『相澤くん。ずっと好きでした。』
あたしは中学の卒業式の前日ずっと好きだった相澤くんについに気持ちを伝えることにした。相澤くんは雄英高校に行っちゃうからきっと恋人にでもならないともう会えないと思っての告白だった。あたしの告白を聞いて目を見開く相澤くんはかなりびっくりしている様子だった。なかなか何も反応してくれない相澤くんと同じ空間に居るのが恥ずかしさと辛さが混ざった気分になってきたあたしは『気持ち、言いたかっただけだから!また明日ね!!』といいその場から逃げ出してしまった。
あぁー!やっちゃったよー!付き合って下さいも言わないで気持ちだけ言って沈黙に耐えられなくなって逃げてきて・・・。また明日ねって言えるのは今日で最後。気持ちだけ言って逃げてきちゃったなぁ。付き合ってくださいって言えばよかった?と後悔しながら帰路をとぼとぼと歩いていた。
『相澤くんびっくりした顔してたなぁ・・・』
あたしの独り言は虚しく空に消えていく。あの時見上げた相澤くんの驚いた顔を思い出し、あたしの告白に相当驚いている事がよく分かる。思い返すと少し笑えてくるくらい。
『あんな顔するって事は返事聞いてたとしても意味なかったよね…』
あーあ、結構仲良いと思ってたんだけどな…。今日って雨の予報だっけ?そっか、雨だったね。傘忘れて来ちゃっ、た。あたしは道の端で地面の色が変わるまでしゃがみこんで泣いた。
次の日の卒業式は何か言いたそうな相澤くんを避けるので精一杯で友達と別れを惜しむ暇は無かった。式も最後のホームルームも終わりあたしは今日最大の、いやおそらく人生で最大のミッションに今から挑戦しに行こうと思う。きっと昨日玉砕しているがそれでも綺麗な思い出で終わりたい。なんせ初恋だ。良き思い出だったなって思い出したいじゃないか。だからあたしは今から相澤消太のネクタイを奪いに行ってくる。仲良かったはずだから許してくれ。と、願いを込めて‥‥
『相澤消太ぁぁあああ!!』
あたしは名前を叫びながら器用にネクタイを解きそのまま持ち去った。これの為にお父さんのネクタイでめちゃくちゃ練習してきたのだ。後ろから何やら叫んでいる声が聞こえるけど立ち止まったら終わりだと思い振り返らずそのまま家に帰る。家に着いて自室にて。最後に2人で写真撮りたかったなとかやっぱりちゃんと返事聞いて振られたほうが良かったかなとか色々思うことは沢山あるがこの想いも全て奪ってきたネクタイと学校でこっそり買った相澤くんの写真と一緒に宝箱に大切に大切に仕舞うんだ。
______
あれから数年。数十年。いや二十年以上経ったのだろうか。あの日もこんなぽかぽかと暖かいけれどまだ少し肌寒さの残る日だった。こんな日は今でもあの日を思い出してしまう。春は出会いと別れの季節と言うように今日はお隣のお部屋が騒がしい。引越しかな?どんな人が今度は住むのかな?前の住人は優しい老夫婦だった。お互い作りすぎたご飯を分け合ったり今の時代じゃ珍しいご近所付き合いをしていた。田舎の息子夫婦のところでお世話になると先月引っ越してしまったのだ。次のお隣さんともあんな付き合いが出来たら、と思う反面あんないい人がまたお隣に来てくれるとも思えず新隣人の事を考えるのを辞めた。お昼を食べ終えたこの時間は何歳になっても睡魔が襲ってくるものだ。迫り来る睡魔に身を委ねるようにあたしは重い瞼の力を手放した。
___ ピンポーン
突然鳴り響くインターホンの音。人が気持ちよく寝ているのに誰だ。と時計を確認すると16時過ぎだった。そろそろ起きないとと思うが体がまだ眠いと訴えている。仕方ない。来訪者には申し訳ないが居留守を決め込んで目を閉じた。
次に目を醒ましたのは夜だった。お腹が空いたのでコンビニまで行こうと玄関の戸を開くとドアノブに紙袋が引っかかっていた。中を確認すると菓子折りと引越しの不在だった為と書かれた引越しの挨拶のお手紙。文末には相澤と書かれていた。
『相澤くん、、、?な訳ないよね』
昼間あんな事を思い出していたからだろうか。淡い期待が胸を支配する。そう。あたしは未だ叶わなかった初恋が捨てきれて居ないのだ。相澤くんがお隣さんだったらなぁ~なんて思考回路を無い無いと首を振り頭の中から追い出し家を出た。
「みょうじか‥‥?」
ほらね、あんな事考えるから幻聴が聞こえて驚いている相澤くんが居るように見えるんだよ。
『あれ?相澤くんの幻覚が見える』
「アホか。なんだ隣はお前だったのか。」
『ん?お隣さん?相澤くんが?』
「そうだ」
『えぇーーーーーー!!』
驚いて叫んだあたしに、近所迷惑になる。と凄く怒っていた相澤くんだけど何言ってるか分からなかった。え、なんであの人普通に接して来てるの?二十年以上ぶりなのにあたしってよく分かったね。あの日の告白覚えてる?久しぶり、元気だった?ヒーローになったんだよね?話したい事は沢山あったがあたしの脳は仕事を辞めた。
バタン
思考停止したあたしは何か言っていた相澤くんを無視して目的も果たさず家に戻ったのであった。
お隣さん同士の2人のお話は今日から始まったばかりなのである。