残響ユートピア29






 どんな事件が起きようとも、世界はいつも通りに回っていく。空はそ知らぬ顔でいつもの通りに青く、太陽の光が世界は平和だと信じ込ませるように暖かく眩しい。通学路の散った桜の花びらだけが、一昨日の風の強さを思い出させて、あの襲撃事件は現実だったのだと突きつけてくる。
 あんなにも咲き乱れていた桜はほとんどが地に落ちて、春の彩度が少し失われたように思う。代わりに陽を透かす瑞々しい黄緑色が、空に向かって伸びていた。
 
「みんなー!朝のHRが始まる!席に着けー!!」
「着いてるよ。着いてねーのおめーだけだ」
「んっふふ」

 飯田が両手を大きく広げながら着席を促すが、すでにA組のクラスメイトたちはみんな席に着いている。着いていないのは瀬呂が言ったように飯田だけで、おかしくてつい笑ってしまう。
 教室の雰囲気はあんな事件が起きようと変わらなくて、そのことに奏は密かにほっとしていた。あの日の影を纏ったままヒーローを目指すのは、あまりにも苦しすぎる。
 飯田が席に着くのと同時に本鈴が鳴って、すぐに教室の扉が開いた。

「おはよう」
「相澤先生復帰はえええ!!」
「プロすぎる!」

 入ってきたのはほとんど包帯男と化した相澤だった。彼は顔面を包帯で覆われ、骨折した両腕を首から包帯で吊られている。捕縛布も相俟って、黒と白の割合が半々くらいになっていた。
 ヨロヨロとおぼつかない足取りで教壇に立つ姿に、奏は露骨に顔を顰める。

「先生無事だったのですね!」
「無事言うんかなあ、アレ……」

 無事とは言わないだろ。万全じゃないなら休めよ。
 心の中で悪態を吐きながら、相澤を見る。相澤は奏の視線に気付かないのか、立っているのに精一杯なのか、ふらつく体を支えながらいつもの冷めた声で話す。

「俺の安否はどうでもいい。なによりまだ戦いは終わってねえ」
「戦い?」
「まさか……」
「まだ敵がー!?」

 峰田が頭を抱えながら絶望した表情で叫ぶ。戦いが終わってないとはどういうことか。不安があふれ始めた教室内の動揺も気にせぬ様子で相澤は教室を見渡し、包帯と捕縛布のせいでいつもよりくぐもった声ではあったが、はっきり告げた。

「雄英体育祭が迫ってる!」
「クソ学校っぽいの来たあああ!」

 不安が覆った空気が一変、お祭りムードに切り替わる。
 体育祭、雄英に入学して最初の大きな学校行事だ。取り敢えず事件性のない戦いだったので奏も力を抜いた。
 体育祭という響きに沸き上がる教室内で、誰かが声を上げる。

「待って待って!敵に侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」
「報道陣に餌を与えるだけでは?」
「音波って意外と口悪いよな……」

 当然の疑問に、教室が少し落ち着きを取り戻した。なにせ自分たちはあの事件の当事者で、一番の被害者だ。あの恐怖が完全に拭えたわけではないし、一度侵入を許しているのに、部外者を校内に入れることになる行事を積極的に行っていいのか。
 事件の翌日、奏はいつもより三時間遅く目が覚めた。寝ぼけ眼でスマホを確認すると、電源を切っていたスマホには着信とメールがそれぞれ十数件溜まっていた。事件が報道されて、それを知った知人たちが心配して連絡をくれていたのだ。
 テレビをつければ雄英の敷地内に敵が侵入したことが大々的に取り上げられて、新聞の一面も飾っていた。その中身は雄英への非難が半分。奏たち生徒らの行動への賞賛が半分。
 自分たちがその敵に唆されてあんな騒動起こしたせいでこっちは襲われたんだけど。犯罪の片棒担がされてたことにわかってんのかね、報道陣は。自分たちの不法侵入報道してりゃいいのに。
 奏は呆れと苛立ちを半分ずつ抱えながらテレビを消した。見ていて不愉快だったので二度寝をキメた昨日のことを思い出し、また苛立ちが甦る。
 体育祭を催すことに批判的な意見だって少なからずあるだろうし、また雄英非難の的にされるのならばいい気はしない。

「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示す……って考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ。なによりうちの体育祭は……最大のチャンス」

 チャンス、という言葉に奏は複雑な気分になる。チャンスなのは例年の雄英体育祭を観ていればわかるし、ただそれにしたって一昨日のことを考えればリスキーなのは間違いがないのだから。

「敵ごとにで中止していい催しじゃねえ」
「いやそこは中止しよう?体育の祭りだよ……」
「峰田くん……雄英体育祭観たことないの!?」

 小声で漏らす峰田に、緑谷が目を丸める。体育祭はどこの学校でも行われる行事だろうが、ここ雄英においては一味違う。

「雄英の体育祭は日本ビッグイベントの一つ!かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ全国が熱狂した。今は知っての通り規模も人口も縮小し形骸化した」

 "個性"の発現に伴い、社会情勢は大きく動き、揺らいだ。本来の人としての規格が、"個性"により壊れ、失われていった。十人十色、唯一無二。誰しもが超常を宿すようになった時代、オリンピックなどの規定を遵守して行われる大会などは公平さを保つことが難しくなり、かつてほどの熱量はもはや向けられていない。
 各種スポーツにおいても、超常以前ほどの人気はない。個性禁止と決められても、異形型の個性などは異形であるだけで不公平だと後ろ指を指される。そうして異形型の参加権を奪えば不平等だと責められる。
 一方を立てれば一方が立たず。そうしてかつての世界が楽しんでいたものは段々と本来の規格や熱意を失い、どんどん縮小されたのが現代だ。
 学校の身体測定や体力測定で個性禁止なのはそういう細かい規定を整えるのが大変だからだろうなと奏も思う。相澤流に言えば国の怠慢だ。
 この超常を、みんなが普通だと受け止めて、なんでもないように生きて世界は回ってるのに。こういうところはほとんど進歩がないのだから笑ってしまう。奏は皮肉るように唇で歪な弧を描いた。

「そして日本においての今、"かつてのオリンピック"に代わるのが雄英体育祭だ!」

 珍しく強く言い切った相澤に、教育機関としては譲りたくない行事なのだろうなとわかる。峰田はいまだ眉を下げたままで、そんな彼に後ろの席に座る八百万が声をかけた。

「当然全国のトップヒーローも観ますのよ。スカウト目的でね!」

 オリンピックに代わる祭典。世間的にも注目度が高く、当然活躍すればプロヒーローの目に留まる。

「資格取得後はプロ事務所にサイドキック入りが定石だもんな」
「そっから独立しそびれて万年サイドキックってのも多いんだよね。上鳴あんたそーなりそう。アホだし」
「くっ!音波ぃ〜!耳郎がぁ〜!」
「ははは、そうならないように頑張ろうね上鳴くん」
「微妙にフォローになってなくね?」

 後ろの上鳴が奏の椅子の背もたれを掴んでガタガタと揺らす。奏はカラリと笑って頑張ろうと言うと、瀬呂が苦く突っ込んだ。

「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限、プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ」

 ヒーローの人気は、仕事の数だけで決まるわけではない。実力はもちろん、カリスマ性やら親しみやすさなどを求められてその人気が決まる面がある。それもどうかと思うけどな、めんどくさいし。奏は首裏に手を当てて肘をつく。

「年に一回、計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ!」

 どうも心が上向かないまま、HRが終わった。




 四時間目の現国が終わり、教科担当であるセメントスが教室を出ていくと、一時的な開放感からか教室が一気に賑やかになる。クラスメイトたちの話題はみんな体育祭のことだ。

「あんなことはあったけど……なんだかんだテンション上がるなオイ!活躍して目立ちゃプロへのどでけえ一歩を踏み出せる!」

 切島の声が教室内に響いた。クラスメイトたちの体育祭に向けての気持ちは上向きらしい。まあ、先生からあんな説明されたら張り切るのが普通か……

「みんな凄いノリノリだ……」
「ね」
「君たちは違うのか?」

 学食へ行こうと立ち上がって緑谷と一緒になると、飯田に肩を叩かれる。飯田は両手をグッと握り締め、脇を閉じて腰を引く。彼なりの張り切っているポーズらしい。

「ヒーローになるため在籍しているのだから燃えるのは当然だろう!?」
「飯田ちゃん独特な燃え方ね。変」

 梅雨ちゃんめっちゃはっきり言うじゃん。
 通りすがりの蛙吹に変だと言われても飯田は「どこがだい!?」と姿勢を崩すことなく尋ねてくるので笑ってしまいそうになるのを我慢して言葉を返す。

「まああんなことの後じゃねえ。気持ち切り替えるのも大変だよ」
「僕もそりゃそうだよ!?でもなんか……」
「デクくん、飯田くん、音波くん……」

 緑谷の言葉を遮ったのは麗日だった。いつもよりトーンの低い声に、奏たち三人の視線が向く。

「頑張ろうね体育祭」
「顔がアレだよ麗日さん!?」
「女の子にあんまり言いたくないけど……ほんとに顔がアレだよ麗日さん」

 麗日はいつもからは想像のつかない、加虐的な笑みを浮かべていた。眉間はいくつもしわが刻まれ、眉はつり上がっている。

「どうした?全然麗らかじゃないよ麗日」

 芦戸もそう言って、余計なことを言いかけた峰田は蛙吹に舌でビンタされる。凄いな梅雨ちゃん、ノールックで。
 麗日は勢いよく立ち上がり、凶悪な顔のまま、握った拳を高く突き上げた。

「みんな!私!頑張る!!」
「おおーーけどどうした。キャラがフワフワしてんぞ!」

 クラスメイト一同も麗日の気合いに合わせて拳を突き上げる。奏も合わせて拳を上げた。いつも麗らかな麗日さんだから、体育祭も麗らかに臨むと思ってたけどそうじゃないのかな。
 麗日の意志表明を聞いた後で、奏たちは揃って学食へ向かう。教室を出て、階段を降りる途中で緑谷が尋ねた。

「麗日さんはなんでヒーローに?」

 緑谷の質問に、そういえば聞いたことないな、と奏と飯田も麗日へと視線を流す。麗日は一瞬顔を引き攣らせてから、言葉を濁し、言いづらそうに目を逸らした。

「言いたくないなら無理しなくていいんだよ」
「や!そういうんじゃなくて……え〜と」

 麗日は顔の前で手を振りながら、ごにょごにょと語り始めた。彼女が紡いだ言葉はあまりにも予想外で、奏らは揃って目を丸める。

「お金……?」
「お金欲しいからヒーローに!?」
「究極的に言えば」

 わさわさと高速で頭を掻く麗日に、意外だなと奏も思う。普段の麗日さんを見てれば世界平和とか言われた方がまだしっくりくる。
 当の麗日は、恥ずかしそうに両手で赤らんだ頬を包んだ。

「なんかごめんね不純で……!飯田くんとか立派な動機なのに私恥ずかしい」
「なぜ!?生活のために目標を掲げることのなにが立派じゃないんだ?」

 左右対称に大きく両手を動かす飯田の動きはおかしいが、言っていることはもっともで、こういうところがサラッと言えるのが飯田くんの良いところだよなあと奏は薄く笑う。

「動機に不純も純粋もないよ。それが麗日さんの源なのは間違いないんだから」
「うん……でも意外だね……」

 緑谷も奏と同じような感想を抱いたらしい。お金が欲しいというのは決して悪いことじゃないが、どことなく麗日のイメージからは離れたところにある。

「ウチ建設会社やってるんだけど……全っ然仕事なくってスカンピンなの。こういうのあんまり人に言わん方がいいんだけど……」
「建設……」
「麗日さんって社長令嬢だったんだね」
「嬢!?いやいやそんなんとちゃうよ!?ほんとに!」

 全力で否定してくる麗日にを尻目に、緑谷はいつものように手を口元に当てて考えている。あ、飯田くんも同じ格好してる。僕もやっとこ。
 並んで男子三人で口元に手を当てながら考える仕草を取る。

「麗日さんの個性なら許可取ればコストかかんないね」
「でしよ!?それ昔父に言ったんだよ!」

 確かに麗日の物体を浮かせる個性は、建設業では大いに役立つだろう。この超人社会は申請をして国に許可を取れば個性を仕事に活かすことも可能だ。個性を上手く使えば色々なところでのコスト削減に繋がる。特に自営業ではその面はより強いのだろう。
 きっと幼い麗日は、麗日なりに考えて自分の個性が両親の助けになると思った。子供は大人が思っている以上に大人の態度に聡い。仕事がなくて困っている様子をきっとそばで見てきて、力になりたいと思ったのは想像しやすい。けれど麗日が言うには、両親はそれを良しとしなかったようだ。
 親として娘が自分の夢を叶えることを望んでいる。

「私は絶対ヒーローになってお金稼いで、父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ」

 その目に強い意志を見た。奏も、緑谷も、飯田も、その目に圧倒される。
 麗日さんは……ヒーローに憧れて、でもその憧れよりもご両親を助けることを優先しようとして……でもご両親はそうじゃなくて。だから、ご両親の意志を汲んで自分の夢を叶えた先で、ご両親にもらったものを返そうとしているんだな。
 自分の夢を、自分以外の誰かのために叶える。それはきっと、麗日の優しさがあふれた結果なんだろう。

「麗日くん……!ブラーボー!」
「素敵だね、麗日さん」

 飯田と揃って拍手を贈ろうとした。そのときだった。

「おお!緑谷少年が!いた!!」

 前方の曲がり角から現れたのは黄色いスーツを着たオールマイトだ。突然の声量に奏たちはビクリと肩を跳ねさせる。相変わらず動きが大きいなオールマイト先生。
 オールマイトは角からひょこりと上半身だけを見せながら、ピンク色の包みを見せる。ウサギ柄のそれは、オールマイトに似合わない可愛らしさがあった。

「ごはん……一緒に食べよ?」
「乙女や!」

 吹き出す麗日の向かいで、奏は訝しげに眉を寄せる。なんでオールマイトが出久を……?
 奏が不審に思おうにも、緑谷がオールマイトの誘いを断るわけもなく、奏たちに両手を合わせるとオールマイトと一緒にこの場を離れた。



△▼△
 


「デクくんなんだろね」
 
 学食の列に並びながら麗日が言った。個人でオールマイトに呼び出されるなんて、他のクラスメイトたちにでは見たことがない。

「オールマイトが襲われた際、一人飛び出したと聞いたぞ。その関連じゃないか?」

 飯田がそれらしい理由を言った。確かにそう言われれば違和感は少ない。けれど奏はもうずっと、幼馴染に対する違和感が消えない。そしてようやくそれがはっきりとしたものになった。

「蛙吹くんが言ってたように、超絶パワーも似ているし、オールマイトに気に入られてるのかもな。さすがだ」
「ガッテン!」

 飯田の解釈に麗日がポンと手を打つ。気に入られている。嬉しいことだけど、教師が一人の生徒に肩を入れるのはどうだろうか。眉を寄せて考えていると、ふと視線を感じて顔を上げる。そこには赤と白のおめでたいカラーリングの頭髪が見えた。
 轟くんだ。
 轟と目が合って、奏はひらりと手を振ってみるが、轟は特にリアクションを示さず顔を背けてしまった。轟くんっていつも一人だな。いや別に一人が好きなのかもしれないし。いいんだけど。
 奏は頼んだラーメンを受け取って、飯田、麗日と席に着く。醤油味のラーメンを啜りながら、緑谷に対して感じていた違和感の正体をはっきりさせた。
 はやい話が、おとなしすぎる。オールマイトを前にして。
 オールマイトが雄英勤務になったと報じられたときも、初めての戦闘訓練のときも、オールマイトに個性が似ていると言われたときも……今思えば、あの反応は緑谷にしては鈍すぎる。
 だって出久だぞ?何年オールマイトのガチ勢をやってると思ってるんだ?オールマイトの雄英勤務が決まった年に入学できるって知ったら泣いて叫ぶはずだし、いざ授業を受けて、目の前にオールマイトがいたら一回はやっぱり泣くはずだし、もっと感激を露わにするはずなのに。
 極め付けは先ほどの昼食への誘いだ。あんな澄ました感じで受け入れられるわけないだろ出久が。もっとはしゃいで早口になってワタワタするはずだろ。まさかオールマイトへの熱が冷めたとか?毎日顔を合わせるようになってレア度が下がったとか?それもあんまりイメージできないけど……なんていうか、オールマイトが身近にいるのが当たり前なのを、受け入れ慣れてるような。
 
「どうしたんだ音波くん。そんなに険しい顔でラーメンを啜って」
「味違った?」
「え、ああ。ううん、美味しいよ。醤油ラーメン」

 正面に座る飯田に声をかけられて、ハッとして奏は笑みを作る。ラーメンは間違いなく美味しい。ただそれを味わうだけの余裕がなかっただけで。

「あっ、ねえそういえば」

 麗日が箸を止めて、いつもの笑顔で奏を見た。学食を利用する生徒たちの賑やかな話し声は近いけど遠い。

「音波くんはなんでヒーローに?」

 麗日の言葉に、奏は箸を止める。

「ああ、音波くんのは聞いたことなかったな!」
「なんでヒーローになろうと思ったの?」

 二人に笑顔で問いかけられて、奏は一瞬言葉に詰まる。麗日の話を聞いた後だ。こういう話の流れになったっておかしくはない。
 なんでヒーローに。なにを思ってヒーローに。なにに憧れてヒーローに。なにを叶えたくてヒーローなんかに。
 食堂のざわめきが遠く、無音に感じるほどに遠くなっていく。
 あ、と思った。いつもの感覚だ。剥離していく。自分が。思考と身体が離れていく。輪郭がぼやけていく。心が凪ぐ。凪いだ心が、そうすることが当たり前のように口を動かした。自分の声が他人のもののように。水の中で聞くようにふやけている。

「……僕の」

 心と身体が離れていく。どんどん隙間が開いていく。だからなんの感情もなく語れる。そのくせ個性を使ってそれらしく。

「僕の"個性"を正しく使いたいと、思ったからかな」

 きっと自分に麗日のような強い瞳はなくて、飯田のように憧れを追う誠実さもない。それでも二人にはきちんとそれらしく聞こえたのだろう。飯田はスプーンを握り締めて声を上げる。

「音波くん……!ブラーボー!」
「いや大袈裟だよ……」

 大袈裟だ。本当に。それどころかそんな賞賛をもらえるような価値はない。剥離していた思考と身体が緩やかに重なっていく。そうすれば遠くにいた他人のような自分がきちんと自分になる。その状態で思うのは、この個性を得て、嘘ばかりが上手くなっていくなということだった。



29:理想を追う理由




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