Dear. 前編

※アニメ沿いだったりゲーム沿いだったり
 夢主は超次元サッカーが出来るタイプだったが、怪我が理由で試合にはフルタイムで出られない
 わりとテンポ良く進み、地味にアレスの天秤ネタがあります





 突然ではあるが、私はサッカーが大好きだ。自分でプレイをするのも観戦するのも良い。切っ掛けは初恋の近所のおにいちゃんにサッカーを教えてもらったからだ。そのおにいちゃんは十年前に亡くなってしまっていて、もう顔も覚えていないのだけれど。
 いつの間にかサッカーにのめり込み、近所のおにいちゃん同様にサッカー留学もした。その先で色々あって、大怪我をしてしまったために帰国。あのジジイ絶対に許さん。
 足は動かなくなってしまったが、努力をすればまたサッカーが出来るようになるまで回復出来ると医者に言われ、絶賛リハビリ生活の真っ只中だ。
 まあ、サッカーが出来るようになるだけで、どうやら必殺技を使った試合にフルタイムで出場することは難しいらしい。プロにはなれないな、と諦めてしまったが、選手でなくともサッカーで世界に行く方法を模索しているところだ。
 そんな私は現在、傘美野中学に通っている。理由はサッカー部がないと聞いていたからなのだが、同好会のようなものはあったらしく。同好会のメンバーはガラが悪いがサッカーは大好きで、部活として活動出来るように日々努力しているらしい。めちゃくちゃ好ましいな!?
 だがしかし。サッカーのプロへとなる道を閉ざされた私はこれでもまだ未練タラタラだし、何よりこうなってしまった大元のクソジジイを恨んでいる。サッカーを好きに出来る人に関しては嫉妬してしまうため、グッと堪えて見て見ぬふりをしたいところだ。
 でも傘美野サッカー同好会、部になるために言葉遣いまで正そうとしてるんだよね……応援もしてぇ……!





 最近サッカー好きの間でちょっとだけ話題になっている雷門サッカー部と傘美野サッカー同好会が野良試合を行ったらしい。
 なんで!?なんで誰も呼んでくれなかったの!?生で観たかったし誰も動画撮ってないってもう!お馬鹿さん!台パンして担任に怒られてしまった。反省してます。でも悪いのは傘美野サッカー同好会だと思います。
 最近知ったのだが、定期的に検査のために通っている病院の院長先生は雷門のエースストライカーの豪炎寺修也さんの父親らしい。俄然リハビリへのやる気が湧いて来ました。まあ、オーバーワークだって怒られたんですけどね!サッカーが出来るようになるまでは遠い。普通に生活する分には問題ないのにな〜!
 母の運転する車の中でFFの試合をサッカーボールを抱きしめて観る。やっぱ雷門の試合が一番胸が踊るな!
 なんて思っていたら、サッカー留学中に話に聞いていた一之瀬一哉が雷門にチーム入りしていたりだとか、神のアクアとかいうドーピングアイテムの存在が発覚したりだとか、何かもう日本のサッカー界可笑しくない?ブラジルのサッカー界並にやべぇよ。
 クッソ、また思い出した!許さねぇからな、あの石油王のクソジジイ!さっさと捕まっちまえ!





 留学中の話を嘘だったり盛ったりして書いた作文が賞を取ってしまい、罪悪感に苛まれながらも東京の某所に行って表彰されていたところ、帰ってきたら何故か傘美野中が崩壊していた。なんでやねん。
 ドン引きしていると、同じクラスの女の子が宇宙人がやって来て破壊したのだと教えてくれた。ぱーどぅん?
 宇宙人がサッカーでの試合を申し込んで来て、負けたら学校破壊?いや、全部分からんわ。もういっちょドン引き。
 ところでだが、FFを優勝したのは雷門中学校だ。おめでとう!その雷門すら宇宙人には敵わなかったらしい。それで雷門イレブンは最強メンバーを集めに日本全国を回るのだとか。
 試合は中継されるのだが、何故メンバーを日本に限るのだろうか。世界からも助けを求めた方が良くね?世界的には宇宙人とかフェイクニュースだと思われてるの?そりゃそうだよな……。
 でも財前総理も宇宙人に誘拐されたことがあるわけだし、もっと大きな問題になりそうなものだが。もしかして、総理が隠蔽してる……?

「我々と共に来てもらおうか」
「はい?」

 速報!悲報!宇宙人に誘拐されました!一緒に戦わないかとスカウトされています。もう何なのこの宇宙人。非現実的過ぎて、恐怖心も何処かに飛んで行った。
 そりゃあサッカー留学していたし、そこまで有名ではないけれど、調べれば私の活躍なんてポンポン出てくるけれども。それなら知ってんでしょうが。

「怪我のせいで私はプロにはなれないの。試合に出ても役には立てな……立て……たて……ちょっとしか役に立てません!」
「そこは嘘でも役に立てないと断言するところじゃないかな?」
「うぐぐ……サッカーに嘘はつけない……!」

 グランと名乗った、どこか懐かしさを覚える宇宙人との会話中。私は頭を抱えた。
 サッカーで役立たずとか普通に嫌だし認めたくねぇ!プライドがあるんだよ!それを敵に窘められるって何!?
 部屋に閉じ込められ、外には監視の大人の宇宙人。しかし目の前のグランより立場は低いらしい。
 グランは怪しく光る石を私に見せ、駄々を捏ねる小さい子を宥めるように微笑んだ。

「これがあればフルタイムで試合に出ることが出来るし、必殺技にだって身体が耐えられるよ。もっと強くなることだって可能だ」
「そんなドーピングみたいなこと誰がするか!サッカーを裏切るような真似は絶対にしない!」

 私はスポーツマンシップに則ったサッカーが好きだ。え?ジャッジスルーとかの必殺技はどうなのかって?あれはちゃんとサッカーだろうが!

「それに!そんな物がなくても私は強い!」

 世界一を目指せるくらいには期待されてたんだぞ!リベロだけど基本ディフェンスしかしないせいで目立たなかったけど!その道の人であれば注目してくれてたし!アッ、ヒデナカタの話はやめてください。あの人強すぎ問題。他の選手が影に隠れるわ。しかも従兄弟ってだけで対談させられたりしたし。雑誌は保存用と読む用の二冊購入済みです。
 きょとんとしたグランは私の宣言に悲痛そうな顔をする。悪いと思うなら二度と勧誘するなよ。

「じゃあ、その力を証明して見せてくれ」

 腕を引かれ、サッカーグランドまで案内される。ビックリするほど設備が整っており、これなら中継だって出来そうだ。雷門の試合観たいな……。お母さん、録画してくれてるかな?してなかったら理不尽に怒ろう。
 勝負内容は簡単。私がグランのチームのキーパーに対してシュートを決められたら勝ち。
 世界レベルの実力を舐めるなよ!決めてやるわ!
 グランとキーパー以外のグランのチームメイトが見守る中、笛の合図でボールを蹴り上げる。
 空中で素早く何度もボールを蹴り、トドメにゴールへと蹴り落とす。

「ザ・エクスプロージョン!」

 初恋のおにいちゃんの必殺技。最後に会ったのだって小さい頃過ぎて記憶にほとんど無いけど、おにいちゃんの蹴るサッカーが好きだったのだけは強く覚えている。
 だから私はおにいちゃんがプレゼントにくれたと聞いているサッカーボールは今でも宝物として部屋に飾ってあるし、留学中はおにいちゃんの試合映像が残っていないか探しに探した。やっとのことで見つけた映像でおにいちゃんが使っていた技。出来るようになるまで、半年くらいかかったっけ。
 ところで、エクスプロージョンなのに「ザ」から始まるの?ジ・エクスプロージョンじゃないの?気にしたら負け?そうッスね。
 ボールはゴールへと突き刺さった。当たり前である。だって私はサッカー上手いしな!にしても足がめちゃくちゃ重いな。これが怪我の影響か。辛い。
 試合後、特に勧誘されることも無く、とりあえず元の部屋に軟禁された。なんでやねんV2。暇にならないようにグランが話し相手になってくれたり、グランドでサッカーの練習をさせてくれる。グラン、良いやつだね!
 そんなこんなでグランとしかほぼ話をしない中、突然やって来た福耳のオジサン。何と、エイリアのボスらしい。

「ザ・エクスプロージョン。素晴らしい必殺シュートでした」

 サッカーを褒められるのは素直に嬉しいが、そう簡単に勧誘に乗る私ではないぞ。だから褒めても無駄!

「吉良ヒロト。この名前に聞き覚えはありますか?」

 ちょっ、待てよ。聞き覚えしかないわ。





 速報!改。初恋のおにいちゃんの父親がエイリアのボスだったらしい。しかもおにいちゃんの死因である事故死は嘘で、少年犯罪に巻き込まれたからなのだとか。ウソだろ、おい。
 そこから始まるおにいちゃんの父親の世界への復讐劇。想像を絶するわ、これ。しかも宇宙人は宇宙人じゃなくて人間なんだって。
 そんな大事な話をペラペラと話して大丈夫なのか?同情はするけどドーピングとかスポーツマンシップに反するから協力はしないよ?はっきりそう伝えると、内部情報を知り過ぎたので帰すことは出来ないとまた軟禁。そっちが勝手に喋ったのになんでやねんV3!
 しかもグランがごめんねって態々謝りに来てくれたんだけど!?大人の都合の話であるはずなのに子どもに謝らせるな!





 ずっと同じような生活を続けていたので詳しくは知らないが、最終的にエイリア学園に雷門が勝利したらしい。エイリアの本拠地が崩壊を始め、ふざけんなよ!と叫びながら爆発音から離れたところまで走って逃げる。運動神経が良いことにこれ程感謝したことはない。
 途中、刑事だと名乗るオジサンと出会い、そのオジサンの案内で外まで何とか逃れ、イナズマキャラバンに乗せてもらって雷門町まで帰ってくることが出来た。やったぜ。
 キャラバンの中でミーハーな反応をしたことは謝る。すまん。知らない間に選手も増えていたし。吹雪さんなんて危うさ消えてたし、豪炎寺さんは帰還してるし。いなくなってしまった選手もいたけどね!
 シリアスムードをぶっ壊して本当にごめんな……。一之瀬さんは私のことを存じていたらしく、積極的にサッカートークを繰り広げてくれた。感謝しかない。それに乗じて円堂さんまでグイグイ来てくれて、話に花が咲いた。楽しかったです。
 刑事さんに軟禁中の話をしなければならないのですぐにお別れしてしまったが、一緒にサッカーをやる約束が出来て大満足だ。
 ダークエンペラーズ戦!?誰か動画撮っていませんか!?
 因みに私が観られなかったエイリア学園VS雷門の試合は全て録画しておいてくれていたらしい。両親との再会後の第一声が録画に関しての話だったがために叱られたが、さすが私のお母さんとお父さんだ。
 グランが優しくしてくれたのもあるが、おにいちゃんと知り合いだったことで優遇されていたので、エイリアは居心地が良かったのである。留学中にホームシックを経験した私はエイリアにいる間にそれを体験することもなく、ただただグランに勉強を優しく教えてもらったりだとか、サッカーをしたりして楽しかった。
 これには刑事さんにも「図太いな……」と呟かれてしまったのだが、否定はしません。





 次は世界だ!ってな訳でFFI開催決定!ドンドンパフパフ!
 しかも戦術アドバイザーとして招集されました!世界のサッカー事情にはそれなりに詳しいぞ。特にブラジル!恨みがあるからな、絶対にアジア予選を突破してぶっ倒してくれイナズマジャパン。あの髭長石油王が絶対に邪魔してくるだろうけれど、私も全力で協力するからね!あのジジイ、主催者兼大会会長だからな。
 同じく戦術アドバイザーのメガネさんは機械に強いらしく、ネットから情報を集めるのが上手い。それはマネージャーの春奈ちゃんも同じだ。同い年ということもあり、春奈ちゃんとは特に仲良くさせてもらっている。
 代表候補から人数を搾って日本代表を決め、久遠監督が持ち前の口の悪さで選手たちから苦手意識を持たれていた。選手と監督は仲良しの方が良いプレイが出来るのになぁ。
 グランとも再会し、彼の本名である基山ヒロトという名を教えてもらった。ヒロトはおにいちゃんから来ているらしく、元々の名前はタツヤなんだって。それはそれとして、ヒロトと呼ばせてもらうことになった。今更敬語は使わない。
 他に選手の中ではヒロト繋がりで緑川くんと、春奈ちゃん繋がりで鬼道さんとそれなりに話す仲だ。仲良しにはまだ遠いかな。コミュ力高い勢とは結構話していたりする。虎丸くんは一人だけ小学生で知り合いもいないため気にかけていたら、外でも見かけたら必ず駆け寄って声を掛けてくれたり、手を振ってくれるようになった。可愛い後輩である。その様子を不動さんが茶化してくるのだが、腹が立ったのでサッカー勝負を挑むことにした。結果?十五分のミニゲームだから引き分け。0対0。不動さんはサッカーでは尊敬出来るが、人としては尊敬出来そうにないので呼び捨てにすることにした。改めてよろしくね、不動!言えば頭を鷲掴みにされてしまった。
 従兄弟からも連絡が来ていたのだが、イタリア代表のキャプテンであるはずなのに何故だか日本にやって来ていた。イタリア代表の監督の息子だという友人と一緒に家に泊まりに来て、ひたすらサッカー談義をしたが、友人さんには飽きられてしまう。置いてけぼりにしてすまん。アイスを奢って許してもらった。
 イナズマジャパンは大変な面も勿論あったが順調にアジア予選を突破。選手の入れ替えやら色々あったが、本戦の行われるライオコット島へやって来たのであった。ちなみに緑川さんと吹雪さんとはメアド交換をしたので、それなりに連絡を取り続けている。それと同中のサッカー部の出前さんね。宇宙人(偽)に誘拐されて距離を取られていた中、出前さんだけは話しかけて心配してくれたのだ。良い奴だよ……!同好会から部活になったんだよね、おめでとう!帰ったらマネージャーやらせてね!

「初めまして、可愛らしい方。俺はフィディオ・アルデナ。お名前を聞いても?」
「フィ、フィディオ……!?」

 おい、イタリア人。キャプテンを戸惑わせるなや。それどころか、若干アメリカ代表とアルゼンチン代表の人まで驚かせてるぞ。生で試合を観たこともあるけど、そんな人じゃなかったよね……?
 開会式を終え、本戦一発目の相手はイギリス代表ナイツオブクイーン。その相手に交流会と冠した社交界に誘われたイナズマジャパン。正装でとのことだったのだが、私はあまり乗り気ではない。女の子らしい格好も好きではあるのだが、サッカー最優先で動きやすい服装ばかりをしており、今更自分のドレス姿は恥ずかしすぎた。
 ギリギリまで行かないでやろうとドレスに着替えて居残っていたところ、宿舎からイナズマジャパンの練習グランドで各国の主要選手が集まってキャプテンとサッカーをしている姿を見つけてしまったのである。
 夢中になっている間に秋さんとも合流し、秋さんが時間が迫っていると声を上げた。私もそれは不味いと思い、彼らの操るボールを奪ってゲームを中止させたのだった。ドレスが汚れる?膝丈なので、足の甲を使えば問題無しです。割と裾も広がるし。ヒールは弱った足に悪いから、パンプスを履いている。
 そしてフィディオさんに話しかけられたのである。
 存じていることと名前を名乗ると、気安く名前を呼ばれる。異国の人だからだろうか。自然体であり、初対面ながらの距離の近さは気にならなかった。
 慌てたキャプテンはフィディオさんたちにお礼を伝え、私にも「行くぞ!」と声を掛けて秋さんと走り去ってしまう。ちょっと待てや。足的な問題でイギリスエリアまで走るのは無理なんだけど……!?無駄に見栄を張って怪我を話さなかったことが裏目に出てしまった。もうバックレようかな……。監督に怒られるか。

「えっと、忙しないキャプテンですみません。でもあの、とても良い人なので」

 ポカンとしていた敵チームの方々に弁明をする。すみません、と携帯を取り出して事前に写真に撮っておいたバスの時刻表をチェックする。走れば十五分後のバスになら間に合いそうだ。
 ナイツオブクイーンに誘われていることを説明し、各国の代表選手とお別れをする。気にするなと笑ってくれて優しい人たちばかりだ。
 駆け出した私にフィディオさんが付いてきているのだけが謎だが。

「実は君のことを知っているんだ。キャプテンから話を聞いている。足を怪我しているんだろう?バス停まで道案内をしてくれ」

 おい個人情報!いや、調べれば出てくるような情報だけれども!
 フィディオさんはスピードを上げて私を追い越し、正面で立ち止まる。突然スピードを落とせるわけもなく、フィディオさんにぶつかってしまった。
 ギュッと受け止められ、膝裏に片腕を回される。瞬間、浮遊感に襲われた。
 あけすけに言えばプリンセスホールド。お姫様抱っこをされたのである。

「これなら負担がかからないだろう?それにドレスの女性を走らせるだなんて、男として出来ないさ」
「ヒェッ……」
「ここは曲がる?」
「アッ、イエ、直進デス」

 流石はイタリアの白い流星。足が速い。
 バスの時刻には余裕で間に合い、下ろしてもらうときに目を合わせてふわりと微笑まれた。イギリス代表のエドガー程じゃないけど、女性人気が高いのがよく分かる。イケメンだ。
 既にバス停にいたおばあさんには微笑ましい視線を送られ、学生の女の子はきゃー!と黄色い悲鳴を上げている。
 むり……はずかしい……。何この羞恥プレイ。

「また会おうね。出来れば二人きりがいいなぁ」
「えっ」
「二人っきりでサッカーしようよ」
「喜んで!……あ」

 やめろやめろ!サッカーの誘いには深く考えずにオーケーを出す癖があるんだよ!
 約束だよと小指同士を絡め、嘘ついたらキャプテンに言いつけると指切りをされる。いや、待って。従兄弟は私のことを手のかかる妹だと思っている節があるから、マジで幼稚園児相手みたいな注意のされ方をするんだけど……!?そもそもイタリア人に指切りを教えたのも従兄弟だな!?
 またね、と左右に軽くキスをして帰っていくフィディオさん。バスがやって来たからだ。周りからの視線が痛い!





 私が遅れて到着した頃にはイギリス代表のキャプテンと私たちのキャプテンが勝負をしており、どうも敵対意識が深まっていた。
 遅れてしまったにも関わらず優しくして頂いたのだが、あのイタリア人のお陰で大分耐久が着いてしまっていた。手の甲にキスとか、頬に比べればマシ!!
 来る対決の日。遠くから撃てば撃つほど強力なシュートとなるエクスカリバーや必殺タクティクスを攻略し、見事イナズマジャパンは初戦で白星を飾った。

「いやこれ、絶対にバックにアイツがいるだろ」
「?どうした?」
「なんでもなくはないけど、気にしないでください。キャプテン!」

 石油を支配し、そのまま世界征服を狙っていそうな髭長クソジジイの面影を感じ、私は怒りに燃えた。
 イタリア代表オルフェウス。その監督が消え、新たな監督がやって来た。その名もミスターK。影山である。そんな雑な。
 ミスターKはイタリア代表選手を全取っ替えするとか何とか言い出し、それを当然拒否したフィディオたちにサッカーで決着をつけようと持ち出した。問題はその後だ。
 ミスターKが仕掛けた罠で沢山のフィディオ側の選手が怪我を負った。普通に犯罪です、逮捕されろ。……されてたんだっけ?脱獄犯じゃねぇか!
 で、影山と因縁のある鬼道さんや佐久間さん、不動が個々で動き回り、心配したキャプテンが合流。私?クソ石油王の気配を察知して別行動してましたが?突然従兄弟からフィディオたちをよろしくってメールも届いていたし。ちゃんと事情を伝えろ。
 影山は最高傑作は鬼道さんだとか何とか言って、鬼道さんによく似た少年を連れて来た。執着しとるワロタ。いや、場合によっては笑えないな。
 対影山戦としてキャプテンたち四人とイタリア代表が手を組み、試合開始。私はマネージャー業に勤しむのだった。
 試合はまあ、問題がなかったわけじゃない。けれどキャプテン周りではよく起こる出来事なので割愛させて頂こう。
 帝国組が和解し、新必殺であるこうていペンギン3号を放ち、相手のゴールにシュート!無事勝利である。
 喜んでいられたのも束の間。何故かジ・エンパイア戦が今日へと変更されており、試合会場に向かおうとするものの謎の男たちに足止めされてしまう。これはもう絶対にあのジジイのせいである。クソ野郎。

「やあやあ、これはこれは。女子サッカー界でそれなりに有名だった選手もいるではありませんか!」
「それなりで悪かったな!」

 まだまだこれからだったんだよ!その"これから"もお前たちに奪われたけどな!
 怒りを顕にしていると、鼻で笑われて余計に腹が立つ。
 ぶん殴ってやろうかと拳を握りしめると、フィディオがその手を優しく解いてくれる。

「痛いだろう?傷付けちゃダメだ」

 爪が掌に刺さることを危惧してくれていたらしい。
 大丈夫だよ、マネージャー業務を手伝っていることもあって爪は短いし。そう簡単には刺さらない。
 けれど冷静さを欠いてしまっていたと、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。

「ごめんなさい、ありがとう」
「良いんだ。君の身に起きたことが自分の身に降り掛かったら……そう考えただけで胸が苦しくなる」

 チームメイトの前では強がって見せたけれど、帰国して両親と再会してからは酷いものだった。
 抑えていた涙が止まらなくて、もう試合に出られないのだという絶望を感じ、自由に動かせない足に怒りを覚えた。
 あの時の選択を後悔したことなどない。でも、サッカーが出来ないのは悲しかった。辛かった。表現の出来ない不安感に襲われた。
 そんな私を心配して従兄弟が一時帰国し、心底呆れたかのような声を出した。

「諦めるのか?」

 諦められるはずがない。だって、こんなにもサッカーが好きなのだから。
 病院のベッドに閉じこもっていた私が本格的にリハビリを始めたのはそれからだった。
 厳しい言葉を掛けてきた従兄弟だが、目までは嘘をつけない。ヒデは私を立ち直らせてくれた恩人だ。





「一体何があったんだい?」

 明らかに様子が可笑しい私に対し、真正面から尋ねてきたのはヒロトだった。
 あの後。ジ・エンパイア戦にはミスターKと争った四人、そして監督も不在の中で試合は行われ、結果はイナズマジャパンの敗北。もう後が残っていない。
 決勝トーナメントへ進むには勝つ他ない。まあ、元々負けるつもりもなかったのだが。
 前回の試合で怪我を負った栗松くんがイナズマジャパンを離脱し、吹雪さんが加入した中。昔を思い出してソワソワしていた私は夜の宿舎でヒロトと出会う。
 眠れないため散歩でもしようかと寝間着からジャージへ着替え、外へ出ようとしたところを呼び止められた。勿論、女の子一人じゃ危険だろうと注意を受けて。

「あー……。サッカー留学していたのは知ってるんだよね?」
「うん」
「その先で怪我をしたんだけど、その原因がガルシルドなんだよね」

 相手チームのキャプテンに八百長試合を持ちかけられ、断ったら事故にあった。最初は偶然だと思ったけれど、試合が終わった後に相手チームのキャプテンにひたすら謝罪されたら、それはもうそういうことなのだろう。
 試合結果は私の所属チームの負け。相手チームにはスポンサーとしてガルシルドが存在していて、サッカー界では悪い噂が出回っていた。
 当時のチームメイトの父親が警察官でひっそりと証拠を集めてくれていたから、間違いない。その証拠もガルシルドの手に寄って揉み潰され、チームメイトの父親に謝られたのはこちらとしても申し訳なかった。

「詳しい話は機会があればってことで!」

 パンっ!手を叩いて空気を変える。
 ヘラりと笑って部屋へと戻り、枕に顔を埋めた。
 本当、嫌になっちゃうよ。大嫌いだ、クソジジイ。





 私宛に差出人不明の手紙が届いた。封筒に書いていなかっただけで、中には名前が書いてあったからこそ、確認した大人が私に手渡してくれたわけだが、その名前が一之瀬一哉。雷門イレブンの一人、現アメリカ代表選手である。
 誰にも言わずにアメリカエリアに来て欲しいと書かれていたそれに従い、大雨の中アメリカ代表の宿舎へとやって来た私を出迎えたのは土門さんである。
 案内されたのは一之瀬さんの部屋。こざっぱりとした部屋の中で私は椅子に座り、一之瀬さんと土門さんはベッドへ座る。

「こんなことを聞くのは間違っているんだと思う。でも、どうしても聞きたくて。先に謝るよ、ごめん」

 短い時間とはいえ、イナズマキャラバンで話をした時とは雰囲気が全く違う。何かあったのだろうと察し、黙って頷いた。

「サッカーが出来なくなった先、どんな思いを抱えたのかが知りたいんだ」

 その表情でそれを私に尋ねるのだから、分かってしまった。
 真剣に答えなきゃいけない。今回は逃げちゃいけない。逸らしてはいけない。
 自分の顔から表情が消えた。笑おうとしても笑えない。

「強いて言うのであれば、苦しかった。言葉で表現出来るものではありません」
「……そうか」
「でも結局、サッカーを嫌いになれずにサッカーの元へ戻ってきてしまいます」

 この言い方じゃ、彼氏にDVを受けても離れられない女みたいですね。知りませんけど。
 そう言って口角が少しだけ上がった。

「自分で試合を出来ないのは正直寂しいです。楽しそうにサッカーをしている人を見ると妬ましく思うこともありますし、なんで私が!と胸を掻き毟りたくもなります。でもそれ以上にサッカーの楽しさも難しさも知っているから、頑張っている人を応援したくなるんです」

 そんな感じで、今みたいな形でサッカーに携わっています。将来的にもサッカー協会に就職するだとか、サッカーに関わっていたい。
 サッカーから離れたくなったこともあったけれど、私たちほどになれば戻ってきてしまうのだ。
 助けてくれる仲間もいるしね!


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