ネタ帳

2022 / 07 / 01
pkmn

アルセウス発売前にテンションが上がりまくって、ほぼ事前情報のみで書いていたものです。
バクフーンに関してだけ、ヒスイ仕様に修正までしましたが、結局没。

ヒスイ地方の女の子がシンオウ地方に飛ばされてしまうお話。








「な、なんなのここぉ……」
「きゃう!」

 テンガン山に群れを成していたゾロアークから許可を貰い、一緒に行きたい!と私に懐いてくれたゾロアを腕に抱いて泣きべそをかく。
 先程まで私は資源調達のために人里を離れていたはずなのに、気が付いたら人の村にやって来ていた。
 確かに霧に包まれ、生命の危機を感じてはいたが、こんなことになるとは思わないだろう。というか、やけにゾロアに視線が集まっている。
 野生暮らしが長いゾロアがグルル……と唸り始めたので、慌ててモンスターボールの中に戻した。
 開発されきった土地。見たことの無い程に高い建物。地面はコンクリート、というやつだろうか。村の人々の服装は外の地方の物に近いが、もっと機能性が良さそうだ。私の場違い感が凄いことになっている。
 それに何より、人とポケモンが仲良さげに暮らしている。既に共存しているのだ。
 私の不安を感じ取った仲間たちのボールがふるふると揺れる。ポンッと代表して出てきたのはバクフーンだった。
 ポケモンは危険な生き物ではあるが、それでも彼らが生息する土地からしか取れない必要物資は存在する。私の両親は危険地帯での探索を生業としていたが、とある地帯を縄張りとしていたポケモンの反感を買ってしまったようで、重症の状態で村へ帰ってきたのだが、そのまま帰らぬ人となってしまった。
 別に珍しいことではない。毎年、複数人がポケモンに殺されることは元々あった。それでも幼い私には耐えられないほどに悲しく、毎日泣いて過ごす日々。そこから立ち直らせてくれたのがバクフーンだ。
 バクフーンは元々、別の地方からやって来た父と母のバクフーンの子どもで、私より少し早く生まれたお兄ちゃんのような存在。ヒノアラシだった彼は進化という形で、自分は今よりももっと強くなる。絶対に私を置いていかないからと励ましてくれたのだ。

「バーク、バク」

 両親の仕事を引き継いだ私の護衛を行いながら、更にマグマラシから見たことのない姿のバクフーンへと進化した彼は未だに私を幼い子どもだと思っているきらいがあるようで、何年経っても甘やかしてくれる。飴の役割がバクフーンで、鞭の役割が別の仲間だ。
 大丈夫だと背中を摩ってくれたバクフーンに抱きつくと、ひょいっとそのまま私を抱っこして歩き始める。ひえ、かっこよ……。何でこんなにかっこいいのに、まだ番が出来ていないんですか?私は甥っ子も姪っ子も溺愛する自信があるよ、おにいちゃん……。
 水が吹き出す絡繰の近くに設置された長椅子に座らされ、その横にバクフーンも座った。
 私の鞄から手ぬぐいを取り出し、優しく涙と鼻水で汚れた顔を拭ってくれる。
 流石に甘やかしすぎ!とモンスターボールが一つカタカタと揺れた。
 ちなみにバクフーンはちっともやり過ぎな自覚はなく、このくらいは当たり前だと思っている。私は赤ちゃんだった……?

「ん、ありがとう」
「バーク!」
「ねぇ、あれ教会ってやつだよね?昔、父さんが絵を描いて教えてくれたやつ」
「バク?」

 そんなことあったっけ?と首を傾げたバクフーン。
 父の家は潰えてしまったが、元々は貿易商だったらしく、幼い頃は色々な地方へ赴いていたらしい。そんな中で印象に残ったものを私にも色々教えてくれていた。
 父は当時子供だったから何も悪くなかったのだが、親の負債を継いでしまっていたため、危ないけれどその分高収入な仕事をする他なかったのだ。
 ちなみに母はそれを知った上で父と結婚している。それだけ二人は愛し合っていた。
 借金返済が目の前に来た頃に私が生まれ、あともう少しのところで亡くなってしまったため、今は私が残りの分を返済している。
 今はもう特に危険な地帯への出入りすら許されるくらいには私の実力も、ポケモンたちの強さも上がったため、返済は後三年もせずに終わるだろう。だからこそ早く帰りたい。
 借金さえ無くなれば自由に使えるお金が増える。そうすれば私だって他の子たちみたいにお洒落な服が着れるし、流行りの美味しい物だって食べられる。ポケモンたちとの記念撮影だって叶うはずなのだ。

「ハーイ!初めまして!」
「ぎゃあああ!!!」

 突然目の前に現れた紫色の女性に驚き、長椅子から立ち上がった。隣にいたバクフーンが私を安心させるためなのか、膝の上に乗せて背中をぽすぽすと叩く。これは……私は赤ちゃんです。

「アラ、驚かせてすみません!アタシはメリッサ。ヨスガのジムリーダーです」
「よ、よすが?じむりーだー?」

 なんだそれ。よすが、ヨスガはこの村の名前だろうか。でもじむりーだーって何だ。
 外の地方の物なのだろうか、星のように輝くふわりとした素材の服は美しかった。
 バクフーンの膝から降り、頭を下げる。

「#名前#です。コトブキ村に住んでいますが、お仕事の都合で外のベースキャンプにいることの方が多いです」
「コトブキ村?」
「ご存知ですか!?」

 良かった。知っている人がいるなら、すぐに帰れるかもしれない。
 ホッとした私に気付き、バクフーンが垂れ目を更に柔らかくした。本当に何でまだ番がいないのかが理解出来ない。みんなもっとバクフーンに自分を魅せてほしい。

「……アナタ、ヒスイ地方の子?」
「そう!そうです!」
「その子はアナタのポケモン?」
「あっ、はい。だから人を襲ったりはしないので……!これがこの子のボールです」

 彼女が話しかけてきたのは見かけない人がポケモンと一緒にいたからだったのかと一人で納得する。ポケモンは恐い生き物。もしものことがあったら大変だ。こうして近寄って来れるということは、メリッサさんの仲間のポケモンはもしかしたら相当鍛えられているのかもしれない。
 ちゃんと捕まえてあるポケモンですよ、とバクフーン用のモンスターボールを見せ、一度彼をそのボールに仕舞ってからもう一度外に出す。
 元々はボールなんてものは存在しなかったのだが、お取引先のギンガ団からボールを渡され、バクフーンを中に入れるようになった。
 マグマラシの頃であれば村の中を一緒に歩いていても村人たちに怯えられることはなかったのだが、バクフーンに進化して身体が大きくなってからは子どもたちを中心に怯えられることが増えてしまったのだ。仕方が無いので門番さんと一緒に村の外で待ってもらっていたのだが、ボールの登場でずっと一緒にいられるようになったのは個人的に最高である。

「これは……ええと、ソウですね。その子、ここではとても珍しい子です。だから、ワルイ人に見つかったらタイヘン」
「悪い人……」
「ハイ。だから、ボールに戻してあげてください。とりあえず、アナタのことはアタシのジムで保護します」
「保護?」
「きっと驚かせてしまいますが……」

 メリッサさんはしっかりと私の目を見据えていた。

「ここはシンオウ地方。昔はヒスイ地方と呼ばれていました」