
04:同じ色
「できないってのは無理あるだろ」
休憩中、ドリンクボトルを片手に倉間が言う。
近くに立っていた浜野と速水、その他の数名が視線を倉間で止めた。
「ちゅーか急になによ?」
「さっきの女だよ。あんだけ完璧なシュートしといて、サッカーできないってのはないだろ」
そう言って、首から下げたタオルで汗を拭う。速水も両手でドリンクボトルを持ちながら、納得したように頷いた。
「確かに……」
「凄かったですよね!あのシュート!」
何故か嬉しそうな表情をした天馬が正面からグッと倉間に顔を近付ける。倉間は目を丸めて上半身を仰け反らせた。それから「近えよ」と不満を漏らすと天馬が謝りながら一歩退がる。
「咄嗟にあんなシュート撃てるなんて凄いですよね!」
「ああ……確かにあのシュートは凄かった」
三国の声に、一同の視線が集まる。三国は先ほど空のシュートを受けた手を見つめていた。その目は至って真剣だ。
「あの体勢からあれだけの威力とコントロール……並大抵の奴ができる技じゃない」
「彼女がサッカー経験者だと?」
「それはわからないが……倉間の言う通り、できないと言うのは無理があると俺も思う」
神童の問いに、三国は顔を上げて答えた。神童は考え込むように丸めた指先を口元に添える。その姿をパシャリと茜が写真に収めた。
「神童?」
「つーかそこまで考えることじゃなくねえか?あいつがサッカー経験者だろうが未経験だろうが、俺達には関係ねえだろ」
「ちゅーか言い出したの倉間じゃん」
浜野の言葉に、倉間が「うるせえ」と反論しようと口を開く、しかし倉間よりも先に天馬が声を上げた。
「えっ!?」
その声量に驚いて一斉に視線が天馬に集まった。天馬の隣にいた信助は耳を押さえていた手を離して「天馬?」と恐る恐る声を掛けている。
「うるせーな、なんだよ急に」
「誘わないんですか!?」
「はあ?」
脈絡のない言葉に、倉間は煩わしそうに眉を顰めた。他の面々も何のことだと首を傾げている。天馬だけがただ1人、驚きと焦りを含んだ声を上げて訴えていた。
「舞風さん!サッカー部に誘わないんですか!?」
天馬の言葉に、サッカー部一同は面食らったように動きと表情を消した。カチリと固まった空気の中で、天馬と信助だけが「いいねそれ!」「でしょ!?」と笑って話している。
固まった空気が徐々に溶け出して、それぞれがそれぞれに顔を見合わせる。
「サッカー部に……?」
「ちゅーか、女子っていいんだっけ?」
「特に規定はない筈ですけど……」
ざわざわとどよめきだす部員達に、天馬はわくわくとした顔で「俺!明日また声かけてみます!」と誰の返事も待たずに大きく手を挙げた。
「いや、天馬くんさっき一回断られてるじゃん」
「明日はいいよって言ってくれるかもしれない!」
「いや……どうかなあ……」
訝しげな表情で首を捻る狩屋マサキも転校生である。天馬達のクラスに転入し、サッカー部に入部した身体能力の高いディフェンダーだ。
月山国光との試合を経て、チームメイト達と絆を深めて隔たりも薄まってきたように思う。
「僕も行くよ天馬!」
「あ、私も!ちゃんとお礼も言いたいし!」
天馬に続いて信助も大きく腕を上げて、葵もそれに続いた。天馬は嬉しそうに笑って、「楽しみだね、狩屋!」と横を向いた。「え?俺も!?」と目を見開き頬を痙攣らせる狩屋をおかまいなしに、天馬と信助は楽しそうに話をしていて、霧野が苦笑いをしながら狩屋の肩を叩いた。
「まあ、声を掛けてみるくらいはいいんじゃないか?」
狩屋の肩に手を置いたまま、「な?」と霧野は神童を見やる。
神童は少し考えてから、整った顔を柔らかく緩めた。またパシャりと茜がシャッターを切る。
「そうだな。彼女が初心者だとしても、仮に経験者だとしても、戦力になってくれるのは間違いない」
神童からの発言もあり、天馬はより目を輝かせた。飛び上がった信助とハイタッチを交わし、狩屋はため息をつく。剣城は我関せずといった風に腕を組んで目を閉じている。
天馬は明日の朝、彼女になんて声を掛けようかと考えては目を輝かせている。彼女の髪と同じ色をした空を見上げながら期待に胸を膨らませた。
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