Dear. 2

 鬼になったことで全ての傷が塞がっていた私は、人体実験の研究施設へ助けに来てくれたヒーローや警察に疑われた。
 当然だよなぁと思いつつ、中身も子どものふりをして誤魔化しに誤魔化した。まあ、だからこそ監視がついてしまったんだけどね!
 その血は一体どうしたのかな?――注射をされた後、気が付いたらこうなっていたの!
 君は無個性なんだよね?――そうだよ!だから実験はそんなに受けてないの!
 昔から日の光を浴びると肌が焼けてしまったのかな?――うーんとね、昔はそうだったんだけど、ここに来る前まではそんなことなかったよ!
 こ れ は ひ ど い。でも子どもだから許してね!
 とりあえず解放はされたものの、両親の件もあって、親戚の家へ行ってからもずっと監視の目があった。けれどそれに子どもが気付いていたら可笑しいじゃん?だから知らんぷり。ワタシハナニモシーリマセーン!
 中学まで通うのは仕方ないとして、高校は通わなくてもいいかな〜。人と関わるのそんなに得意じゃないものね。通うにしても夜間学校かな〜とふわふわ考えていた中三の夏。遅いとかそういうのは知らん。突然、雄英高校の校長先生から雄英に通わないかと誘われた。
 きっとヒーローが多く在籍する学校なら警察も、私が何かしても安心ってことで、貧乏くじを引かされたんだろうね。可哀想に。あまりに可哀想だったから、すぐに承諾しちゃった!ごねられたら困っちゃうでしょ?ってことで、大人の汚い事情で勉強しなくても雄英へ通うことになりましたー!パチパチパチ。
 学科は普通科!今まで大人しくしていたから、無理矢理ヒーロー科に入れられて監視されるような事態にはならなかったよ!私が無個性で通してるってことも理由の一つだろうけどね!普通科の生徒に混ざっていても大丈夫だと思われるくらいには信用されてきてるってことだから、喜ぶべきところだよね!それとも、私がヒーロー科を特別視しちゃってるのかな?うーん、分からん。
 無惨様の血を摂取して、前世と同じく鬼となった私は身体能力も上がり、血鬼術と呼ばれるちょっとした必殺技みたいなものを使えるようになっていた。けれどこれは個性ではないからね!ということで全て秘匿している。だってバレたら色々面倒くさそうだし。私は穏やかに暮らしながら、前世の罪を償いたいだけなのです。
 日の光に当たると消し炭になってしまうのは隠しようがないので、人体実験のせいにしてしまったけど!あの注射のせいかもとも呟いてみたけど、無惨様の血だとは誰も分からないだろうし、何より鬼の存在なんて信じられないでしょ?こっちには鬼殺隊も存在しないみたいだし。あれ、無惨様が倒されちゃったから無くなってしまったのかな?それともまた、政府非公認の組織的な?まあ、どうでもいいか!今世の私は悪いことを一つもしてないもの!殺しはしたけど、あの時の正当防衛だけ!反省も多少はしてる!
 親戚の家は雄英高校とは別の県にあるため、一人暮らしを始めた私は真新しい制服を身に纏い、鏡で全身のチェックをする。
 手袋やタイツで全身を覆い、スカートの長さははしたなくないように。髪はサラサラのストレート。肌も真剣に手入れしているので、若さもあってプルプル。どこからどう見ても綺麗な女の子!童磨さん風に言うならば、とても美味しそう!堕姫ちゃん程美しくなれないのは当然として、それなりに見えるはず。

「いってきます!」

 パーカーの帽子を被り、誰もいない、生活必需品の他には美容品しか置かれていない部屋を出る。
 アパートの階段を降りると、同じ制服の少女と鉢合わせた。彼女は肩のボタンの数からして、ヒーロー科なのだろう。制服は同じく真新しいので、同級生と見た!
 すごいすごい!こんなことってあるのね!

「初めまして!」
「は、初めまして……?」

 動揺を隠せない少女の手を掴み、ブンブンと縦に振る。まあ確かに、春にしては暑そうな格好してるものね!私!驚いてしまうのも無理ないよ!でもほら、鬼って日に弱いからさ!隠さないと死んじゃう!
 自分でも色々と試して見たが、どんなに大怪我を負ってもすぐに治ってしまうが、日の光にだけは敵わない。そこは鬼の頃と何ら変わりはないのだけれど、何故か身体は年相応に成長してしまったのよね。勿論、自分で見目を変えることも出来るけれども!苦手でたまにスライムみたいになっちゃう……。今世紀最大の謎じゃない?
 昔は鬼になった頃の幼い姿のままでいたけど、よくよく考えてみれば禰豆子ちゃんと同い年くらいに見えるような姿になっておけば良かったなぁ。勿体ないことをしてしまった。
 体が成長するってことはやっぱりこの力って個性だったりするのかな?でもでも、本能的に飲んだあれは無惨様の血だと思ったもの!難しいことはよく分かんないし、どちらにせよ得をしているんだから、どうでもいっか!

「私は名字名前です!新入生なの!」
「ああ、それで……。麗日お茶子です」
「お茶子ちゃん!」
「えっと、名前ちゃん?」

 うんうん!と頷き、一緒に雄英高校へ向かう。
 同い年のお友達が早速出来て嬉しいと伝えると、どうして同い年だと分かったのかを聞かれる。それに対して先程思ったことを伝えれば、すごいね!と褒められた。褒められるのは好き!賢い良い子ってことだものね!
 こんな格好なので、道行く人にチラチラ見られるが、私も他人もそこまで気にはしない。個性飽和社会なので、個性の影響で日に当たれない人間はたまにいる。吸血鬼っぽい個性の人間とかね!通学し続ければ、そのうちみんな気にしなくなるさ!
 部屋を出た瞬間に感じる監視の目をいつも通り無視しつつ、お茶子ちゃんの話に耳を傾ける。
 他所の県からやって来て一人暮らしを始めたこと。好きな食べ物はおもち。かわいい!入学試験で地味目の男の子に助けてもらったこと。彼のパンチがとても強かったこと。彼が合格しているか心配なこと。ほうほう。

「つまりその男の子に一目惚れしたってこと?」
「へ!?どうしてそうなるん!?」

 なるほど、まだ気になっているだけと。にやにや笑うと、からかわないで!と肩を叩かれる。全然痛くなーい!
 下駄箱までは一緒だったが、クラスは勿論別なので、ここからは別行動。バイバイ、またね!手を振り、私は私で自分のクラスへ足を踏み入れた。
 パーカーのフードを脱ぐと、途端に増える視線の数。ふふん、私綺麗でしょ?そう在るように努力してるんだから!でも、美しさで貴方たちに褒められたって意味が無いの!無惨様が褒めてくれなくっちゃ!





 ――私はいつも君を見ている。
 ぱちり。目を覚ます。目を覚ました先にあったのは虹色の瞳。文字は読めないが、何かが書かれていることだけは分かった。

「わあ!目が覚めたんだね!ずうっともがいていたから、どうなるのか心配だったんだよ?」

 低い男の声。瞳が離れ、やっと姿をしっかりと捉えることが出来る。
 血を被ったかのような髪に薄っぺらい表情。そんな彼の膝に私は乗せられていた。
 男は童磨と名乗り、無惨様に私を預けられたのだと言った。

「むざん、さま……?」
「あれ、覚えてないの?黒髪で真っ赤な瞳の、」
「きれいなひと!」
「そうそう」

 よしよしと頭を撫でられる。私知ってるよ。良い子だったり、偉い子だと頭を撫でてもらえるんだよね?はじめてだ、うれしい。
 もっと撫でてほしくて頭を押し付けると、童磨さんは首を傾げて自分の胸を撫でた。どうしたんだろう?嫌だったのかな?調子に乗ってしまった?
 殴られるのが嫌で話を逸らそうと、此処は何処なのかと尋ねると、童磨さんはまた薄っぺらな笑みを浮かべた。

「此処は万世極楽教だよ!俺が教祖様なんだぜ?」
「ば……?」
「うーんとね、穏やかな気持ちで楽しく生きようね。辛いことや苦しいことはしなくていいよ、する必要がないよって教えなんだ」

 私は首を傾げる。
 それはおかしい。全部が可笑しい。
 穏やかな気持ちで楽しく生きる?教祖である童磨さんが全くそうじゃないでしょう?
 辛いことも苦しいこともしなきゃダメだよ。じゃないと生きられないんだよ?我慢しないとご飯も食べれないし、もっと苦しいことをされちゃうんだよ。
 直球で童磨さんに伝えた。どうしてそんなに酷いことを言うのかと叱られてしまったが、最後には可哀想にと呟かれる。

「お前は人がどんな生き物か分かっていないんだ。大丈夫、俺が全部教えてあげるから……」
「どうまさんもおかしなひとよね……?」
「うん?俺は普通だぜ?それに人じゃなくて鬼だ」

 ぎゅうっと抱きしめられ、頭を撫でられる。
 童磨さんは表情を周りに合わせて作っているだけの気がしたのだけど、こんなに優しい人が自分から間違っていないと言うんだもの。きっと私が間違っているんだよね?
 ごめんなさいと謝ると、また頭を撫でてもらえた。
 撫でられると、胸がふわふわする。変なの。

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