ネタ帳

2019 / 11 / 24
巌勝→夢主→←縁壱

泥沼展開なお話がかなり好きです。
間違えて取っておこうと纏めたおいた本誌の方を捨ててしまったため、単行本が出てから書けるかな…という感じですね。

あやふやな記憶のまま、ちょこっとだけ書いてあるのでこちらも供養。
そのうちバッドエンドで続きを書きたいですね。

余談ですが、1500年〜1600年の辺りが好きな歴女なので、それより少し前だと思われる始まりの呼吸の戦士時代はとても書きやすい。




 父は継国家に仕える家老だ。
 継国家の初代当主の時代には既に家老として我が家の先祖の名が文に刻まれており、継国のお家からの信頼も厚い。
 そんな家の長女として生まれたのが私だった。
 継国家には双子の男児がおり、私はその二人と歳が近いことから、話し相手を努めさせて頂いていた、所謂幼馴染というやつである。
 双子の兄である巌勝様は私をよく可愛がってくれた。稽古を頑張れば頭を撫でてくれるし、巌勝様が貰ったはずのお菓子を分けてくれたこともあった。性別が違うにも関わらず接触は多いけれど、幼い頃からなので嫌な感じはしない。
 弟である縁壱様はいつもぼんやりしているようで、誰よりも周りを見ているお方だ。人の体調や怪我にいち早く気付き、言葉にせずとも心配してくれる。深い深い底の見えない瞳。その瞳に映るものが知りたかった。そうして彼と過ごしていると、彼の優しさに触れる。その優しさが私はとても好きで、いつの間にか縁壱様に恋をしていた。
 けれど、時は戦国。群雄割拠の時代。既に深い絆で結ばれた家同士の者が結婚して、一体何になろうか。
 結婚は女を人質として差し出すことで、お家同士の仲を保つためにある。恋愛結婚だなんて、出来るわけが無いのだ。出来たとしても決定権があるのは男の方であり、側室に収まるのが落ち。
 幼い私は縁壱様を深く愛していた。だからこそ、正室の方がいると考えただけで胸が張り裂けそうになる。耐えられるわけがない。だったら初めから、そういう仲になれると思わない方がずっと楽だ。
 年の離れた兄妹に囲まれて育った私は物分りが良かった。心の何処かで縁壱様と愛を育むことは出来ないと分かっていたからこそ、それなりの距離感で過ごしていたはずだ。そのはずだった。
 ある時から、巌勝様の縁壱様を見る目が変わった。前までは可哀想なものを見るような目であったはずなのに、気付けば恐れを抱いているような視線でいた。
 私が縁壱様に近付こうとすれば、巌勝様はそれを引き止め、己の傍にいるようにと言われる。少しだけ不満ではあったが、私は巌勝様も幼馴染として大好きだったため、遊んでくれるならと頷いていた。
 そしてその後、お二人のお母上様が身罷られた。それを知ったのは夜中のことだ。
 虫の知らせがし、その日は寝付くことが出来なかった。寝たふりをしてやり過ごし、こっそりと庭に出ると、そこには縁壱様が立っておられた。
 縁壱様は私に母が亡くなったと告げる。
 縁壱様はずっとご自分のお母上様を支えておられた。そんな縁壱様に飽きることなく声をかけていた私に、本当によくしてくださった。第二の母だと勝手に思っていたほどだ。
 悲しくて悲しくて仕方が無かった。でもそれよりも悲しかったのは縁壱様が寺へ行き、もう継国のお家には帰ってくるつもりがないと言ったことだ。
 縁壱様と会えないことが嫌だった。
 けれど、弱い女だとは思われたくないから。巌勝様が日ノ本一の侍になり、自分は二番目に強い侍となると、初めて見せてくれた笑顔で言ってくれたから。
 そんなお方を好きになった私が、こんなことで泣くようではいけない。
 涙をひたすらに堪えた。

「これを」
「これは……藤の花、ですか?」
「一年中狂い咲いている山があるんだ」

 一房受け取ると、縁壱様は驚く程に優しく微笑まれた。

「いつか必ず迎えに行く」

 壊れ物を触るように私の目尻を撫でると、縁壱様は引き止める暇もなく去って行った。
 早く来てくれなきゃ、待ちたくても待てないんですからね。そういうの、ちゃんと分かっているんですか?
 藤の花は何年経っても枯れることはなく、私室の花瓶に挿されていた。