ネタ帳

2025 / 09 / 07
侘桜の便り

事前に書いていたものと大分内容が変わった、「帝国歴1186年 大樹の節」のお話の編集前のものをこちらに載せておきます。前後は同じです。









 グロスタール領と帝国領の境界、アミッド大河に架かるミルディン大橋を帝国軍から奪取した同盟・セイロス騎士団軍が帰ってきた。
 このミルディン大橋はアミッド大河に築かれた橋の中で唯一大軍が通行出来るもの。これで帝国に攻め入れられるというグロスタール伯爵の不安は取り除けたというわけだ。
 傭兵先生の生徒であった金鹿の学級の仲間たちは貴族の出も多い。彼らが実家へ根回しし、遂に五大諸侯が纏まりを見せた。何よりレア様の代理人である先生の存在は大きかったことだろう。
 いよいよ本格的に帝国領を攻め入ることになるわけだが、次の出兵先はベルグリーズ家の領地であるグロンダーズ平原方面。フォドラ有数の穀倉地帯であるため、ここを制圧出来れば食糧にも困らなくなることが予想される。これには味方の指揮もあがるというものだ。

「#名前#、マクイル関連の本で何か面白いやつはあるか?」
「聖マクイルのことであってる?」
「ああ」
「そしたら、まずは四聖人列伝だけど有名どころだし読んだことあるよね?後は伝記と……」

 ガルグ=マクの食堂で尋ねられる。
 読んだ本を思い出しながら、幾つかのタイトルを上げていく。こういう時にメモを取らずに一度で覚えてしまえるカリードくんの頭が羨ましい。
 聖マクイルは四聖人の一人で鍛治の腕に秀でていたと言われている。自らも武器を持って戦場に立ち、その強さは聖セイロスに次ぎ、解放王ネメシスとの戦いであるタルティーン平原会戦でも活躍を見せている。
 ちなみにタルティーン平原会戦とは帝国歴91年。ネメシスに味方する氏族の連合軍と帝国軍との戦いだ。勝利を手にしたのは帝国軍であり、ネメシスはこの年に遂に没した。

「で、それを読み終わったらスレンの伝説について調べるとおもしろいかも」
「スレン?」

 タルティーン平原会戦で命を落としたとされているマクイルだが、実は新天地を求めて旅立ったという説も存在する。東の地から海を出て姿を消した、と。更にフォドラの北東にあるスレン半島には海を越えて現れた聖獣を祀る遺跡があるらしく、何かしらの関連が疑わしい。
 なんて暢気に話していた数日後、本当にカリードくんは傭兵先生たちとスレンへ向かってしまうのだから驚きである。





 聖墓から戻ってきたというカリードくんはアビスにやってきて、書庫の壁に寄りかかりながら何か考え事をしているようだ。
 最近は大軍を動かす戦いだけでなく、聖墓やら何やらと足を伸ばしては仲間たちと疲労困憊になりながら帰還しており、そろそろちゃんと休むべきではないかと私から先生に丁度話したところだった。

「先生、毎週末みんなを連れ出しすぎです。そろそろ休んでください!」
「だが……」
「だがもなにもありません!鏡、見ていますか?先生も疲れた顔をしていますよ。辛いですが、戦いはますます激しくなるはずです。休む余裕のある今、休んでおかなければ体を壊してしまいます」
「ああ……うん、そうだね。#名前#の言う通りだ。来週はちゃんと休むよ」
「はい、ぜひそうしてください!私は戦場に立つことはできませんが、他のことで力になってみせますから!」
「一緒に頑張ろう」
「はい!」

 なんて直談判する程には忙しないものだった。

「ねえ、大丈夫?すごく眠そうだよ。もう休んだら?」
「いや、もう少し考え事を。ある程度纏まらないと逆に眠れないんだ。話、聞いてくれるか?」
「それはいいけど……」

 カリードくんは傭兵先生や金鹿の生徒と再会してから、幾つかの場所に訪れた。マリアンヌを救出するために戦った森、聖マクイルへの興味から向かったスレンの遺跡、そしてレア様の残した手紙に書かれた聖墓。それぞれに気になることがいくつかあったようだ。
 まず砂漠。そこには多くの魔獣がおり、特に強力であった言葉を交わせる"彷徨えし獣"の頭には紋章のような印が描かれていたそうだ。またスレンの遺跡で相対した"風を呼ぶもの"にも形は別だが紋章のような印を見つけている。

「マイクランって覚えているか?」
「コナン塔で魔獣になっちゃった人?」
「そうだ。前にも話したよな?魔獣になったマイクランの体表に紋章石が張りついていたって」
「じゃあ、彷徨えし獣と風を呼ぶものも……?」
「ああ。風を呼ぶものにはマクイルの紋章。彷徨えし獣には……あー……ここだけの話ってことにしてくれるか?マリアンヌがどうも隠したがっているみたいでな。気付いていない振りをしてやりたいんだ」
「もちろん!だけど、そこでマリアンヌちゃんの名前を出すってことはそういうこと?」
「ああ。まだ詳しいことが明らかになっていないが故に研究者も少なくない……獣の紋章だ」

 カリードくんが見たものは全て紋章石だった。話は続く。
 五年前の旧礼拝堂での士官学校の生徒の魔獣化。当時のあの魔獣たちの体表にも紋章石と思われるものがあった。また、炎帝の正体がエーデルガルトであると判明したあの日。帝国軍は聖墓にある紋章石を盗もうとしていたらしい。

「つまりだ。紋章石にはほぼ間違いなく、人を魔獣に変える力がある。だが、人々を守ったことで讃えられている白きものと、俺たちが戦った理性を失った魔獣の違いがわからないんだ」
「それこそフレンちゃんの血じゃない?」

 以前立てた仮説ではあるが"フレンちゃんの血を使った実験で人間を魔獣化させた"というものがある。セイロスの書には血の力は紋章と呼ばれるようになったと書かれていることもあり、かなり良い線だったと思うのだが、今回の説は少し違う。
 紋章石だけでなく、フレンちゃんの血を介すことで魔獣を制御出来るようになるのではないか。

「それも考えたんだが、風を呼ぶものに関しては理性が飛んでいるってわけじゃなかったんだよ。会話も普通にできてる」
「喋れるの!?」
「ああ。そういや、興味深いことを言ってたんだよな」

 "憎き十傑"と言っていたそうだが、それに関しては一旦置いておこう。
 
「じゃあ、自ら獣になったかどうかとか?」
「自分の意思が介在するかどうか、か。有り得なくはないな。だがそうなると、フレンの血の実験が何だったのかがますますわからなくなってくる」
「ちょっと無理矢理だけど、紋章石と同じ力があるから"特別な血"だったり?」

 聖墓から紋章石を盗まなければならないくらいには所持している数が少なかった。その紋章石と同じ力がフレンちゃんにあるのなら、彼女の血で実験を行うのも可笑しくない。
 強引に話を繋げるのならそうなるだろうと口にしてからハッとする。
 英雄の遺産で唯一、紋章石が埋め込まれていないものがあったはずだ。それでも遺産の力を存分に振るうことが出来る人がいる。

「紋章石がない天帝の剣を扱えるのは、傭兵先生にも"特別な血"が流れているから……?」
「!何らかの関連はありそうだ。レアさんがやけに先生を贔屓していた理由にもなる」

 フレンちゃんが誘拐された折、レア様は騎士団を総動員して捜索をしていた。この明らかな特別扱いには"血"が関係しているのかもしれない。
 これ以上はもう何も出てこないと、次の話に移る。
 気になることだけ情報共有でとりあえず回される。風を呼ぶものが言った"憎き十傑"。打って変わり、やけに親しげだったセテスさんとフレンちゃん。あの魔獣こそが聖マクイル本人である可能性。であるならば、白きものと同じく女神に遣わされた存在なのでは。彷徨えし獣が風化して、人の骨と英雄の遺産に近しいものが残されたこと。

「それから、聖墓の仕掛け。正直、魔道だけで作れる仕組みだとは到底思えなかった。急ごしらえで作れるものでもあるまいし、聖墓には昔からあったんだろうな」
「オーパーツってこと?」
「なんだ、それ?」

 オーパーツとは、それらが発見された場所や時代にそぐわない物のことだ。当時の技術力で作れるはずがないとされていたりするもの。
 聖墓のそれはオーパーツに当たるのだろう。何なら、今のフォドラを生きる人にすら作れない代物かもしれない。

「地下に降りる仕組みも分からないんだよな。行き方は覚えているんだが」

 初めて聖墓に赴くよりも前、カリードくんは一人で足を運ぼうとしたことがあったらしい。少し特殊な方法でなければ地下に行けないようで、その時は空振りに終わったようだ。

「私はそれより、お墓に紋章石があったっていう方が気になるけど」
「それは……言われてみれば、そうだな。埋葬品というより、まるでそれが遺体のように棺の中に眠って……そういや、天帝の剣もセイロスの棺に……ふわあ、っと、すまない」
「もう限界じゃん!上に戻れる?」
「んー……」
「むりだなこれ!ユーリスくん!突然だけど部屋貸して!バルタザールは運ぶの手伝って!」
「おー、どうした……ってクロードか?」

 後日、貸し一としてカリードくんはユーリスくんにこき使われたらしい。当然である。