2025 / 10 / 08
風花雪月ネタB
ネタAから派生したもの。
闇に蠢く者の正体について深くゲームで知ることが出来ていたら、おそらくこちらの設定で連載をしていたと思われます。
夢主は闇に蠢く者たちの次世代。彼らの子ども。
当事者ではないため、ソティスに対する恨みがあまりない。
けれど自分達の文明を壊し、嘘の歴史を伝え、在ったはずの物を無かったことにするセイロスとセイロス教に対する怒りはある。
端的に言ってしまえば、セイロス教を潰すことには賛成だが、アガルタの民の非人道的な行い(人体実験や乗っ取り)には反対。
中途半端だから辛くなっている。
セイロスと敵対することは出来るが、セイロス教の信者とは嘘の歴史に騙されているだけだから戦いたくない。そもそも争いは嫌い。
中途半端だからこその優しさがアガルタの民にとっては特別な物に感じていた。
怪我をすれば手当をしてくれて、ちゃんと休んでいるのかと心配してくれる人はアガルタでは珍しい。
恨みつらみの中、切羽詰まっているからこそ、自分のことで精一杯。必要になれば同族が自分という人間すらを利用して、怨みを晴らそうとするだろう。人に優しさを振り撒ける夢主は救いだったのかもしれない。
弱音を吐けない環境で唯一弱音を吐いても許される人。
だから、夢主はそのままでいい。そのままでいてほしい。
そのままの貴女といられる時間が一番肩の力を抜くことが出来るから。
先祖は現セイロス教の関係者に討たれ、私たちは地下での生活を余儀なくされている。悪いのは全て、今は女神と呼ばれるソティスとその眷属。我々は先祖の恨みを果たすことことが悲願なのだ。
そう教えられて育った。けれど私は痛いことも人を傷付けることも苦手で、目的のために人を殺め、人体実験すら罪悪感を抱かずに行える同族を見て、きっと自分がどこか可笑しいのだと思う。
先祖を思えば出来るはずのことが出来ない。そんなアガルタの民の中でも異端な私をみんな受け入れてくれている。その優しさが辛かった。
だから勝手に外に出た。地下の街、シャンバラを抜け出して地上の空気を吸った。旅をして、心配をされるだろうけれど姿を隠して、もし今のフォドラの大地を少しでも醜いと感じられれば、きっと私もアガルタの民のために身を粉に働くことが出来るようになるだろう。
だから、そう。生きる上で誰とも関わらないことは難しいから、情が移らないように、付かず離れずの距離感で。顔を覚えられる前に次の街に移り、セイロス騎士団の動きを知ることが出来れば重畳──だったはずなのだ。
「助かったぜ、嬢ちゃん。その子どもは俺らが世話になっている村の娘でな。捜していたんだ」
「いえ、そんな、放っておけなかっただけなので」
山賊と思わしき大人に腕を掴まれながら泣いている子どもを無視することが出来なかっただけ。その際に子供の目は塞いだものの、逃走のために何人か殺してしまっているため、特に尊敬出来る行いでもない。
被害者の五歳程の子どもをジェラルド傭兵団の団長に手渡そうとするが、「いや!」と私の腕の中で丸まられてしまえば一緒に村まで来てくれないかと尋ねられるのは自然な流れである。そして無事に子どもを親元へと返し、お礼に晩御飯だけでも食べていかないかという圧の強い好意に甘えて一夜だけルミール村で過ごそうとしていたら、賊に追われている士官学校の生徒──アドラステアの皇女、ファーガスの王子、同盟の次期盟主に助けを求められ、関係ないとばかりに息を潜めていたところを助けた子どもに憧憬の眼差しで見つめられる。
「おねえちゃん、とってもつよいんだよ!だからだいじょうぶ!」
なんて大声で胸を張られてしまえば、もう逃げる道なんてない。
頭を抱えたい気持ちをグッと堪え、ジェラルド傭兵団と共に戦うことになってしまった。どうしてこんなことに。
「ウォームZ!」
「おっ、助かるぜ!」
こうなりゃ自棄である。
ジェラルド傭兵団の灰色の悪魔とファーガスの王子が先陣を切り、アドラステアの皇女が攻撃を引き付け、私が闇魔法で敵を鈍らせ、そこに次期盟主が弓矢でトドメを刺す。
初対面ながら見事な連携であり、驚く程に戦いやすかった。
それは全員が同じ考えであったようで、安心して背中を任せられた。……嘘である。アドラステアの皇女はアガルタの民の実験体の一人だったため、存在から目を逸らしたい気分だ。お願いだからこっちを見ないでほしい。食事を運んだり衣服を整えたりする中で会ったことがあるけれど、今すぐ私のことは忘れてほしい。気付くな。思い出すな。これが私たちの初対面にしよう。
そして時間を巻き戻すかのような歪みを起こした灰色の悪魔は一体何者なのか。噂に聞く天刻とかいうものだとしたら、私は気絶するぞ。
賊が逃げ出したことを確認し、私もいそいそとこの場を離れようとするが、次期盟主の男に目敏く見つかり、足を止める。そうこうしている間にセイロス騎士団の人間がやって来て、自分の運の悪さを憎む他ない。
「いえ、困っている人がいたら助けるのは人として当たり前のことですので!お礼とかは必要ありません」
「だが……ここだけの話、これはかなりの不祥事なのだ」
セイロス騎士団のアロイスの説明に「ですよねー!」としか言いようがない。ある意味このお礼は騎士団が士官学校の生徒を、しかも各国の要人を孤立させて盗賊と戦わせたことに対する口止め料なのだ。その口止め料として相応しい金額をこの場で支払えない。故に共に大修道院に来てほしいと頼まれてしまっている。
傭兵団は当たり前のように大修道院へ向かう準備を始めており、私一人が大の大人に頭を下げられている状態だ。こんなもの、分かったと頷くしかない。
どうしてこんなことに。敵の本拠地へ、敵の騎士団員に誘われて向かうだなんて誰が想像出来るのだろう。
夜明けを待ってからルミール村を立ち、大修道院へ向かう。次期盟主がかなり押しが強く、それでいて距離感を計るのが上手いからか、無駄にお喋りをしながら歩き続ける。余計なことが口から飛び出してしまう可能性があるため、警戒していることにすら気付かれてしまっているような。
「ところで、だが」
「はい?」
「戦いは苦手か?」
なんで分かるんだよ。
「いやなに、昨夜は魔術を使い慣れているように見えたが、敵に致命傷は与えていなかっただろう?そうだな、例えば、人を傷付けることが苦手とか」
「……よく見ていらっしゃるんですね。その通りです。だから、お礼なんてもらえるほどのことはしていないんです」
変に嘘を吐く方が疑われるだろう。隠す必要も特にないため、正直に話してしまう。今のところ私自身が彼と敵対する予定はないので。
探るような視線が気不味くて、思い切り目を逸らしてしまいたい気分だ。
「いやいや、助かったよ。何せ敵が碌に動けなくなっていたんだ。射ち易かった……って、もしかしてこういう話も苦手か?」
「お気遣い、ありがとうございます」
このお礼は本心だった。
恨み、辛み、嘆き、怒り。負の感情を動力源としてアガルタの民は復讐のために生きていた。人の域を超え、何百年と生きる人生の先輩に私たちみたいな若い衆は多くのことを学び、彼らの意志を継ぐ。悪はソティス。そのソティスに連なる者や味方する者は人に非ず。
私はフォドラの民が人でなしであると確信を持ちたかったが、それは──。
「では、修道院は初めてか」
前を歩くファーガスの王子の声が聞こえ、クロードと気安く呼ぶように笑った男に腕を引かれる。
ああ、見えて来た。嘘で塗り固めた歴史を広める、セイロス教の中心部が。
◆
「士官学校の生徒たちを救ってくれたこと、心より感謝します」
なんで大司教に御目通りが叶ってしまっているんですかね。
謁見の間で愛想良く笑顔でいるものの、そろそろ頬が引き攣りそうだ。
ジェラルド傭兵団の団長は七年前の火災の日までセイロス騎士団の団長だったのだとか。その息子だからなのか、大司教は灰色の悪魔を贔屓しているように見える。
「貴方の名前をまだ聞いていませんでしたね」
「#名前#と、申します」
「#名前#ですね。セテス」
セテスと呼ばれたのはこの場に同席している、大司教の補佐をしている緑髪の男だ。この色を持つ者は概ねソティスの血筋の者であるため、将来的に敵対する相手だろう。
セテスから手渡されたのは上質な絹の袋。ずっしりとした重みがあり、中にはお礼が入っているのだろう。
「ありがとうございます」
「いいえ、貴方の善行に我々は助けられたのですから」
「……恐縮です。私はこれで失礼します」
恭しく頭を下げ、先に謁見の間から出て行く。ふぅ、と息を吐いたところで杖をついた、腰の曲がった老人と目が合う。老人は目を大きく見開き、私の腕を掴んだ。
「何故ここに……!?」
「は、え?あの、どちら様でしょうか?」
耳元で囁かれた「ソロン」の名に飛び出そうになった声を掌で押さえる。そのまま図書室へと連れられ、椅子を引かれた。
処刑台に立たされる人の気持ちで大人しく座り、実は……と事情を手渡された紙に綴っていく。紙は便利だ。何せ燃やしてしまえば何も残らないのだから。
落とされた溜息にビクリと肩を震わせると、頭を撫でられる。その視線は仕方のない子だなぁ、と極めて優しいものだった。
「ここにいたのか」
「ひっ!」
悲鳴は自然と上がったものだが、驚いた振りをして紙をぐしゃりと握り潰してから立ち上がる。
振り返ると、そこには先程まで一緒にいた灰色の悪魔がいた。
ソロン──今はトマシュと名乗る彼が空気を読んで立ち去る姿を二人で目で追いつつ、ぐしゃぐしゃにした紙をポケットの中に隠した。
「その、私に何かご用ですか……?あ、一応図書室なので廊下に出ます……?」
「そうしよう」
闇に蠢く者の正体について深くゲームで知ることが出来ていたら、おそらくこちらの設定で連載をしていたと思われます。
夢主は闇に蠢く者たちの次世代。彼らの子ども。
当事者ではないため、ソティスに対する恨みがあまりない。
けれど自分達の文明を壊し、嘘の歴史を伝え、在ったはずの物を無かったことにするセイロスとセイロス教に対する怒りはある。
端的に言ってしまえば、セイロス教を潰すことには賛成だが、アガルタの民の非人道的な行い(人体実験や乗っ取り)には反対。
中途半端だから辛くなっている。
セイロスと敵対することは出来るが、セイロス教の信者とは嘘の歴史に騙されているだけだから戦いたくない。そもそも争いは嫌い。
中途半端だからこその優しさがアガルタの民にとっては特別な物に感じていた。
怪我をすれば手当をしてくれて、ちゃんと休んでいるのかと心配してくれる人はアガルタでは珍しい。
恨みつらみの中、切羽詰まっているからこそ、自分のことで精一杯。必要になれば同族が自分という人間すらを利用して、怨みを晴らそうとするだろう。人に優しさを振り撒ける夢主は救いだったのかもしれない。
弱音を吐けない環境で唯一弱音を吐いても許される人。
だから、夢主はそのままでいい。そのままでいてほしい。
そのままの貴女といられる時間が一番肩の力を抜くことが出来るから。
先祖は現セイロス教の関係者に討たれ、私たちは地下での生活を余儀なくされている。悪いのは全て、今は女神と呼ばれるソティスとその眷属。我々は先祖の恨みを果たすことことが悲願なのだ。
そう教えられて育った。けれど私は痛いことも人を傷付けることも苦手で、目的のために人を殺め、人体実験すら罪悪感を抱かずに行える同族を見て、きっと自分がどこか可笑しいのだと思う。
先祖を思えば出来るはずのことが出来ない。そんなアガルタの民の中でも異端な私をみんな受け入れてくれている。その優しさが辛かった。
だから勝手に外に出た。地下の街、シャンバラを抜け出して地上の空気を吸った。旅をして、心配をされるだろうけれど姿を隠して、もし今のフォドラの大地を少しでも醜いと感じられれば、きっと私もアガルタの民のために身を粉に働くことが出来るようになるだろう。
だから、そう。生きる上で誰とも関わらないことは難しいから、情が移らないように、付かず離れずの距離感で。顔を覚えられる前に次の街に移り、セイロス騎士団の動きを知ることが出来れば重畳──だったはずなのだ。
「助かったぜ、嬢ちゃん。その子どもは俺らが世話になっている村の娘でな。捜していたんだ」
「いえ、そんな、放っておけなかっただけなので」
山賊と思わしき大人に腕を掴まれながら泣いている子どもを無視することが出来なかっただけ。その際に子供の目は塞いだものの、逃走のために何人か殺してしまっているため、特に尊敬出来る行いでもない。
被害者の五歳程の子どもをジェラルド傭兵団の団長に手渡そうとするが、「いや!」と私の腕の中で丸まられてしまえば一緒に村まで来てくれないかと尋ねられるのは自然な流れである。そして無事に子どもを親元へと返し、お礼に晩御飯だけでも食べていかないかという圧の強い好意に甘えて一夜だけルミール村で過ごそうとしていたら、賊に追われている士官学校の生徒──アドラステアの皇女、ファーガスの王子、同盟の次期盟主に助けを求められ、関係ないとばかりに息を潜めていたところを助けた子どもに憧憬の眼差しで見つめられる。
「おねえちゃん、とってもつよいんだよ!だからだいじょうぶ!」
なんて大声で胸を張られてしまえば、もう逃げる道なんてない。
頭を抱えたい気持ちをグッと堪え、ジェラルド傭兵団と共に戦うことになってしまった。どうしてこんなことに。
「ウォームZ!」
「おっ、助かるぜ!」
こうなりゃ自棄である。
ジェラルド傭兵団の灰色の悪魔とファーガスの王子が先陣を切り、アドラステアの皇女が攻撃を引き付け、私が闇魔法で敵を鈍らせ、そこに次期盟主が弓矢でトドメを刺す。
初対面ながら見事な連携であり、驚く程に戦いやすかった。
それは全員が同じ考えであったようで、安心して背中を任せられた。……嘘である。アドラステアの皇女はアガルタの民の実験体の一人だったため、存在から目を逸らしたい気分だ。お願いだからこっちを見ないでほしい。食事を運んだり衣服を整えたりする中で会ったことがあるけれど、今すぐ私のことは忘れてほしい。気付くな。思い出すな。これが私たちの初対面にしよう。
そして時間を巻き戻すかのような歪みを起こした灰色の悪魔は一体何者なのか。噂に聞く天刻とかいうものだとしたら、私は気絶するぞ。
賊が逃げ出したことを確認し、私もいそいそとこの場を離れようとするが、次期盟主の男に目敏く見つかり、足を止める。そうこうしている間にセイロス騎士団の人間がやって来て、自分の運の悪さを憎む他ない。
「いえ、困っている人がいたら助けるのは人として当たり前のことですので!お礼とかは必要ありません」
「だが……ここだけの話、これはかなりの不祥事なのだ」
セイロス騎士団のアロイスの説明に「ですよねー!」としか言いようがない。ある意味このお礼は騎士団が士官学校の生徒を、しかも各国の要人を孤立させて盗賊と戦わせたことに対する口止め料なのだ。その口止め料として相応しい金額をこの場で支払えない。故に共に大修道院に来てほしいと頼まれてしまっている。
傭兵団は当たり前のように大修道院へ向かう準備を始めており、私一人が大の大人に頭を下げられている状態だ。こんなもの、分かったと頷くしかない。
どうしてこんなことに。敵の本拠地へ、敵の騎士団員に誘われて向かうだなんて誰が想像出来るのだろう。
夜明けを待ってからルミール村を立ち、大修道院へ向かう。次期盟主がかなり押しが強く、それでいて距離感を計るのが上手いからか、無駄にお喋りをしながら歩き続ける。余計なことが口から飛び出してしまう可能性があるため、警戒していることにすら気付かれてしまっているような。
「ところで、だが」
「はい?」
「戦いは苦手か?」
なんで分かるんだよ。
「いやなに、昨夜は魔術を使い慣れているように見えたが、敵に致命傷は与えていなかっただろう?そうだな、例えば、人を傷付けることが苦手とか」
「……よく見ていらっしゃるんですね。その通りです。だから、お礼なんてもらえるほどのことはしていないんです」
変に嘘を吐く方が疑われるだろう。隠す必要も特にないため、正直に話してしまう。今のところ私自身が彼と敵対する予定はないので。
探るような視線が気不味くて、思い切り目を逸らしてしまいたい気分だ。
「いやいや、助かったよ。何せ敵が碌に動けなくなっていたんだ。射ち易かった……って、もしかしてこういう話も苦手か?」
「お気遣い、ありがとうございます」
このお礼は本心だった。
恨み、辛み、嘆き、怒り。負の感情を動力源としてアガルタの民は復讐のために生きていた。人の域を超え、何百年と生きる人生の先輩に私たちみたいな若い衆は多くのことを学び、彼らの意志を継ぐ。悪はソティス。そのソティスに連なる者や味方する者は人に非ず。
私はフォドラの民が人でなしであると確信を持ちたかったが、それは──。
「では、修道院は初めてか」
前を歩くファーガスの王子の声が聞こえ、クロードと気安く呼ぶように笑った男に腕を引かれる。
ああ、見えて来た。嘘で塗り固めた歴史を広める、セイロス教の中心部が。
◆
「士官学校の生徒たちを救ってくれたこと、心より感謝します」
なんで大司教に御目通りが叶ってしまっているんですかね。
謁見の間で愛想良く笑顔でいるものの、そろそろ頬が引き攣りそうだ。
ジェラルド傭兵団の団長は七年前の火災の日までセイロス騎士団の団長だったのだとか。その息子だからなのか、大司教は灰色の悪魔を贔屓しているように見える。
「貴方の名前をまだ聞いていませんでしたね」
「#名前#と、申します」
「#名前#ですね。セテス」
セテスと呼ばれたのはこの場に同席している、大司教の補佐をしている緑髪の男だ。この色を持つ者は概ねソティスの血筋の者であるため、将来的に敵対する相手だろう。
セテスから手渡されたのは上質な絹の袋。ずっしりとした重みがあり、中にはお礼が入っているのだろう。
「ありがとうございます」
「いいえ、貴方の善行に我々は助けられたのですから」
「……恐縮です。私はこれで失礼します」
恭しく頭を下げ、先に謁見の間から出て行く。ふぅ、と息を吐いたところで杖をついた、腰の曲がった老人と目が合う。老人は目を大きく見開き、私の腕を掴んだ。
「何故ここに……!?」
「は、え?あの、どちら様でしょうか?」
耳元で囁かれた「ソロン」の名に飛び出そうになった声を掌で押さえる。そのまま図書室へと連れられ、椅子を引かれた。
処刑台に立たされる人の気持ちで大人しく座り、実は……と事情を手渡された紙に綴っていく。紙は便利だ。何せ燃やしてしまえば何も残らないのだから。
落とされた溜息にビクリと肩を震わせると、頭を撫でられる。その視線は仕方のない子だなぁ、と極めて優しいものだった。
「ここにいたのか」
「ひっ!」
悲鳴は自然と上がったものだが、驚いた振りをして紙をぐしゃりと握り潰してから立ち上がる。
振り返ると、そこには先程まで一緒にいた灰色の悪魔がいた。
ソロン──今はトマシュと名乗る彼が空気を読んで立ち去る姿を二人で目で追いつつ、ぐしゃぐしゃにした紙をポケットの中に隠した。
「その、私に何かご用ですか……?あ、一応図書室なので廊下に出ます……?」
「そうしよう」