコンに手をかけ、あたしは今日も推しとの疑似恋愛を文字に起こしていく。
カタカタとキーボードを叩き始めて1時間くらい経った頃だろうか。店内がお洒落なジャズと少しザワザワと話し声も聞こえてきた。沢山人が来たな〜。帰ろうかな〜。と悩んでいると
「ここ、座ってもいいですか?」
『はい?』
頭上から降り掛かってきた言葉は向かいの席に相席してもいいかという男性の低い声だった。