残響ユートピア36
背中に乗せられているのにあまり揺れを感じないのは、障子の体幹が良いからか、それとも気を遣ってくれているからなのか、きっとどちらもだろうなと思う。
奏が見据える先には向かい合う緑谷と轟。二組の距離はまだそこそこある。けれど互いの騎手は互いから目を離さない。
その二組の脇から、1000万のハチマキを奪おうとしているのが自分たちだ。
「音波、複製腕を閉じるぞ」
「いや、待って。開いたままでいい」
奏は頭のハチマキをきつく巻き直しながら障子の提案を断る。
「1000万を奪うのに、同じく1000万を奪おうとする僕らや他の騎馬は邪魔だろうね。障害物競走を思い返しても、轟くんはまず邪魔な騎馬の足止めをすると思う」
「……氷結か!」
「うん、僕ならその氷結を相殺できる。だから複製腕は開いたままで大丈夫」
障害物競走のスタート直後、轟は氷結で敵を減らした。轟なら初手で氷結を使う可能性が高い。普段の訓練からも、彼の氷結の錬成速度は目を見張るものがある。けれどタイミングさえわかっていれば自分なら防げる。複製腕の防御を手放すのは痛いが、氷結されてしまえば元も子もない。
気になるのは……訓練でも、予選でも轟くんが使うのはいつも右側だけだ。左の個性を攻撃に使うところを見たことがない。扱いが難しいのか、条件でもあるのか……わからないけど、ただ、左を使われたら勝ち目がない。
氷結は自分の超音波で壊せる。けれど炎、熱は奏には防げない。障子、蛙吹、峰田も恐らくは無理だ。
轟くんが1000万を奪って、左の炎熱を使われれば奪えない。だから轟くんよりも先に出久から1000万を奪うしかない。
「氷結は僕が防ぐ。二人は僕より前に出ないでね。巻き込んじゃうから」
「おうよ!」
「わかったわ」
峰田くんの個性で他の騎馬の機動力を奪えれば楽だな。梅雨ちゃんの舌なら、ある程度離れていてもハチマキは十分奪える可能性はある。
「峰田くん、いつでももぎもぎ投げられる準備を」
「任せろ!」
「梅雨ちゃん、隙が生じたらいつでもハチマキ狙って」
「ええ」
「障子くん、重くてごめん。もう少し頼むね」
「問題ない」
それぞれからそれぞれの頼もしい言葉を聞いて、奏は薄く笑う。1000万を狙うのは、自分たちと、轟たちだけじゃない。いくつもの騎馬が緑谷に狙いを向けるのがわかった。
奏は意識を払って、周囲の、特に轟たちの音に集中する。会話が聞ければ作戦も読める。フィールド内ならば奏の可聴範囲だ。
まず轟の冷静さを失わない低い声を聴き分けた。それは騎馬を組んだチームメイトたちへの指示で、それを聞きながらも奏たちは緑谷たちと轟たちとの距離を縮めていく。
轟の言葉にハッとして、彼らを見た。轟の出した指示、八百万の創り出すもの、それらを繋ぎ合わせて、奏は顔を歪める。
「障子くん!撤退!」
「なに?」
「はあ?なに言ってんだ音波?」
「これ以上近付いちゃ駄目だ!轟くんたちから距離を――」
声を張る。焦りの滲んだそれに、障子たち三人も訝しげに奏へ視線を投げた。説明をする時間もない。障子は多少減速したものの急には止まれない。背中に三人も乗せていれば余計だ。
距離を測るように轟たちを見る。轟の横顔が見えて、冷えた青色の瞳がこちらを見るのがやけにゆっくり映った。
目が、合う。合った、と理解した瞬間に、パチ、と小さく爆ける音を聴いた。それが電光の駆ける音だとわかったときにはもう全身に電気が駆け巡っていた。
「ぐっ……!」
「〜〜〜〜!!」
「上……鳴!」
息すら忘れるほどの痛み。バチバチと目の前で何度も放電された電気が爆ぜる。思考が止まり、指先一つすら動かせない。身体が勝手に震える。
上鳴の放電が、奏たちを含む周囲の騎馬を襲った。感電した奏は放電が終わり、やっと息をする。全身から力が抜けて障子の背中に手と肘を着いてどうにか倒れ込むのを堪えた。まだ思考が上手く追いつかない。
八百万さんが絶縁体を作って巻き込まれるのを回避しつつ、他の騎馬をまとめて足止め……!やっぱり容赦ないじゃん。くそ、なんで気付かなかった。轟くんがあのメンツで騎馬を組んだ理由に!
「残り六分弱、あとは引かねえ。悪いが、我慢しろ」
轟の声はどこまでも冷静で、それが聞こえたときに奏はハッとした。八百万の創った棒を右手で掴み、先端を地面に着ける。その棒を伝って氷結が始まる。
動かなければと頭ではわかるのに、さっきの感電で身体が動かない。あっという間に氷結がフィールドに這い、障子をはじめとする騎馬の動きを奪った。
「ぐっ!?」
『なんだなにした!?群がる騎馬を轟一蹴!』
周囲の気温が一気に下がる。寒くはない。けれど冷えた空気が冷静に事態の深刻さを奏に突き付ける。
『上鳴の放電で確実に動きを止めてから凍らせた……さすがと言うか……障害物競走で結構な数に避けられたのを省みてるな』
『ナイス解説!』
パキパキと凍る音が聴こえている。それは周囲の騎馬を凍らせつつ、円を描く。
凍る音が聴こえなくなったとき、代わりに聞いたのは迫る足音。影がかかり、どうにか顔を上げる。二つのそれぞれ違う色をした目が奏を見下ろしている。
「悪いな、貰ってく」
「っ……!」
轟の手が、奏のハチマキを掴む。抵抗しようにも力が入らない。額を締め付けていたものがなくなる感覚。動け、と強く念じても指先が震える程度だ。
「……お前のことは警戒してた。だから一応、こっちも貰ってく」
そう言って、轟は奏が首回りに緩く巻いたハチマキをまとめて奪った。目の前が暗くなる。
『轟容赦なし!音波チーム0ポイントへ急転直下!』
唇を噛んで、この感情を堪える。足音が遠ざかる。緑谷たちの声がいくつか聞こえた。1000万を手に入れるのが轟の目的で、自分たちから奪ったポイントはその経過に過ぎない。
自分がそうだから、上鳴くんがこの競技で派手に個性を使うことはないと思ってた……!轟くんが氷結で動きを奪うことは考えられたのに、考慮が足りなかった……!僕のミスだ。これは、この0ポイントは。
歯が軋むほど食い縛り、いまだ上手く動かない身体で身じろぐ。
時間はあとどれだけある……!?動けるようになるまでどれくらいかかる……!?この競技を勝ち抜くのに必要なポイントはどれだけだ?誰がどれだけのポイントを持ってる?
勝ち筋は、まだあるか?
轟は緑谷から1000万を奪うため、他の騎馬に邪魔されないように氷結で壁を作った。奏たちはその壁の一部だ。
幸い氷は厚くない。この程度なら出力に気を付ければ凍らされている障子に影響を与えず超音波で砕ける。脱出できる。
そのあとは?どうする?このままじゃ負ける。わかりきっている。1000万を奪いに行くか?けどそれは博打が過ぎないか?他の騎馬から奪い集めた方が堅実じゃないか?
『残り時間約二分!轟、フィールドをサシ仕様にし……そしてあっちゅー間に1000万奪取!とか思ってたよ三分前までは!緑谷なんとこの狭い空間を三分間逃げ切ってる!』
マイクの言葉に顔を上げる。上げた先には膠着状態の轟と緑谷がいる。轟たちの動きに合わせて、緑谷たちも動く。轟が氷結を放てないように、考えながら立ち回っている。
出久、と呼ぶわけでもなく、ただ心の中で名前をなぞる。
勝ち負けにこだわりはない。今もそうだ。このまま負けたとしても、自分はきっと受け入れられる。悔しさはある。けどこの感情とどれだけ連れ添っていくのか、奏には検討もつかない。けどきっと長くは続かない。どんな感情だって、どこかで折り合いをつけられる。自分なら。
でも、障子たちは?
「ちくしょぉお〜……!」
「ケロ……」
峰田と蛙吹の、滲んだ声が聞こえる。悔しさと、歯痒さの混ざる声。
「音波……」
障子の少し苦しげな低い声が、奏の名前を呼んだ。奏は目を障子のうなじに落とす。
「すまなかった。お前の制止を……ちゃんと、わかっていれば……」
動けない自分たちから恐らく、観客たちの注目は逸れている。先ほどまではこの歓声の渦の中にいたのに、いたからこそ気にならなかったのに、忘れられていたのに、今となってはそれが酷く遠くに聞こえている。薄い壁を一枚隔てた向こうから聞こえてくるようなそれが、自分たちが戦いの舞台から落ちたのだと突き付ける。
奏はギュッと、障子の背に置いた手を握り締める。
自分はきっと、ここで負けてもそれを淡々と受け入れられる。けれど、三人は。
「……障子くんが……謝ることじゃない……ミスったのは僕だ……」
遠くで歓声が沸く。
緑谷はいまだ1000万を保持している。僕は僕で体育祭に臨むと、言ったのは他でもない自分だ。緑谷に、爆豪に、飯田に、それぞれが体育祭に挑む姿を見て、胸の奥が少しだけ動いた。だからああ言った。それなのに、その結果がこれか?
「奪れよ、轟くん!」
よく聞く声が、奏の耳に入った。
視線を上げる。二組の騎馬が向かい合っていて、叫んだのは飯田だ。
エンジンの音が、空を裂くように唸りを上げる。
「トルクオーバー!レシプロバースト!」
瞬きの間に、飯田を先頭にした轟たちの騎馬が、緑谷を正面から抜き去った。緑谷の額にあったはずのハチマキはなく、それは轟の手に握られている。
『なーー!?なにが起きた!?速っ速ーー!飯田そんな超加速があるんなら予選で見せろよー!』
会場がさらに沸く。飯田のふくらはぎの器官からは黒煙が立ち込めていた。エンジンを響かせたまま、飯田は静かに口を開く。
「トルクと回転数を無理やり上げ、爆発力を生んだのだ。反動でしばらくするとエンストするがな。クラスメイトにはまだ教えてない裏技さ」
飯田の動きに合わせて、轟たちの騎馬が緑谷たちの方を向く。見えるその横顔に、奏は震える。
「言ったろ緑谷くん。君に挑戦すると!」
笑う、その横顔に、胸の奥からぶわりとなにかが込み上げる。ここで動けなくなっている自分を憎むほどのなにかが。
飯田くん……飯田くんっ!やっぱり君は最高だなと、どうしようもなくて笑う。
「障子くん……梅雨ちゃん、峰田くん……」
奏はゆっくりと上体を起こす。まだ痺れが残っているが、動けないことはない。わかった上で、奏は前を見たまま問う。
「まだ、動けるか……!?」
遠かった観客の声援が、ほんの少し近くなる。
「っ……あったりめえだろ!」
「ええ!」
「当然だ」
声が三つ、返ってくる。返ってきた声に、奏は唇の端を持ち上げた。戦っているのが一人じゃないから、ここで負けを受け入れるわけにはいかない。
「氷を壊す、できれば直に凍ってるところに触れたいけど……」
「なら私に任せて」
故意に騎馬から降りるのはさすがに駄目だろうと奏が悩むと、蛙吹が舌を伸ばして、ぐるりと奏の腹に巻き付けた。そのまま、舌の力だけで奏を持ち上げ、足が地面に着いてしまわないように奏を障子の背から下ろす。
「凄いよ梅雨ちゃん!」
「USJでオイラと緑谷を持ち上げたくらいだからな!」
「お安い御用よ。それより氷を」
蛙吹に言われて、奏は障子の足周りの氷に指先を触れる。なんかスパイ映画みたいな格好だなと思いながら、出力を調整して個性を放つ。すぐに氷が小さく砕け始めた。
気を付けないと障子くんごと砕いちゃう可能性があるからな……なるべく直に足と触れてないところから細かく砕く。
「音波、もう十分だ」
「え?でもまだ……」
障子の言葉に顔だけ上げる。障子は得意気に目を細めて、自ら氷漬けにされていた足を引っこ抜いた。奏が砕いていたときとは違い、バキバキと氷が砕けていく。蛙吹が舌で持ち上げてくれて、再び障子の背に乗った。
「えええ、凄いパワーだね……足大丈夫?」
「ああ、お前が氷を砕いてくれたおかげでな」
これで障子くんは動ける。残り時間はあと数分。出し惜しみしてる場合じゃない。
「音波!狙いは!」
「1000万!」
奏が答えるよりも早く、障子が走り出す。緑谷も轟も、互いに夢中なことに加え、奏が個性で自分たちの音を消しているせいで接近に気付いていない。
「障子くん、常に轟くんの左側から攻めて。峰田くん!轟くんたちと出久たちの足元にもぎもぎ!梅雨ちゃん奪れると思ったら攻めて!」
出久から1000万を奪うのに随分苦戦していた。左を使えば奪う機会は増えたはずなのにそうしなかったのは、使う気がないってことだろ?どういうつもりか知らないけど、悪いけどそこを突かせてもらうよ。でもって轟くんたちも出久たちも、目の前にいるお互いにしか意識を向けられてない。だから足元の注意力が散漫になる。
「とった!とったあああ!」
叫ぶ緑谷の右手には、確かに轟から奪ったハチマキが握り締められている。出久が奪い返したのか?というか轟くん、一瞬だけと炎を出した?けど本人から動揺の音が漏れてる。使う気はやっぱりなかったなら、このまま攻める。
「音波ちゃん!1000万はまだ轟ちゃんよ!モニターの順位が動いてないわ!」
「さっすが……ありがとう梅雨ちゃん!」
距離が詰まる。そろそろ誰かに気付かれてもおかしくない。奏の後ろから、峰田が「いくぞ音波!」と合図を送る。「頼むね」と言えば、峰田の放ったもぎもぎが二組の騎馬の足元へくっく。
「なに!?取れへん!」
「上鳴さん!なにか踏んでません!?」
「ウェ?」
最初に踏んだのは麗日だった。次に放電で脳がショートしかけている上鳴が。誰か一人でも踏んでしまえばかなり動きを制限できる。
「峰田くんの!?どこから……!」
「ここからだよ緑谷ぁ……!」
もうバレるだろうから必要以上に音を消すのをやめる。峰田のもぎもぎに気付いたことで、視線が一度に集まった。すかさず蛙吹が舌を伸ばすが緑谷も轟も身を屈めてそれを躱す。
「さすがね二人とも」
「かなちゃん!と……蛙吹さんも!?それアリ!?凄いな障子くん!」
「ああほんと頼りになるよ!障子くんは!」
緑谷の言葉に返すように、奏は笑って轟に照準を合わせる。轟が防御態勢に入るのがわかった。
「そんなんじゃ防げねえよ。僕の個性は」
轟に向けて手を叩き鳴らす。ぐらりと轟の頭が大きく揺れた。その隙を見逃さず、奏は右手を伸ばす。首に巻かれたハチマキ、ご丁寧にポイントが見えないようにひっくり返してくれててさすがだね。
ひったくるように一番上のハチマキを奪う。
『残り時間一分!ここで音波も奪還!』
「音波!ポイントは!?」
峰田に急かされ、ハチマキのポイントを確認する。手の中にあるハチマキに書かれた数字は70。
「万が一に備えてハチマキの位置は変えてますわ!緑谷さんも音波さんも甘いですわ!」
70じゃ圏外。もう一分もない。もう一回突っ込むしかない。飯田くんのエンストと峰田くんのもぎもぎでろくに動けない。まだ行ける!まだ!
心音が内で響く中、後ろから迫る爆発音を聞いた。一定の間隔で繰り返されるそれは上空から聞こえてくる。確信を持って爆豪だと言える。
こっちに向かってる!ってことは寧人とは決着したのか!?勝己もここに混ざるならより混戦が極まる!なにより機動力は向こうが上!
「峰田くん!背後から勝己たちの騎馬が来る!足止めを!」
「芦戸に溶かされちまうぞ!?」
「いい!少しでも時間を稼ぎたい!梅雨ちゃん!」
「ケロッ」
「あと数秒もすれが勝己が僕らの真上を通る!狙いは1000万だからだ!今は僕らを狙わない!だから真上を通るその瞬間に!勝己のハチマキ奪って欲しい!真下は死角だ!」
前半の様子を見るに、切島くんたちは勝己のワンマンプレイに合わせてくる。下手に連携させると厄介だ。少しだけでもその連携を崩す時間が欲しい。勝己の狙いは1000万一択!残り時間ももうない中で騎馬の方まで気にかけられない。
「障子くん!僕らは1000万を!」
「ああ!」
再度障子が轟の方へ走り出す。最初に奏が言った通りに左側から向かっていく。轟は右手で支えるように項垂れていた頭をゆるゆると振る。
「って……!なんださっきの……!」
「大丈夫か轟くん!しっかりしろ!来るぞ!」
至近距離で強いの当てると騎馬の飯田くんたちも動けなくなって危ないと思ったから弱めたけどやっぱりあんまもたないか。
背後からの爆発音が段々と大きくなる。超音波で常に周囲の人間の位置は把握している。次に爆破をしたらその推進力でちょうど自分たちの真上に来る。
「梅雨ちゃん!」
「ケロォ!」
蛙吹ならば爆豪の爆破が止まるタイミングを見計らって舌を伸ばせる。爆豪も空中移動中に舌から狙われるとは思っていないだろう。1000万だけを狙う執着。その隙を突く。蛙吹の舌は目にも止まらぬ速さで、正確に爆豪の首にかかったハチマキを奪った。
「あ!?テメ、カエル!返せ殺すぞ!!」
「梅雨ちゃんと呼んで」
『音波チームここで怒涛の追い上げ!こっから本番ってかぁ!?』
奪われたことに気付いた爆豪がこちらを睨む。そのまま轟に向けていた身体を器用に捻り、奏たちの方に狙いを変えた。
だから咄嗟に、打ち鳴らそうとしていた両手の指先を爆豪に向けた。そのとき、軌道修正のための爆破の煙を背負った爆豪が一度微かに橙の目を見開き、すぐに口角を上げた。どこか満足そうな、興奮したような笑み。その笑みが奏の視線を奪う。なんでここで笑うのか、その理由がわからなくて。
鳴らすために手を開く。焼けた空の色と、宵の空の色が混じり合う。互いに目を逸せないまま距離が詰まった。
『タイムアーーップ!!』
「!」
「あ゛!?」
一際大きな実況席から響いた声に、奏は打ち鳴らそうとした両手をびくりと止めて、爆豪は爆破のタイミングと身体の捻りが上手く合わなかったのか、顔から地面に突っ込んだ。うわ痛そう。
タイムアップ。開始から十五分が経過したらしく、奏は障子に声をかけてから蛙吹、峰田に続いて地面に降りる。裸足で降りると日差しで熱されたコンクリートが少し熱かった。
「音波ちゃん、爆豪ちゃんから奪ったハチマキよ」
「ありがとう」
蛙吹から渡されたハチマキを受け取るとの同時に、『早速上位四チーム見てみよか!』と実況が入る。奏は受け取ったハチマキを見た。390ポイント。合計でも460ポイントにしかならない。
『一位、轟チーム!二位、爆豪チーム!三位、鉄て……アレェ!?オイ!心操チーム!?』
一位二位は予想通りだが、三位に知らない名前が出て、奏は視線を動かす。心操というのはどうやら普通科の例の彼らしい。
ならば四位は。
モニターを見てしまえばすぐにわかる。けれどそうしなかったのはどこかで祈るような気持ちがあったからだろう。静かに拳を握り締め、四位のチームが発表されるのを待った。
『四位!緑谷チーム!!』
その言葉がスタジアム中に響いて、奏は拳から力を抜く。そうか。そうか。そっと顔を上げて、モニターを見る。奏のチームは五位だ。そうか。届かなかったか。
『以上四組が最終種目へ……進出だあーー!』
ワァ、と観客が沸き、フィールド内も様々な感情によってあふれ返る。その歓声は自分たちには向いていないとわかると、急に取り残されたような気分になった。奏は障子たちの方を振り返る。
「三人とも……ごめん、僕の判断ミスだ」
「やめて音波ちゃん、チームで戦った以上、あなた一人のせいで負けたなんてことはないわ」
謝罪の言葉とともに、頭を下げようとする奏に蛙吹がぴしゃりと言い放つ。だから奏は頭を下げそこねた。それでもなにか言おうと口を開きかけた奏を、蛙吹は黒い瞳でジッと見る。その黒々とした瞳に気圧されて、口を閉じた。代わりに、峰田がガクリと両膝から崩れ落ちて、四つん這いの姿勢で叫ぶ。
「ちくしょーー!オイラのハーレム計画がー!優勝インタビューの練習までしてたのに!!」
「あなたなにしてるの」
峰田を見下ろす蛙吹の目はどこか冷たい。その様子に思わず口元か緩む。そのまま視線を流すようにフィールドを見回すと、緑谷もまた膝を地面にめり込ませる勢いで号泣していた。
一時間ほどの昼休憩を挟んで午後の部に入るとアナウンスが流れると、観客たちも昼食のために立ち上がり、フィールドにいた生徒たちもなんとなく集まりながら通路の方へ歩き出す。
ああ疲れたな、そんな風に思いながら重たい足を動かしていく。あくびをひとつ、空に向かって放ったところで背後から誰かに強く腕を掴まれた。
36:騎馬戦決着
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