残響ユートピア10






「個性把握……テストォ!?」

 グラウンドも想像通りの、否、想像を超える広さで、奏が感心している間にクラスメイトの数人が叫んだ。グラウンドに集められて告げられたのは個性把握テスト。入学初日からトバすなあと奏はあくびを堪えた。代わりにじわりと視界が滲む。

「入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出る時間ないよ」

 ショートカットヘアの女子の当然の疑問にすら、相澤はなんでもないように淡々と答えた。朝から天気は崩れぬまま、その青さを湛えている。気候もちょうど良く、絵に描いたような入学式日和だが、正直眠くなりそうだったので出なくていいなら別にいいかと思う。入学式は教師や役員の長い話がつきものだ。回避できるならそれに越したことはないと思いながら目を擦る。

「雄英は"自由"な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」

 つまりたとえ入学初日だろうと、入学式への出席も担任の意向次第ということかと奏は解釈をして、随分ぶっ飛んだ校風だなと呆れた。今頃隣のクラスは入学式に参加しているのだろうか。

「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈、中学の頃からやってるだろ?"個性"禁止の体力テスト」

 理解の追いつかないクラスメイトを放ったままに、相澤はさらに言葉を重ねていく。どこにも覇気はなく、抑揚もない。
 体力テストは確かに中学でも行った。個性の使用は禁止。公共の場での個性使用は法律で取り締まられている。学校内での個性使用も当然認められていない。ゆえに、体力テストでは個性は使えないのが普通だ。
 それを国の怠慢だと相澤は言って、爆豪へと目を向けた。

「爆豪、中学のときソフトボール投げ何メートルだった」
「67メートル」

 中学のときの体力テストを思い出す。爆豪は奏の結果を聞いては一喜一憂ならぬ一煽り一キレをしていた。ちなみに中学での奏のソフトボール投げの記録は68m、わずかだが爆豪の記録を上回ったので理不尽な舌打ちをかまされた。
 相澤は爆豪をボール投げのために引かれた白線の円の中に立たせ、ボールを投げて渡す。

「じゃあ"個性"を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。早よ」

 雑な急かし方をされて、ボールを受け取った爆豪が腕の筋を伸ばし、右手に持ったボールを握り直す。
 「思いきっきりな」という相澤の言葉に、爆豪は楽しそうに悪い笑みを見せて構えた。腕を大きく振りかぶる。

「んじゃまあ……死ねえ!!」

 爆豪の叫び声とともに大きな爆破が起こる。砂埃と小さな砂利が巻き上げられ、髪を大きく揺らす。球威に爆風を乗せたボールは空高く投げられて、やがて見えなくなった。
 ボール投げの掛け声に死ねなんて使う奴があるか。奏は額を手で押さえて呆れる。初日から粗暴な面が見えすぎてる。引かれてるぞお前周りに。
 ピピッという電子音が相澤の持っている小型の端末から聞こえた。

「まず自分の最大限を知る。それがヒーロー素地を形成する合理的手段」

 相澤はそう言いながら端末の画面を奏たちへと見せた。705.2mという数字が出ていて、どうやらボールに仕掛けがあり、それと連動して飛距離を出してくれる仕組みのようだった。
 ボール投げで三桁。個性を使わなきゃまずあり得ない数字だ。

「なんだこれ!すげー面白そう!」
「個性思いっきり使えるんだ!さすがヒーロー科!」

 クラスメイトたちが沸き上がる中で、奏は首を傾げる。面白そうか?個性の使用制限がかかっているのが常の状態で、使用を許されたことが、どうやらクラスメイトたちには響いたらしい。

「……面白そう……か」

 低く呟く相澤の声が聞こえた。空気がピリつく。

「ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 声には覇気がなくとも圧はある。冷めていて、どろりとした目が奏たちを貫いた。はしゃいでいたクラスメイトたちもその圧に気付き黙る。対して相澤はつらつらと続けた。

「よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」
「はあああ!?」

 おやまあ。奏も目を丸めて、口元に手を当てた。とんでもないことを言い出すじゃないか。入学初日、下手すりゃ即退学。ハードにもほどがあるぞ雄英。いや、これは雄英っていうよりこの人の……

「生徒の如何は俺たちの"自由"。ようこそこれが」

 雄英の売りは自由な校風。事実として雄英は他の学校に比べれば校則が緩く、生徒の自主性を重んじる。そしてそれは教員側も然りだと、相澤は言った。入学式に参加させようがさせまいが、入学初日で除籍しようがしまいが、それも自由なのだ。
 髪を掻き上げ、相澤が今日初めて笑う。渇いた目が赤く光っているように見えた。

「雄英高校ヒーロー科だ」


△▼△
 

「出久、大丈夫?」
 
 個性把握テストで成績最下位は除籍処分という通告を受けて、わかりやすく緑谷が動揺した。それもそうだ、自分の最大限を知るもなにも、彼はまだ個性が発現したばかり。

「あわ、あわわかなちゃん……僕まだ……」
「うん、調整できないんだろ?」

 緑谷が血の気の引いた顔を奏に向けたときだった。

「最下位除籍って……!」

 誰かが声を上げる。それはまあ当然の反応かと目を動かす。声の主は先ほども入学式について尋ねていた女子だ。

「入学初日ですよ!?いや初日じゃなくても……理不尽すぎる!」

 おお、はっきり言うな。奏が感心していると、相澤はまた温度の低い声で淡々と言い放った。

「自然災害……大事故……身勝手な敵たち……いつどこから来るかわからない厄災。日本は理不尽にまみれてる」

 目にかかる前髪を鬱陶しそうに手でよけながら、それでも相澤の口元は微かに弧を描いていた。まだ腑に落ちていないクラスメイトたちの表情は曇っている。

「そういう理不尽を覆していくのがヒーロー」

 相澤が続けた一言に、クラスメイトたちの顔つきが変わる。相澤の言うことはもっともで、たとえそれが教師の権限を利用した嫌がらせじみたものでも、これから自分たちが向かう場所は比べものにならない理不尽で溢れかえっている。それに気付かされて、奏も相澤を見据えた。

「これから三年間、雄英は全力で君達に苦難を与え続ける」

相澤は人差し指を立て、第二関節を動かして招くような仕草をして笑う。

「"Plus Ultra"さ。全力で乗り越えて来い」

 反論する者はいなくなって、デモンストレーションはこれまで。相澤が準備をしてる間にストレッチなりしておけと言うので、その隙に奏はもう一度緑谷を見た。

「今年度は折角定員増えたのにな……最下位除籍で早速なかったことにしようとするんだから笑えるね」
「まったく笑えないよかなちゃん……!」

 和ませるつもりで言ったが、どうやら緑谷には本当に余裕がないらしく、青い顔で目を剥きながら言われてしまった。

「八種目か……出久、増強型なんだろ?普通に扱えばだいぶ有利だよ」
「その普通がまだできないんだよ……」

 緑谷は自身なさげに手首を掴み、奏は腕を組む。
 まだ調整ができないとは聞いているが、どの程度なのかは見なければわからない。奏はまだ緑谷の個性を見ていない。

「個性使用可の体力テストね……僕の個性そういうのじゃないからうかうかしてらんないな」
「うう……緊張してきた……」
「あんま意識しすぎると使えるものも使えないよ。言っただろ、気負い過ぎるなって」

 そう言って緑谷の頭を撫でる。緑谷は弱々しく笑って見せたが、不安は晴れないようで眉間のしわは残ったままだった。
 測定の準備ができたらしく、最初の種目は50m走。出席番号順に二人ずつレーンに並ぶ。
 
『3秒04!』

 測定機がタイムを告げる。雄英は様々な面でAI化が進んでいるようで、ボール投げも然り、この50m走も専用の機械が測定し、結果を記録してくれるらしい。

「飯田くん足速いんだね。"個性"?」
「む、ああ!俺の個性はエンジン!見ての通りだ!」

 測定が終了して戻ってきた飯田に、奏が尋ねると、飯田は眼鏡のブリッジを押し上げながら答えた。
 見ての通りと飯田が言うように、彼の両脚のふくらはぎにはマフラーのようなものが生えている。なるほど、と奏は頷いた。
 個性の使用を許されたことで、50mひとつとってもみんなスタイルが大きく違う。蛙のように飛び跳ねて走る者もいれば、ヘソからレーザーのようなものを出してその反動でゴールする者もいる。奏は普通に走った。それでも記録は5秒ちょうど。足は速い方だ。
 
「爆速!!」
「お」

 聞き慣れた声が響く。爆豪と緑谷の番のようで、爆豪は体の前で両腕を交差させてから、両腕を後ろに伸ばすと同時に爆破を起こす。その勢いに乗って記録は4秒13。
 勝己は色々応用が効いていいな。というかあいつら出席番号連番か……なんかもう、ここまで揃うと逆に凄いな。
 緑谷の記録は7秒02。個性を使用した様子はなかった。決して遅くはないが、この中で特別速いわけでもない。

「おい奏」
「ん、お疲れ」
「疲れてねーわ!おいてめえのタイムいくつだ」

 走り終えた爆豪は早々に奏の元へ来ると、顎を突き出しながら奏のタイムを聞いてくる。昔からこうなので、奏もさらりと返した。

「5秒ちょうど」
「ハッ!俺の方が速ぇ!」
「うん、見てたよ。速かったな」

 自分の記録の方がよかったと知るなり、爆豪は歯を見せて凶悪な笑みを見せた。4秒台はクラス内でもかなり上位だ。奏は素直に爆豪が速かったことを認めたが、爆豪は笑みを失くして、眉を顰め歯を食いしばる。一瞬で不機嫌そうに顔を歪めた。

「チッ……残りの種目も全部てめえより上に行く」
「そう、僕も頑張るよ」

 頷いて返せば、爆豪はもう一度強く舌を打つ。話している間に全員が走り終えたらしく、次の握力測定が始まっていた。今回は特に順番は関係なく、適当に測定を終えた者が近くにいた者に握力計を渡していく。機械が複数あるおかげで回りも早い。

「すげえ!540キロて!あんたゴリラ!?いやタコか!」
「タコって……エロいよね……」

 異形型の個性か、腕が複数連なるように生えた男子生徒が囲まれている。りんごも片手で潰せそうな記録だ。ふと見ると、ポニーテルの女子生徒が腕から万力を創り出した。凄い個性だなと、つい見ていると、それで握力計を挟み、測定を始めた。
 ああいうのアリなのか。ははあ、なるほどなるほど。結果として彼女は先ほどの男子生徒を上回る記録を収めた。相澤も特になにも言わないということはあれはアリなのだろう。
 奏の番が回ってきて、右手に握力計を持つ。軽く握り締めてから、腕を伸ばして力を入れて握り直す。
 さっきのあれがアリならば、僕にもやりようがある。奏は右手から個性を発動させる。数秒もしないうちに握っていた部分がバキンと音をたてて壊れた。

「うおおー!測定機ぶっ壊れた!」
「マジかよすげー!」

 ちゃんと内部のパーツだけじゃなくて機械そのものを壊した。数値を出す液晶には『Error』の文字が点滅している。ちらりと相澤の方を見れば、布越しに「問題ない」と返された。

「握力は暫定一位だな」
「ありがとうございます」
「ただし備品はなるべく壊すな」
「……すみません」

 ため息混じりに注意を受けて、小さく頭を下げる。プラプラと握力計を握っていた右手を振っていると爆豪と目が合った。彼は目を八十度までつり上げてギリギリと歯軋りをしながら奏を睨んでいる。爆豪の握力測定はすでに終わっているようで、奏に負けたことが悔しいらしい。僕にだってりんごは潰せるのだ。爆豪に向けてピースして見せると「クソが!!」と叫ばれた。周りにいる子が驚いてるからやめろって。
 その後も走り幅跳び、反復横跳びとテストを続けて、現在、ソフトボール投げ。

「セイ!」

 ショートカットの女子が投げたボールは、放物線を描くことなく、そのまま空に吸い込まれていく。落ちる気配の一切ないそれを、奏たちは見守った。暫くするとピピッと相澤の持つ端末が鳴る。液晶に映し出された「♾」にクラスメイトたちは湧き上がった。奏も小さく目を見開く。おお、無限とかあるんだな。
 順番にボールを投げていく。奏の記録は74m。個性は活かせなかったがまあまあいい記録だろうと言い聞かせた。
 順番は緑谷に回る。緑谷は未だ大きな記録を出せていない。位置に着く彼の表情には影が落ちていて、奏は思わず眉を顰めた。
 
「緑谷くんはこのままだとマズいぞ……?」
「ったりめーだ、無個性の雑魚だぞ!」
「雑魚とか言うな」

 飯田の言葉に、爆豪が緑谷を指差しながら強く言う。奏は緑谷を見たまま、爆豪へは目を向けずに注意をした。
 まさか初日からこんな展開になるとは思っていなかった。残された種目はボール投げの他に長座体前屈、持久走、上体起こしだけだ。増強型の個性を活かせるとしたらもうここしか残されていない。
 大丈夫か出久……あの人なら本気で除籍する。全員が全員個性を活かしきれてるわけじゃない。でもどっかで大きな記録は立ててる。飯田くんの言う通り、今この中で除籍に近いのは出久だ。
 自分のことじゃないのに心臓が嫌な音の立て方をする。肺を空焚きにしているような感覚に視界が狭くなる。
 飯田の声が大きくなったのは、奏に映る緑谷の背中が酷く小さく見えたときだった。

「無個性!?彼が入試時になにを成したか知らんのか!?」
「は?」
「……? 飯田くん、それってどういう……」

 無個性という言葉を受けて、飯田が信じられないものを見るような目で爆豪を見た。入試のとき、奏と爆豪は緑谷と会場が別だったが、飯田は同じだったのだろうか。成した、というのはどういう意味だろう。
 奏の視線が緑谷から飯田にずれる。

「46m」

 奏の視線が逸れた隙を突くように、緑谷の一回目のボール投げが終わったらしい。相澤が無情に液晶の数値を読み上げる。その結果に誰よりも驚いていたのは緑谷だった。

「な……今確かに使おうって……」
「"個性"を消した」

 自分の両手に目を落とす緑谷に、相澤が近寄りながら低く言う。掻き上げた前髪が赤い双眸を引立てる。相澤は険しい表情で言葉を続けた。

「つくづくあの入試は……合理性に欠くよ。お前のようなやつでも入学できてしまう」

 言葉は冷たく、緑谷の実力では本来なら入学するに値しないとでも言いたげに、相澤はその赤い瞳で緑谷を見据える。首の周りに巻かれた布を雑に引っ張っているせいで、首にかけている黄色いゴーグルが見えた。

「消した……!あのゴーグル……そうか……!視ただけで人の"個性"を抹消する"個性"!抹消ヒーロー、イレイザー・ヘッド!」

 正解だよ、出久。
 奏は心の中でその解答を肯定した。

「イレイザー?俺知らない……」
「名前だけは見たことある!アングラ系ヒーローだよ!」

 イレイザー・ヘッドの知名度はそこまで高くない。本人が仕事に差し支えるからとメディアへの露出を嫌っているのだ。メディアへの露出が増えれば世間に顔が知られるし、個性も知られる。ヒーロー対敵の戦いでは、個性の情報は大きなアドバンテージ。世間への認知度が低い方が、仕事は合理的に進む。彼が好む考え方だ。
 相澤はゆっくりと緑谷に近づいていく。

「見たとこ……"個性"を制御できないんだろ?また行動不能になって、誰かに救けてもらうつもりだったか?」

 また、という言葉が引っ掛かった。奏は眉を寄せる。

「なに話してんだろ?」
「聞こえねー」

 クラスメイトたちにはこの距離じゃ相澤たちの声は聞こえないらしい。聴力強化の個性らしきクラスメイトもいそうだが、興味がないのか、聞こえているが黙っているかの二択だろう。

「そっ、そんなつもりじゃ……!」
「どういうつもりでも、周りはそうせざるをえなくなるって話だ」

 相澤は首周りの布を緑谷に絡めて引き寄せる。緑谷の言葉を遮った声は呆れを含んだ冷たさがあった。淡々とした声音が告げるのは間違いなく事実。ヒーローというのはすべて守り、救けようとするものだ。だから尊ばれる。

「昔暑苦しいヒーローが、大災害から一人で千人以上救い出すという伝説を創った。同じ蛮勇でも……お前は一人救けて木偶の坊になるだけ」

 諭すような声はどこか憐れみさえ滲ませているようだった。木偶の坊、それが緑谷を体現する言葉だとするなら、奏が願った未来はきっと現実にはならないのだろう。

「緑谷出久、お前の"力"じゃヒーローにはなれないよ」

 はっきりと相澤はそう言った。個性発動時に持ち上がる髪が、ふっと重力に従い落ちていく。
 個性を使いこなせないヒーローなどあり得ない。自分の力で自滅するようならなおさら。そんなこと奏にだってわかる。緑谷だってきっとわかっている。
 緑谷にはあと一回ボール投げが残されている。これがラストチャンスと言っても過言ではない。
 負荷が大きいって、調整ができないって言ってた。先生の口振りから、あいつさては入試でやらかしてるな……?ヤケクソで個性使って大怪我すれば先生の言う通り。かと言って記録を出せなきゃ除籍はほぼ確定。どうする出久……!

「彼が心配?僕はね……全っ然」
「ダレキミ」
「指導を受けていたようだが……」
「除籍宣告だろ」
「出久……」

 クラスメイトたちの言葉を聞きながら、奏は静かに拳を握る。緑谷がボールを握り締め振りかぶった。
 今の緑谷出久では、ヒーローになれないのかもしれない。でも奏は知っている。力を持たなかった無個性の緑谷は、誰よりもヒーローに憧れて、誰よりも己の身体に悩んできたことを。
 "個性"を得て……使いこなせないなんて理由で、諦められるようなお前じゃないだろ。雄英まで来た。ならあとはもう、ただただ足掻くだけだ。足掻くしかないって、出久はとっくに知っている。
 白球が空に放たれた。それは高く高く、遠く遠く、空に吸い込まれるように空中を裂いていく。いずれ見えなくなってから、数秒遅れで相澤の手の中で端末が鳴った。奏がそれを覗くと、705.3mの文字が見えた。

「先生……!」

 緑谷が相澤を見る。右手の人差し指を赤黒く腫らして、ぎこちなく、けれど力強く拳を握る。目に涙を溜めながら、痛みに唇を噛み締めながら、それでも笑って。

「まだ……動けます」

 その不器用で痛々しい姿に、奏は胸の奥から言い表せない感情が迫り上がるのを感じた。



10:弱々しくとも前へと

10




戻る TOP