残響ユートピア01
夢と現の境界が曖昧になる瞬間がある。
夢から覚めるとき、眠りに誘われるとき、ここがどこで、自分が何者か、その輪郭を見失うときがある。春の風が柔らかく頬を撫でる今も、まさにそうだった。視界に映るものがどこかぼやけている。匂いと温度も不確かで、周囲の音だけがやけにはっきりと聞き取れるから、自分の中で自分が薄くなる感覚。この時間が意外と嫌いではない。
眼下で、パン屑を撒く自分の方に向けてパクパクと口を開く鯉に焦点を合わせながら音波奏はあくびをひとつした。
春。桜の花弁がちらちらと視界の中で舞う。綺麗とは言い難い水面にひとひらの花弁が落ちて、薄い水紋が広がった。それに反応した鯉がまた口を開き、閉じては開くを繰り返す。
水面に映るのは眠そうに瞬きをする奏の姿だ。深縹色の髪に、眠そうな瞳。宵色の瞳を縁取る睫毛は艶がありどことなく神秘的な雰囲気を醸し出す。本人の雰囲気とはミスマッチな、シュールなデザインのアイマスクが特徴的だ。
いい天気だと、空を見上げる。青い空は透けるようで、薄紅色の花弁が青に色を足す。平和だ、と奏は堪えられずにまたあくびをこぼした。
瞬間、なにかが目の前にヒュッと風を切り落ちてきた。なにかが落下してきた、と理解するよりも先にバチャン、と水が跳ねる。咄嗟に身を引いて跳ねた水滴を避けた。自分が濡れてないことを確認してから、そろりと落ちてきたものを確かめる。
「ん?これ……」
水を吸い込みながらも水面に浮くそれに、鯉が餌と勘違いしているのか取り囲むように寄ってきて口をパクパクと動かしている。「こらこら、餌じゃないよ」と鯉に語りかけながら落ちてきたそれを拾い上げた。水を吸い込み色を変えよれた一冊のノート。見覚えのある字で書かれた表紙。ヒーローノート、と書かれたそれは、とある少年の将来への布石だ。
校舎を見上げる。ノートが降ってきた場所であろう開いている窓を見つけた。あの窓はどこの教室だっただろうかと考える。二つ隣のクラスだ。それがわかるとこのノートが降ってきた理由がなんとなく想像できてしまって、奏は眉間に薄くしわを寄せた。
ハンカチでノートの水気を取りながら昇降口の方へ向かっていく。水を含み湿ったノートが破れたりしないように、丁寧にハンカチに水分を染み込ませる。すぐに奏が拾い上げたため、そこまで水は吸っていない。代わりに、ノートにはなぜか焼け焦げた痕がある。焦げて薄くなったところは水の吸い込みが酷かった。パラ、と表紙をめくって中を確認したが、ノートの縁は焦げた痕と水が染みたあとが強く残るが、書いてある内容は読める。薄汚れたノートに淡い紅色が落ちてきた。落ちてきた花弁がまた風に乗って飛んでいく。それを目で追っていくと、前方から同じ制服を着た男子生徒がとぼとぼとうつむきながらこちらに向かって歩いてくる。癖毛の髪に、そばかす。ノートの持ち主だとすぐにわかった。
「出久」
奏が名前を呼ぶと、前から歩いてきた癖毛の生徒が顔を上げた。彼は奏に気付くとパッと表情を緩めた。口角は上がっていくが、眉が下がっている。
「かなちゃん!」
彼だけが呼ぶ愛称に、奏は応えるようにひらりと手を上げた。大きな黄色のリュックを背負いながらパタパタと駆け寄ってくる彼に合わせて、奏も歩調を早める。
緑谷出久。奏とは幼少期からの友人で家も近所だ。いわゆる幼馴染みである。黒髪の癖毛に、目の下にそばかす。大きな目はくりくりとしていて、頬の丸さに幼さが残る。
「よかった、探しに行こうと思ってたんだよ。はいこれ」
「え?これって……あっ、僕のノート!?」
「うん、落ちてきたよ。で、ボチャン」
「ああ〜……なるほど、ありがとう……」
困ったような、脱力と諦めを滲ませた笑みをこぼしながら礼を言う緑谷を、奏はじっと見た。そうして尋ねる。確信を持って。
「それ、勝己?」
奏が放つ圧にか、はたまた紡いだ名前にか、緑谷は体を強張らせた。それを肯定と受け取って、ため息をついて肩を下げる。
「またかあいつは……あとでシメとくから」
「いっ、いいよいいよ!大丈夫だよ!」
奏が言えば、緑谷は慌てた様子でそれを止めた。不思議と奏のアイマスクに描かれた二つのコミカルな目も不満そうに見えた。
「良くないよ。まったくあいつは、ヒーロー志望だっていうのにいつまで経ってもチンピラまがいのガキ大将のままで……」
「お、おお……かっちゃんのことそんな風に言えるのかなちゃんだけだよ……」
二人にはもう一人、爆豪勝己という幼馴染がいる。緑谷がかっちゃんと呼ぶ彼は、優秀だが、或いは優秀ゆえに、粗暴な面がある。緑谷のノートが焦げているのも、空から落ちてきたのも彼の仕業だと奏はわかっていた。
困って眉を下げる緑谷を見て、奏はまたため息をひとつ落とした。二人の間で起きたことに口を挟むのも野暮と言われればそうなのだろう。渋々「わかった、今回はね」と引き下がる。すると緑谷もほっとしたように肩を下ろして、どちらからともなく並んで帰路へと歩き出した。
「かなちゃん、また鯉に餌あげてたの?」
「和むからね」
奏が眠たそうにあくびをひとつ落としていく。地面に落ちた桜の花弁が風に巻き上げられて、また空へと戻った。
ヒーロー。それは誰もが憧れる、英雄の称号。
そんなコミックやゲームにしか登場しないような存在が、今や現実世界のジョブとして認められている。
始まりは最早歴史の一部、中国の軽慶市、発光する赤子が生まれたというニュースだった。以降、世界各地で「超常」は発見され続けた。
発光する赤子に始まり、火を吹く子供、水を操り、羽を生やす人。
原因もわからぬままに時は流れ、「超常」は当たり前へと変化していく。そして世界総人口の約八割がなんらかの″特異体質″である超人社会となった現在。
「超常」が「日常」へと変わり、「架空」は「現実」へと変わる。
その代名詞が"ヒーロー"だった。
「超常」に伴い爆発的に増加した犯罪件数。法の抜本的改正に国がもたつく間、勇気ある人々がコミックさながらにヒーロー活動を始めた。「超常」を利用した犯罪を、「超常」で制する。
「超常」への警備、悪意からの防衛。たちまち市民権を得たヒーローは世間に後押しされる形で公的職務に定められた。
各々が持つ「超常」は"個性"と呼ばれ、法律の下で厳しく使用を制限されるようになった。
奏も例外なく特異体質であり、個性を持つ。今すれ違った兎のような耳を持つ女性も、ランドセルを背負った少年も、引き摺るほど長い髭を蓄えた老人も、みんなそれぞれの個性を持っているのだろう。奏たちの通う折寺中の生徒も教師もみんな自分だけの個性を持って、ヒーローに憧れ、敬い、支持している。
隣を歩く幼馴染だけを除いて。
「でね!そこでシンリンカムイが駆けつけたんだけど、Mt.レディっていう新しいヒーローが……」
「うんうん」
緑谷が身振りを用いて鼻息荒く語るのは今朝の事件の話だ。緑谷は世界総人口の約二割に当て嵌まる人間だった。
無個性。名前の通りその体に「超常」を宿すことのなかった人間。彼はその身に個性を持たずとも、ヒーローに焦がれてしまった人間だった。
奏が拾った彼の焦げたノートは、幼い頃からずっと、緑谷が書き続けているヒーロー分析だ。それは単にヒーローが好きだからというだけではなく、いつか自分がヒーローになったときに役に立つかもしれないと記し続けているノート。
基本的に個性の発現は齢四歳まで。幼かった頃、個性の発現しない彼を心配した母親が連れて行った先の病院で「諦めた方がいい」とはっきり言われたらしい。
個性の発現は諦めた方がいいと言われてなお、緑谷出久はまだヒーローになることを諦めていない。
彼の夢と将来を思う度に、奏は現実とは残酷だなと思う。
奏は誰よりも気付いてる。緑谷がヒーローたる人間であることに。困ってる人を放っておけない性質、力を持たずに生まれた身体。志に向かない身体。周りが当たり前のように抱き、追う夢を、この幼馴染みは叶えることができない。
けれど奏は――
「あ」
「ん?」
思い出したように足を止めて言葉を漏らした奏に、緑谷も同じく足を止めて奏を見た。奏はちらりと商店街の方を見てから、申し訳なさそうに眉尻をわずかに下げる。
「ごめん出久、買い物頼まれてるんだった。商店街寄ってくから先帰ってて」
「手伝おうか?」
「大丈夫、早く帰って今朝の事件ノートにまとめたいんでしょ。ありがとね」
奏の指摘は当たっていたのだろう、緑谷は照れながら苦笑いをして頭を掻いた。奏も微笑んで「気をつけて帰ってね」と手を振ると、緑谷から「かなちゃんも」と返ってくる。黄色いリュックを背負った背中を見送ってから、奏は商店街の方へ足を向けた。
「え〜と、そうだ煮干も買おう」
買わなければいけない物を指折り数えながら、奏は商店街を慣れた足取りで進む。
商店街は賑わっていて、同じ制服を着た生徒もちらほらといる。
今日から奏は中学三年生となった。入学式もあり、在校生は午前授業で終わりとなる。奏と同じく部活に所属していない生徒たちは平日の午後休みという非日常を存分に謳歌していることだろう。
あくびを噛み殺し、まずはなにを買おうかと考えながら歩く。すると見知った顔が目の前の本屋から出てきた。
「あ?」
「あれ」
向こうも奏に気付いたようで、顎を突き出した状態で不愉快そうに顔を顰めた。色素の薄い直毛に、鋭い目つき。奏と同じ学ランを着て、学生鞄を肩に引っ掛けている。
「勝己」
「奏……」
爆豪勝己。奏と緑谷の、もう一人の幼馴染み。
奏が短く名前を呼ぶと、爆豪も地の底を這うような低い声で奏の名前を呼び返した。爆豪の後ろに二人いる同級生は同じ小学校の出身で、同じクラスになったこともある。二人はちらちらと爆豪と奏を交互に見ていた。爆豪が鋭く舌を打つ。
「今年はクラスが離れたね」
「ハッ!テメーの顔見る頻度が減って清々するわ!」
爆豪が見下すように笑うが、奏は顔色のひとつも変えずに淡々と言葉を続ける。
「出久とは今年も同じクラスなんだろ?仲良くしろよ」
「あ?誰がクソナードと」
爆豪はひくりと頬を痙攣らせ、声を低くした。爆豪の後ろで、「絶対無理だよな」と声を顰めて話す声が奏にはしっかりと聞き取れた。呆れたように息を吐く。
「なんで仲良くできないかねえ、そのクソナードってのもやめろよな」
「クソナードはクソナードだろうが。んなことより奏、てめえからもあの無個性の雑魚に雄英受けるのやめるように言っとけ」
睨み付けるように奏を見据えた爆豪から出た言葉に、奏は瞬きを忘れた。商店街の喧騒が一瞬遠退く。
「雄英?」
「あの馬鹿、無個性の雑魚のくせに、一丁前に雄英のヒーロー科受けようとしてやがる」
不愉快で仕方がないという顔をして、爆豪が言う。
「どうせなんもできやしねえんだ。記念受験にだってならねえよ」
「……僕からも、ってことは、お前は言ったのか」
奏が問うと、爆豪は鼻を鳴らして「当たり前だろ」と返した。春のまだ少し冷たい風が、奏の背中を押すように吹いた。店が建ち並ぶこの商店街には局所的な強風がよく吹いている。
「俺はあの平凡な中学から初めて!唯一の!雄英進学者っつー箔をつけんだよ。万が一にもあのクソナードが受かると思っちゃいねえが一応な」
爆豪の弁舌に、奏は呆れて目を細める。そして一言。
「相変わらずみみっちいな」
「あ゛!?」
言葉と共にボン!と爆豪の両手から爆発が起きる。後ろの二人が驚いて身を寄せ合った。掌から昇る硝煙が、風に吹かれて流されていく。微かな焦げた匂いが鼻を掠めた。
「なんつったテメエ!?」
「みみっちい。公共の場で個性使うなよ」
「テメエェぇぇ……!」
「どこ受験するかは出久の自由だろ。仲良く一緒に受けようよ」
再度両手で爆破を起こし、パチパチと火花が散った。幼少期から感情が昂ぶると爆破を起こして威嚇する癖が直らない。或いは直すつもりがないのかもしれないなと奏は最近思う。奏の紺青の瞳と爆豪の猛る橙が交差する。暫く互いに見つめ合うと、爆豪はチッと先程よりも強い舌打ちをして「行くぞてめえら」と後ろの二人に声を掛ける。爆豪は奏の横をすり抜けて行く。呼ばれた二人も顔を見合わせた後、気まずそうに奏を見てから爆豪のあとに続いた。
奏は引き留めることはしないが、その背中に「あんまり寄り道するなよ」と声を掛ける。「てめえは俺のババアかよ!」と返ってきた。奏は爆豪たちを見送って、まずは食材を買いに行こうと足を動かした。
国立雄英高等学校。今年の偏差値は七十を超え、毎年倍率は恐ろしいくらい上がる。ヒーローという職が国で認められ、ヒーロー志望の十代が多く存在する世の中で、今や全国にはヒーローを養成する為の学校が数多く設立されている。ヒーロー活動をするには資格取得が必須で、その資格取得を目的にしたコースを、ヒーロー科と呼ぶ。雄英はヒーロー科を持つ学校の中では間違いなく最難関、最高峰。多くの偉大なヒーロー達を輩出してきた名門校である。
その最たる例が、平和の象徴、オールマイトだ。
No.1ヒーロー、オールマイト。年齢不詳、個性不詳。功績と人柄から国民に愛され、国民栄誉賞を打診されるもそれを固辞。彼のデビューしたときの動画は今もネット上に残っており、再生回数はいまだ更新されて続けている。
出久はオールマイトのガチファンだからなあ、と、奏はトマトを選びながら、先ほど爆豪に言われたことを思い出す。
緑谷は幼い頃からオールマイトの大ファンで、オールマイトは雄英の卒業生だ。
そして緑谷は無個性に生まれそれでもなお、ヒーローの道を諦めていない。そうなれば彼が雄英を志すこともまた当然のことなのだ。
出久はあれで行動力あるもんな……オールマイトの卒業校……ファン、もといオタクなら押さえておきたいところか……でもって勝己も。勝己もあれでオールマイト推しだからなあ。まあそれ以前にあいつは一番高い場所に行きたいからって選択だろうけど。
赤いトマトは艶々としていて美味しそうだった。ブロッコリーも欲しいなと、棚を移動する。
ヒーロー科の試験には筆記と実技があるからな……筆記はともかく、実技は……どうだろう。厳しい気がする。
ヒーロー科入試実技試験において、ほとんどの学校が個性使用可の試験を用意している。無個性の緑谷にとってはこれ以上ない不利な課題だ。
「……まあ、わかっちゃいたけどさ」
手に取ったブロッコリーに目を落としながら、奏は誰にでもなく呟いた。
美味しそうなブロッコリーを選び、鶏肉やら調味料やらもカゴに入れて会計を済ます。奏の両親は仕事で多忙のため、家を空けることも多く、気付けば一通りの家事はこなせるようになっていた。夕食なんかはどちらかの幼馴染みの家でご馳走になることも多々ある。
レジ袋をガサガサと鳴らしながら店を出ると、なにやら人集りが出来ていて、奏は首を傾げる。辺りも騒がしいようだった。
「ヒーローなんで棒立ち!?」
「手が出せねえんだろ、ほら、中学生が人質に取られてる」
「あの子の個性凄えな!そこら中に火が……」
雑音にも取れる声を、奏は正確に聞き分けた。中学生、人質、という言葉にドクリと心臓が嫌な音を立てた。こういうとき、奏は自分の勘が当たることを知っている。知っているから、駆け出した。
聞いたことのある爆破音。聞いたことのある声がなにかで口を塞がれているのかくぐもって聞こえている。人が集まる方に走ると、建物にところどころ火がついているのが見えた。火周りに強いヒーロー、バックドラフトが消火活動に回っている。人集りの中心に来ると、辺りは火の海になっていて、火の中でヘドロのような、流動的なものが暴れている。その中に、囚われている自分と同じ学ランを着た中学生が見えた。
その姿を目視したときに、喉の奥がヒュ、と鳴った。手に持っていたレジ袋を放り出す。人を掻き分けて、なにも考えられないけど、脳が走れと叫んでいた。
「勝己――」
人の群れを抜けたとき、黄色いリュックが宙に放り出されるのがやけにスローで見えた。中の物が散らばっていく。視界の中に、同じ学ランを着た中学生がもう一人増えていた。
「出久……!?」
奏の視線の先には敵に向かう緑谷がいて、爆豪を救け出さんと掴めないヘドロを何度も手で掻き分けている。
「かっちゃん!」
叫ぶようにして名前を呼ぶ緑谷が、今にも泣き出しそうな顔で笑っている。
「――君が、救けを求める顔してた」
その言葉を、この場にいたどれだけの人間が聞き取れたかわからない。緑谷が無謀にも飛び出したことにより、甲高い叫び声や、怒鳴るような声が何重にも響いていて、それでも奏にははっきりと聞こえた。
背筋をなにかが伝うようだった。ゾクリとして、同時に肌が粟だった。
「もう少しなんだから邪魔するなあ!」
突如、ヘドロの敵が緑谷に向けてその身体を大きく揺らし、襲い掛かる。奏は二人の幼馴染みの名前を叫ぶ。
「勝己!出久!」
「無駄死にだ!自殺志願かよ!」
ヒーロー達が駆け出すのが視界の端に見えた。奏も手を伸ばして駆け出すが間に合わない。呑み込まれていく。自分の目の前で、大切な友人が二人も。目の前で――
奏の伸ばした手は届かなかった。けれど、二人の手を掴んだ者がいた。
「君を諭しておいて……己が実践しないなんて!」
悲鳴が、歓声に変わる瞬間。鍛え上げられた逞しい身体、二房に分かれた前髪が天を向く金髪。明らかに違う画風。
「プロはいつだって命懸け!」
振り上げた右手を、敵に向けて振り下ろす姿。幾度となくテレビで観てきた、一人のヒーローの姿。
「DETROIT SMASH!」
振り下ろした腕を中心に、爆風が起こる。咄嗟に両腕を顔の前に出して爆風を凌ぐ。あまりの威力に頭につけていたアイマスクがずれた。風が少しずつ収まってゆく。辺りの人はただ無言だった。奏も含めて。風に巻き上げられた土埃が少しずつ晴れていく。土埃の向こうに、オールマイトのシルエットがぼんやりと浮かび上がった。
不意に、頬に冷たいなにかが当たった。それに気付いたときには、もう地面にポツポツとシミができていた。
「……雨?」
誰かが呟いた。今日の天気は一日晴れで、降水確率は三十%しかなかったはずだ。
「まさか今の風圧で……上昇気流が……」
「おいおいおいおい!」
段々と強くなる雨脚に、音が少しずつ変化していく。オールマイトの繰り出したパンチによる風圧は、商店街の連なる建物に逃げ場をなくし、上空へと流れたのだろう。それが上昇気流となって、天気を変え、突発的なスコールを呼び寄せた。程なくして全身を激しく濡らすほどの雨が降り出すと土埃も消える。
そこに、一人のヒーローが立っていた。
「右手一本で天気が変わっちまった!」
「すげええええ!これが……オールマイト!!」
再び歓声が沸き起こる。雨脚に負けないほどの人々からの賞讃も、激励も、全てが一人の男に向けられている。その男の足元に気を失って倒れている、幼馴染み二人。二人の姿を見て、大きな怪我がないことに奏は心から安堵して体の力を抜いた。
△▼△
「ああ……トマトが潰れてる……」
レジ袋の中を覗き込みながら、奏が悲しそうに呟いた。放り出したレジ袋を回収すると、トマトは潰れているし、一緒に買ったブロッコリーや煮干もボロボロになっていた。
トマトは無理だけど、ブロッコリーはいけるか……?などと奏が思案している横で、緑谷と爆豪がそれぞれプロヒーローたちに取り囲まれていた。
一方は非難を、一方は賞賛を。
「君が無茶をする必要はなかったんだ!」
ヒーローに囲まれて萎縮し、正座をして縮こまっているのは緑谷。
「凄い個性だ!それにタフネス!プロになったら是非うちのサイドキックに!」
ヒーローに囲まれて、どこか不機嫌そうに座るのは爆豪。
こうも対照的かと、奏は横目で二人を見る。
あの後、オールマイトに吹っ飛ばされ、散り散りになったヘドロのような敵はヒーローたちに回収され、無事に警察へと引き渡された。奏は緑谷と爆豪の安否をきちんと確認したくて気を失っていた二人に近寄ったがヒーローに止められ、幼馴染みで心配なので付き添いたいという旨を伝えると、ヒーローたちの事後処理の邪魔をしないという条件でここに残ることを許された。
説教も賞讃もピークを終え、ヒーロー達が後始末に戻っていくのを見送って、漸く解放された緑谷は体の力を抜いて、爆豪はポケットに手を突っ込む。
「終わったの」
「かなちゃん!」
「なんでてめえがいんだよ……」
奏が声をかけると、二人は揃って奏の方を向いた。どちらも奏が待っていることには気付いていたようで、ヒーローたちに囲まれながらも何度か視線を向けていた。
「お疲れ、はいこれ荷物」
「あ!ありがとう……!」
「チッ」
奏は拾っておいた緑谷のリュックと爆豪の鞄を渡した。緑谷はすぐに中身を確認する。
「出久のは中身散らばってたから、落ちてた分は拾って入れといたよ。全部あるかはわかんないけど」
「うん……うん、大丈夫そう。ありがとうかなちゃん」
「いえいえ。勝己の方は?大丈夫?」
「問題ねえ」
「よしよし、じゃあ……」
二人の荷物に問題がないことを確認できると、奏は頷いてから右手を振り上げ、指先を揃えて緑谷の頭頂部に振り下ろした。「ぐえ」と緑谷が短く呻き、横で爆豪がそれを見て固まった。緑谷が痛む頭を両手で押さえる。よろよろと一歩下がって顔を上げると、滲む膜の向こうで奏が自分を見据えていることがわかって、緑谷の喉が締まる。
「出久……お前はまたとんでもない無茶をするな……」
「ひえっ」
奏の滅多に聞かない低い声に、緑谷は震えあがった。爆豪もジリジリと奏から距離を取ろうとしている。
奏を怒らせてはいけないというのは、緑谷と爆豪の、奏に対する少ない共通認識のひとつだ。奏を怒らせる度に、普段温厚な人が怒ると怖いっていうのはこういうことを言うんだなと緑谷は思い知る。
「ヒーローが手を出せない状況なのは見てわかっただろ。お前が飛び出してどうする!」
「はい!ごめんなさい!」
「というかなんでここにいる…?気をつけて帰れよってここで別れたよな!?」
「ひいい、ごめんなさいごめんなさい!」
目に涙を溜めながら、緑谷は気をつけの姿勢でブンブンと頭を下げる。その姿を見て、奏も溜飲が下がったのか、ふうと息をついていつもの落ち着いた声色で話し出した。
「まあ怪我がないならなにより……あの場で飛び出すお前の気質は美点だけど、時と場合を考えなさい」
「はい……」
しょぼくれる緑谷を前にして、奏は徐に右手を上げる。また手刀がくると身構えた緑谷の予想は外れ、その手は柔らかく緑谷の癖毛を撫でた。優しいその手は、言外に緑谷を労る思いが乗せられていて、じわりと胸の奥に暖かく広がった。
プロのヒーローたちと同様に、奏も自分の行動を叱ったが、ひとかけらだけ、彼は飛び出した自分を認めてくれた。それが嬉しくて、緑谷は勝手に緩む口元を抑えられなかった。
「オールマイトに救けてもらってよかったね」
「あ……うん」
奏が言うと、緑谷は曖昧に笑って頷いた。その姿に奏は違和感を感じて首を傾げる。てっきりもっと喜ぶものかと思っていたが、怒られたばかりでそんな気分になれないのだろうか。
「勝己、お前も怪我ないね」
「ねえよ、雑魚と一緒にすんじゃねえ」
「うん、そんだけ口が回るなら元気だね。そろそろ帰ろう。勝己は送るから」
「はあ!?いらねえよ!!」
爆豪が吼えたが、奏はいつものどこか眠たそうな目を向けて「駄目だね」とはっきり言い返した。
「警察から家に連絡行ってるだろうし、お前おばさんにちゃんと事情説明できるか?どうせキレるだろ。で、おばさんも怒る。おじさんが可哀想だね」
「人んちの家庭分析してんじゃねえよクソ野郎……!!」
「ほら帰るよ。出久、気を付けて、まっすぐ、帰んなね」
一言一言に圧をかけながら奏が言うと、緑谷はリュックの肩紐を握り締め何度も頷いた。奏と緑谷がそれぞれに進む方に足を踏み出した。空はすっかり夕焼けに染まって、橙に輝いている。
「デク!!」
夕空に、怒号に近いなにかが響いた。呼ばれた緑谷と、背後から聞こえた声に奏は足を止めて振り返る。振り向いた先には爆豪がいた。緑谷の方を向いて、体を震わせている。奏は訝しげにその後ろ姿を見ていた。
「俺は……てめえに救けを求めてなんかねえぞ……!救けられてもねえ!!あ!?なあ!?」
「ちょっと勝己……」
震えは耐え切れない屈辱からくるものか、爆豪の目は吊り上がり、歯軋りが聞こえるほど歯を食いしばっている。全身から伝わってくる拒絶のオーラに、緑谷はなにも言えない、言わない。
「一人でやれたんだ、無個性の出来損ないが見下すんじゃねえぞ、恩売ろうってか!?見下すなよ俺を!!」
今言うことがそれかと、奏は眉間にシワを寄せる。なんというか、勝己も難儀な性格をしている。
「クソナードが!!」
最後にそう言い捨てると、両手をポケットに突っ込んで勢いよく踵を返した。奏は呆れたように息を吐き、困ったような笑みを浮かべてもう一度ひらりと緑谷に手を振る。「早よ来いや奏ぇ!」と言う爆豪の怒号に「近所迷惑」と返しながらあとを追う。
橙色に染まった空はいつも通りで、先ほどまであんな事件があったことを忘れさせるようだった。どこかから桜の花びらが風に飛ばされて、橙を孕んで落ちていくのを、奏は目で追っていた。
△▼△
爆豪 勝己の機嫌は過去最高に悪かった。
腸が煮え繰り返るとはまさにこのことで、視界に入る全てのものが鬱陶しく感じる。見事な夕焼け色の空も、夕陽に色を変える桜も、どこか物哀しいオルゴール調の流れるパンザマストも、このときは爆豪の神経を逆撫でするものでしかない。
そんな爆豪の心中を知ってか知らずか、流れるパンザマストに合わせて、奏は隣で鼻歌を歌っていた。
「うぅるっせんだよ!」
「お前の方がうるさいから、声でかい、近所迷惑、これ三回目」
隣を歩く奏を睨みつけながら言えば、奏は横目で爆豪を見返し、呆れたような声色で尤もな反論を返す。爆豪は言葉を返す代わりにチッッッと鋭く盛大な舌打ちをした。
「機嫌悪いな、カルシウム足りてないんじゃない」
「全部あのクソナードのせいだろうが!!」
「すーぐ出久のせいにする」
「ああ!?」
聞き捨てならない台詞にぐりんと顔を横に向ける。奏のセンスを疑うアイマスクに描かれた二つの目と目が合ってしまい、余計に苛立ちが募る。
聞き捨てならない。しかしそうかもしれないと、爆豪は頭の隅の、まだ冷静さを残している部分で思う。
いつもいつも、自分を苛立たせるのはあのクソナードだ。幼い頃から自分の周りをうろちょろし、いつだって視界に入るその存在が、目障りで仕方がない。
――君が、救けを求める顔してた。
ふざけるな、誰がそんな顔するかよ。お前の都合のいい思い込みだろうが。
頭の中に何度も浮かぶあの顔に、爆豪はこれでもかと罵詈雑言を浴びせる。それでも苛立ちは消えない。それどころか募っていく一方だ。
「チッ……体が勝手に動いただあ……?クソが……!」
「……ああ、出久か。言ってたねそんなこと」
小さく零した声はしっかりと奏に拾われてしまう。
見れば奏は爆豪の方を向いていて、その薄い唇で緩く弧を描いていた。細められた目は群青色をしている。
「まるでヒーローみたいだね」
そのたった一言が、爆豪の深いところで張り詰めていた糸に触れた。
「あいつが!!!」
気付けば足を止め、煮えている腹の底から声を張り上げていた。声は住宅のコンクリート塀に反響し、ビリビリと自身の鼓膜に殴り掛かる。
「ヒーローになれるわけねえだろうが!!」
あんな無個性で、出来損ないの木偶の坊が、ヒーローになど、いずれ自分が行くであろう場所に立てるはずがない。そんなことは許さないし認めない。
荒くなった呼吸を整える。声を張ったせいか喉の奥が痛い。けれどそれよりも胸の中を蝕む不快感が嫌で嫌で仕方がない。きつく握った両の拳をどこかにぶつけてしまいたかった。
奏は足を止めて爆豪を見るが、なにも言わない。ただ自分を見ているのだろうと言うことは、下げた視界に入り込む奏の足先と、気配でなんとなく感じていた。
顔を下げたまま、いくらか落ち着きを取り戻した声で、爆豪は言う。
「いつまでも夢見心地の馬鹿が……!なにも出来ねえデクのくせに……!見てて腹が立つんだよ……!」
子供の頃に抱いた夢を棄て切れない木偶の坊。未練たらしく埋めていくノートのページ。全部全部馬鹿みたいで、全部全部ムカつく。不相応な夢をみて許されるのは小さな子供までだ。いい加減棄てて、諦めてしまえばいい。そうすれば自分だって幾らかこの不快感を拭えるはずだと、根拠もなく、けど確信を持って、爆豪は思う。
静かに息を吸って、なにも言わないもう一人の幼馴染みに、爆豪は静かに切り出す。
「……てめえが言えば、あいつだってさっさと諦めるだろうが」
幼い頃からずっと、無個性の緑谷がヒーローを志すことを大抵の人間が嗤い、否定してきた。そんな中でたった一人の例外がいた。それが奏だ。
奏は、一度だって緑谷の夢を否定しなかった。
奏は静かに緑谷の夢を聞き入れ、それを嗤うことも諫めることも、否定することもしない。かと言って無責任に夢は叶うとも、頑張れとも言わない。ただ静かに、緑谷の夢を見守っている。
だから緑谷はいまだに憧れを棄て切れないのだ。奏という拠り所がいるから、だから。
「……僕は言わないよ」
少しの間を空けて、奏は言った。
その一言にまた、収まろうとしていたなにかが込み上げてくる。せめて、"言えない"と言ってくれたら。
言えないのは少なからず緑谷に対して後ろめたい感情があるからだ。同情や、哀れみの類の。しかし奏は言わないと言う。つまり奏は純粋に、一片の含みや裏もなく、緑谷の夢を肯定しているのだ。
爆豪は顔を上げ、ギ、と奏を睨みつける。しかし奏は臆することもなく、ただ淡々と、その群青色の瞳で爆豪を見返してくるだけだ。
その目が嫌で仕方がない。
なにを考えているのかわからない、なにを映しているのかわからないその目が。こちら側を見透かすようなあの目が。そのくせまるで自分を見ていないようなあの目が、爆豪はずっと嫌いだった。
△▼△
「あら〜、奏くん!いらっしゃい!」
爆豪家にお邪魔すると、爆豪の母である光己が出迎えてくれた。快活で若々しい光希は笑顔で奏を迎え、一変、鬼の形相で息子を見た。
「勝己!アンタさっき警察から電話があったわよ!」
「うるせーババア!玄関ででけえ声出してんじゃねえよ!」
爆豪が負けじと言い返すと、スパンッと小気味のよい音を響かせて光己は爆豪の頭を叩いた。一層爆豪が吼える。
爆豪は母親譲りの顔立ちをしていて、顔のパーツも髪色も光己のものとよく似ている。勝己が女の子だったらこんな風になるんだろうな、と奏はいつも思う。
「ごめんね〜奏くん、いつもこいつの面倒みてくれて。大変でしょ」
「いえ」
「いつ俺がそいつに面倒みられたんだよ……!」
光己が息子の頭を押さえつけながら、奏に微笑みかける。爆豪は光己の腕を外して、さっさと靴を脱ぐと中へと上がって行った。
「ちょっと!どこ行くのよ!」
「着替えてくんだよ!」
ドスドスと足音を響かせながら部屋へと引っ込んでいく爆豪を見送って、光己は腰に手を当てて「まったく」と息を吐く。帰り道、元から悪かった爆豪の機嫌は一層悪くなり、ほとんど言葉を交わさないまま家まで来てしまった。奏は時折、知らないうちに爆豪を怒らせるときがある。気をつけなければとはその都度思うが、なにが彼の怒りに触れたのかいつもわからないままだ。まあ今回は緑谷の話が出たからだろうかと思っている。
「あの……勝己なんですけど、今日ちょっと敵に……」
「ああ、うん。警察から聞いてるよ。わざわざ送ってくれてありがとうね」
「いえ……一応大きな怪我はないみたいなんですけど」
「あはは!五体満足なら十分だよ!」
光己は明朗に笑って、「晩ご飯食べていく?」と夕飯を誘ってくれたが、奏はレジ袋の中の潰れたトマトが気になったので丁重にお断りして、今日は帰ることにした。その旨を伝えると、光己は二階の方へ顔を向けて爆豪を呼び出した。
「勝己ー!奏くん帰るって言うから見送んなさい!」
間髪を容れずに「勝手に帰れや!」という声が返ってきた。光己が目をつり上げて「晩ご飯抜きにするわよ!」と返すと玄関まで舌打ちが聞こえてきた。
学ランからTシャツにジャージというラフな格好に着替えた爆豪が降りてくる。
「なんで勝手に来たやつの見送りしなきゃなんねんだよ……!」
「アンタのこと心配して送ってくれたんでしょ!感謝しなさい!」
「頼んでねーんだよ!」
再びぎゃいぎゃいと言い合う母子を前に、奏は苦笑いをしながら「じゃあそろそろ」と切り出した。そうすると光己がパッと笑顔を向ける。
「また来てね!ほら、そこまで見送んな」
「わーっとるわ!」
爆豪はサンダルを突っ掛けて、奏の肩にぶつかりながら「早よこい」と急かす。奏は「お邪魔しました」と会釈をしてから玄関を出た。
外に出ると夕焼けの向こうに夜が差し迫っていて、春とはいえ少し肌寒い。風は一足先に夜のものになっていて、ひやりとして奏の首を撫でる。その冷たさに背筋が震えて、今日のことを思い返した。
あのとき、緑谷が飛び出したとき、背筋を伝った感覚はなんだろうか。畏怖とも、恐怖とも取れる。あの感覚は。
胸の奥がざわつくのは夜が迫っているからだろうか。緑谷の泣き笑う顔が頭から離れない。
「おい」
爆豪に声を掛けられて視線を前に向ける。黒鉄の門扉に手を掛けて、橙の瞳が奏を見ていた。
「ああ、ごめん」
ふと、視線を動かすと門扉に掛けてある爆豪の右手の甲が目についた。どこかに擦ったのか、傷がある。
「勝己、それ……」
「あ?あー……ヘドロヤローだろ。チッ」
奏はそっとその手を取った。敵に抵抗する際にどこかにぶつけて擦ったのだろう。皮が剥けて血が滲んでいる。爆破に耐えられる掌の皮は厚く、奏のものよりも逞しい。
奏は手の甲の傷に目を落としたまま、無意識のうちに眉根を寄せた。あのとき届かなかった手を今こうして掴めることに、込み上げてくる安心がある。
「……無事でよかったよ、本当」
声は宵に紛れるような小ささで、祈るような熱があった。
奏のその表情を見て、爆豪は咄嗟に手を払い除ける。自分を心配するなと、腹の奥から湧き起こる感情をそのままにぶつけようと口を開いた。けど手を払い除けられた奏と目が合って、その目が、嫌いな紺青の目がどこか寂しそうに見えて、ぶつけるはずの言葉はひとつも出なかった。誤魔化すように顔を逸らして「余裕だわクソが」と言う。言えば、奏は曖昧に笑った。
「悪いね、見送りありがとう。おじさんにもよろしく」
言いながら、奏は門の外へ出る。さて帰ろうと進路に体を向けて歩き出した。
「あ、そうだ」
カシャンと高い音を立てて、門扉を閉じる音を背後に聞き、思い出したように奏は視線を宙に上げる。視線を上げた先では薄藍がそこまで来ていた。その中で光る一粒の星を見つける。一番星だ。
奏は肩越しに振り返り、爆豪を見た。門の向こうで、爆豪が訝しげに奏を見ている。奏は爆豪としっかり目を合わせ、薄く笑った。
「僕の第一志望も雄英だから」
「もちろんヒーロー科ね」と続けて言うと、爆豪の両目が大きく開かれ、ポカリと薄く口が開く。奏はそれだけ言うと満足して「じゃあね」とひらひらと手を振って歩き出した。
暫くすると、「はあああああああ!?」という声と爆破音が住宅街に響いた。
01:夕暮れに一番星
1