ネタ帳

2022 / 07 / 01
juju

めちゃくちゃハマっていた頃の書きかけ二つ。
ナナミンと灰原の同級生になりたい願望が詰まっています。
@とAで別のお話、別の設定です。







@
「初めまして!灰原雄です!」
「……初めまして。七海建人です」
「……こんぶ!」
「えっと?」

 ちょっと待って!と広げた手のひらを突き出し、カチカチとガラケーを操作する。手馴れたもので、人より文字を打つのが早い自信があった。

『呪言師の犬巻です。よろしく!』

 画面を二人へ見せ、反応を待つ。同時に呪言師?と呟いたということはあまり呪術界に詳しくはないのだろう。
 しゃけ!と返事をし、更に文字を追加する。

『喋る言葉に呪力が篭もってしまうから、語彙を搾ってるの。周りへの安全対策』
「だからって何故こんぶにしゃけ……?」
「はは、おもしろいね!改めてよろしく!」

 差し出された手を握り返し、握手をする。ちょっと嫌そうな顔をする七海くんだが、マナーは守る男らしく大人しく握手してくれた。
 今日から東京都立呪術高等学校の一年生になる三人。たった三人だけの同級生。
 女の子が他にいないのは寂しいけれど、仲良く出来たらいいなととびきりの笑顔を見せた。





「高菜!」
「あ!それコンビニの新作スイーツだよね?CMで観たよ」
「しゃけ」
「どうして会話が繋がっているんだ……」





A
 同級生たちが大好きだ。
 たった一月とは言え、遅れて入学してきた私にもとても優しくしてくれて、二人は既に習ったであろう呪術に関することを丁寧に教えてくれた。復習になるから、と物覚え自体そんなに良くない、しかも性別の違う私を見捨てずに手を引いてくれた。
 後輩たちが大好きだ。
 不安げな顔で入学してきた彼らは一年前の自分を見ているようで放ってはおけなかった。大したことも出来ない先輩を慕ってくれて、彼らの良き先輩としていられるように私は一層努力することが出来た。
 先生たちが大好きだ。
 厳しそうに見えて、実はちゃんと私たちのことを見ていてくれる。情けなくて誰にも言えない悩みを話せるのは先生しかいない。厳しい言葉も全て、私を思ってのことだから。たまに褒めてくれるのがすごく嬉しい。
 先輩たちが大好きだ。
 個性に溢れすぎて意地悪をしてくることもあるけれど、任務中はとても頼りになる。不器用な優しさに包まれた先輩たちは才能のある人たちの集まりで、でもだからって驕っているばかりではない。立ち止まってしまえば背中を押してくれる。

 ――夏油先輩。私にとって特別な人。
 ごめんなさい。私、多分帰れないや。元気のない先輩の相談に乗るって約束してたのにね。
 ナナミンもごめん。私たちの学年、一人になっちゃうね。辛い思いさせて、ごめん。一人にさせて、ごめん。
 でもね、村の人は全員守れたはずだから、褒めてほしいな。
 特級相当の相手に査定役として来てた一級術士を逃がして応援を呼びに行ってもらって、私は殿を務めた。それで特級と相打ちになったんだ。これは間違いなく、私は一級術士にはなれたね。

 視界がぼやけ、体から力が抜けていく。不思議と痛みは感じず、ただただ眠いだけだった。





「事情はご存知だと思いますが、高専の寮での引越し作業中にドジをして足を骨折し、更に頭を強く打って三日間意識不明の重体。経過観察で入学が遅れました!これからよろしくお願いします!」
「元気よく言うことなのか……?」

 同級生の一人はパチパチと拍手をして出迎えてくれ、もう一人の子には蔑むような目で迎えられた。やめてくれ、心が折れる。
 そんな明るく真っ直ぐな男の子は灰原雄くん、素晴らしく常識人なのが七海健斗である。経緯と親しみを込めて、二人を雄くんとナナミンと呼んでいる。
 ナナミンも勿論名前で呼ぼうとしたのだが、初対面で……?とびっくりするほど嫌そうな顔をされたので仕方なしに名字呼びだ。親しみやすさは必要なので、ちょっとだけ可愛くしてしまったが。そんな目をされてもこれ以上は妥協しないぞナナミン!

「私の周りはこんな人ばかり……」

 なんかごめん。





 私は術士として最底辺である。
 そもそも一般家庭出身である私は人より運動神経も悪く、何をするにも要領が悪い。そのため、先に入学していた二人に迷惑をかけてばかりだ。
 今日の任務だってナナミンに助けてもらってしまった。
 そろそろ足手まとい過ぎて、二人とは同じ任務へ向かえなくなりそうである。

「いつもいつも助けてくださりありがとうございます……頭が上がりません……」
「まあまあ!大丈夫、これからだよ!」

 任務帰り。補助監督さんの運転する後部座席に三人で座り、左に座った雄くんに宥められる。右隣のナナミンも不器用に慰めてくれることが多いのだが、今日に限っては違うらしい。

「おかしい」
「突然ディスるのやめて?」
「いや、そうではなく」

 ナナミン曰く、呪力量は人より多いはずの私がこんなにも弱いのは何か原因があるのではないかとのことだ。

「そもそも、こんなに転んだり怪我をすること自体が変だ。赤ん坊じゃありませんし」
「やっぱりディスってない!?」

 お前の運動神経赤ちゃんー!なんて流石に言われたことないのだが!?まあ、否定はしない。そのくらい私は体が鈍い。
 普通に歩いているだけで転ぶし、疲れやすいし、半年に一回は寝込むし。
 雄くん、すぐに普通に歩けるようになるよって励ましたつもりか?励ましたつもりなんだよね?でもそれ、遠回しに私のこと傷付けてるからね?

「うわっ、呪力が滞ってんじゃん」
「そんなナナミンみたいに蔑むような目で見ないでくださいよ!どちらさま!?」

 寮へと帰ってくると、白髪グラサンの知らない男の人に突然ドン引きされた。制服を着ているため、先輩であることだけは分かる。
 五条先輩、とナナミンが呼んだ。ナナミンの表情は今まで見てきた中で最も嫌そうな顔である。出来れば会いたくない人に出会ってしまったかのような。
 ナナミンは気難しい男だが、悪いやつではない。それどころか、キツい物言いをしながら頑張ったときには褒めてくれる、飴と鞭の使い分けが上手い人である。そんなナナミンが警戒しているのだから、この五条先輩はろくでなしなのだろう。
 ジリジリと距離を取ろうとすると、逆に距離を詰めてくる五条先輩。愉しそうである。歩幅の違いですぐに追い詰められそうだ。

「私の同級生をあまり虐めないでもらえますか?」
「な、ナナミン……!」
「え〜?可愛がろうとしてるだけなんだけど」

 私の前に立ち、五条先輩から隠してくれるナナミンはイケメンである。海外の血が混ざっているからか、レディーファーストを守ってくれるところがあるのだ。
 可愛がる=虐めるみたいな人だな、この人。私はあまりにドジなため、小中と虐められそうになったことがある。しかし、あまりに怪我をするからか逆に不憫がられ、いじめっ子たちですら「ドンマイ」と肩を叩いてくれるレベルである。何の自慢にもならない。
 一触即発な雰囲気の中――後に知るのだが、五条先輩と関わったナナミンは大体いつもこんな感じらしい――、雄くんが男子寮から共用スペースへ来たらしい人を大きな声で呼んだ。

「夏油先輩!」

 夏油先輩。雄くんの口からよく聞く名前だ。
 あの少年漫画の主人公のようにキラキラしている雄くんが慕う人。つまり良い人!素晴らしい人格者のはず!
 片手を上げ、にこりと笑ってこちらに近付いてくる先輩。それに雄くんはブンブンと手を振っていた。

「こんばんは、夏油先輩!こっちの女の子が前に話した同級生です!」
「待って、どんな話をしたの雄くん」
「いつも一生懸命頑張っていて、そんな姿に勇気づけられると聞いているよ」
「雄くん……!」
「後は私生活でよく怪我をするから、幼稚園児の頃の妹を思い出すってさ」
「雄くん!?」

 上げて落とされた。練習や任務の終わりにお菓子をくれるのってそういう……?子供扱いしてたの……?
 肩を掴んで問い質してやろうと思ったが、悪気なくニコニコ笑う姿を見て諦める。たまに悪戯をしてくることもあるが、基本的に雄くんは善意の塊なのだ。
 髪をお団子に結んだ、珍しい前髪の先輩に自己紹介をすると丁寧に返してくれる。夏油傑先輩。うん、こっちの先輩は悪い人じゃなさそうだ。

「人が庇ってあげたというのに貴方は何をしているんですか」
「あ、ちょっ、いたいです、痛い痛い」

 イライラの募ったナナミンに頭をわしずかみにされ、そのままググッと力を込められる。間違いなく半分は五条先輩分の八つ当たりである。勝手に移動したことは事実なので、甘んじて受け入れようじゃないか……!

「それで五条先輩。呪力が滞っているとは?」
「そのままの意味だけど?あ、俺は五条悟ね。よろしく、後輩ちゃん」
「え?このまま話し続けるの?」

 まだ頭掴まれたままなんだけど?
 そんな私の声を二人は無視し、五条先輩は説明をしてくれる。
 体内の呪力は本来、全身を巡っているものなのだが、私の場合は心臓の辺りで詰まってしまっているらしい。それ故に呪力が足りない部分と逆に溜まりすぎている部分が出来、体に不調をきたしているのだとか。

「体が動かしにくいとかないわけ?」
「いえ、特には……?」
「でも運動神経は良くないよね!」
「もっとオブラートに包んで!」

 そんな私たちの会話に五条先輩は大爆笑をし、夏油先輩も顔を背けて肩を震わせた。あれ、もしかして二人揃って性格悪い?
 そんなに怒らないでと雄くんに頭を撫でられるが、子供扱いしてるってもう知ってるんだからな。

「じゃあ、あれだな。昔っからそれだから感覚が鈍ってる。しばらくは意識的に全身に呪力を回す練習をしてみなよ」

 その呪力量だ。化けるぞ。
 ニヤリと笑う五条先輩は案外教えるのが上手いらしい。そう言われればやる気も出るに決まっているのだ。

「はい!頑張りますね!」

 雄くんと「えいえいおー!」と片腕を上げて気合を入れる。

「おーい、何してんの?」
「あ、硝子先輩!」
「約束の時間過ぎてるよ」

 女子寮からやって来たのは家入硝子先輩。誰から見ても美人な先輩だ。
 引越し作業中にドジした私の応急処置を行ってくれたことが切っ掛けで仲良くしてもらっている。
 今日は女子会の約束をしていて、約束の時間になっても来なかったため、迎えに来てくれたらしい。
 任務で遅れたのなら兎も角、共有スペースでグダグダして遅れたのは本当に申し訳ない。
 素直に謝ると、クズどもに絡まれてたんだろと笑って許してくれた。

「また怪我したのか。ちゃんと手当してあげる。行くよ」
「いつもありがとうございます!それじゃあ皆さんおやすみなさい!」

 初めての任務を無事にこなした際、思わず同級生の三人でハイタッチしたことがくせになり、ことある事にしている。
 それは同じように任務終わりだったりだとか、帰り際だったり。今回も同じである。
 雄くんとナナミンとハイタッチし、それから別れた。