詩集

 -想色-

追想曲
*前しおり次#

影法師を見送った 夕闇が焼きついて
君はもう『故(あ)の郷(さと)』へ 帰りゆくんだね
星が笑う時間になっても まだ仕度が済まなくて
ふと見つけた写真で 僕も 君も かすみ色
  
いくつも笑ったよ
幾度も泣いたよね
ついに巣立つのは 通う先だけでなく…て
  
夢を語った出会いがしらも
ベッドの上を取り合った日も
すべて すべて
今溢れてくるよ
気がつけばもう僕らの道しるべ
…また会う日までの 追想曲
  
君はもうついたのか 朝日刺すその前に
僕はまだ 出るのをためらっているよ
ほとんど片づけはしたんだ
まだ整理がつかなくて
思い出した裏道を 僕と 君で 歩けたらな
  
何度も怒ったよ
何回楽しんだろう
ついに離れるのは 住んだ家だけでなく…て
  
料理の出来で喧嘩した日も
揺らいだそばで励ましたときも
すべて すべて
ほら思い出せるよ
気がつけばそこには 立ってないけど
…また会おうね
と 手を振れる
  
君は今 どんな道を見ているだろう
もうこの道は ほとんど通らないだろう けれど
  
やっと 僕も仕度できたよ
最後の荷物を持って ――帰ろう
  

平成22年3月



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