※中学時代のお話。緑谷くんが不憫。
とある爆発少年曰く私は「ドジでビビりで弱っちいクズ」なのだそうだ。否定はしない。もうちょっとオブラートに包んで言ってほしいけれど。
実際私は何も無いところで転んだり、ちょっと不良っぽい人がいただけでその場から逃げ出したくなるようなチキンなのである。それは中学生になった今でも変わらない。そういう性格なのだ、どうか否定はしないでほしい。社会に出てから大変な思いをすることは目に見えているが、恐いものは恐いのだ。どうしようもない。それを緑色の髪をした心優しい男の子に話したことがあるのだが、そのときは「え、えっと、ミョウジさんがちゃんと、ど、努力してたのは知ってるから…。ちょっとずつ、頑張れば良いんじゃない、かな?」なんて目を逸らし、吃りながら精一杯伝えてくれた。自分なりに頑張っている姿を見てくれていた人がいたのか。彼の人柄の良さと可愛さについつい結婚しようと口走る。女の子と話すことになれていないのか、男の子――緑谷出久くんは顔を真っ赤にさせて慌てていた。その様子がこれまた可愛く、暫くその姿を見守ってしまったクズはこちらです。
ゆるゆるとした気持ち悪い表情を浮かべ教室で頬杖をついていると、BON!という爆発音が近くで鳴った。驚いてそちらを向いてみると、冒頭で話した爆発少年――爆豪勝己が鬼の血相で扉の前に立っていた。クリーム色の髪に釣り上がった目。個性にも天性の才能にも恵まれていた彼は所謂ガキ大将であった。小学校、中学校と同じなわけだが、初対面のときからやけに私に突っかかってくる。ビビリな私はついつい個性で撃退してしまうのだが…。その話はまた後程ということで。
そういう訳で、同じく爆豪くんに弄られている緑谷くんにこの日は話しかけてみていたのだ。
いつもより三割増で目を釣り上げ、ドンドンと足音を立てて爆豪くんがやって来る。緑谷くんと私の小さな悲鳴が重なった。お願いだからこれ以上近づかないでくださいお願いします。何か気に障ることを私たちはしてしまったでしょうか。思わず姿勢を正し、爆豪くんをじっと見つめる。今の私は絶対に涙目だ。すると爆豪くんはふっと目を逸らしたかと思えば、すぐに視線を緑谷くんへと移し一発殴りつけた。なんで!?
「ば、ばばばばば爆豪くん!?なにしてるの!?み、緑谷くん大丈夫!?」
「ひえっ、あ、うん…慣れてるから……」
慣れているというのも如何なものなのだろうか。窓側まで飛んでいった緑谷くんの側に駆け寄り手を差し出すと、恐る恐る私の手を掴んだ。と、そこでまた爆発音。緑谷くんと私の悲鳴が重なった。本日二回目である。驚きの余りお互い手を離してしまった。すると突然左腕を爆豪くんに掴まれ、そのまま引っ張られる。ああ、田舎のじっちゃん。どうやら私の命日は今日のようです。お父さんお母さんより先に旅立つ私をどうかお許しください。
▽
いつの間にか爆豪くんは私のカバンも取っていたようで、昇降口に着いた瞬間に押し付けられた。あまりの恐ろしさに固まっていると速く靴を履き替えろのとお達しだったので、すぐ様ローファーに履き替える。するとまた腕を掴まれ、グイグイと引っ張られた。せめて…せめて力加減を覚えてくれ……。痛いです…。なんてそんなことを口に出来るはずもなく帰路についた。無言で私の前を歩く爆豪くん。いつ殴られるのだろうか。いや、殴られるだけで済むのか?なんかもっとこう、精神的にも追い詰められそうな気が…。
「おい」
「ひっ、な、なに?」
「…デクが好きなのか」
「は……?」
「っ、だから!デクが好きなのかって聞いてんだよ!!」
また掌で爆発を起こし、ぐいっと顔を近づけて問いかけてくる。こわいこわいこわい。お願いだからこれ以上近づかないでください土下座しますから!!
いえ決してそんなことはありません!と断言して出来るだけ距離を離す。友達としては好きだけど!はいって答えたら絶対に殺される…!
爆豪くんは確かに整った顔立ちをしているけど、怒鳴られながらだと近付かれても恐ろしいだけだ。同じドキドキでも恐怖から湧き出るドキドキ。なんで私ばかりこんな思いをしなくてはならないのだろう。うん、まあ、心当たりが無い訳ではない。でもあれは不可抗力と言いますか…仕方ないんだよ、個性だから。けれどその個性で爆豪くんに怪我させたことも事実なので、なるべく彼から逃げ回らずにちゃんと会話をしているのだ。私なりの誠意である。
「…結婚がどうとか言ってたじゃねぇかよ」
「あれは緑谷くんの可愛さについつい口が滑ったと言いますか……」
「オレの前でデクの名前を出すんじゃねえ!!つーか紛らわしいんだよテメェは!!」
なんで怒ってるの意味わかんない。とうとうガチギレした(ように私には見えた)爆豪くんに私の涙腺は崩壊した。そんな私の様子に爆豪くんはやばいという表情を浮かべ、小さく「おい」と声を掛けてきたのだが、今の私にはそんな声は入ってこない。
「ご、ごめんなさいいいいいいいいい」
しゃがみ込んで爆発くんに背を向けた私の背中には鋭利な針が何本も飛び出ていた。何かが刺さった感覚は無かったため、きっと爆豪くんは避けきれたのだろう。それに安心しつつも、涙は止まらない。
この針が私の個性。ハリネズミと呼ばれるものだ。ハリネズミは威嚇をすると背中の針を尖らせるのだが、私の場合は泣いてしまうと背中から針が飛び出してしまう。そのためなるべく泣かないように心掛けているのだが、爆豪くんの前ではそうもいかない。だって彼恐い。近所の人たちが私たちの横を通り過ぎるが、いつものことかとスルーする。そう、これ、よくあることなのだ。
初対面で爆豪くんに怯えて泣き出した私は、プスっと針を彼の手に突き刺してしまったことがある。私がまだ幼くてそこまで針が鋭くなかったことや、当時から才能マンだった爆豪くんが咄嗟に避けようと動いていたことで大した傷にはならなかった。だがきっと、彼はそのことを根に持っている。
だから中学生になった今でもよく絡んでくるんだ。私も確かに悪いことしたけど!でも爆豪くんが怒鳴ってきたりしなければ怪我することだってなかったんだから自業自得で…って、これは流石に可笑しいか。ちゃんと私が個性を制御できていれば、泣いたって個性は発動しなかったわけなのだから。ああ、早く制御出来るようになりたい。
「おい」
「ご、ごめんなさ」
「泣くな」
いつの間にか私の正面へと回り込んだ爆豪くんは私と同じようにしゃがみ、手を伸ばして私の涙を拭った。その手つきが以外にも優しくて、きょとんとしてしまう。爆豪くんにこんな一面があるだなんて知らなかった。てっきり気に入らないことがあればすぐにキレて、暴力を振るうとばかり…。別に間違ってはないな、うん。
驚きで涙が止まったのか、背中の針が消えていく。すると爆豪くんは制服のブレザーを脱いで、私の肩にかけた。個性発動後は着ていた服の背中部分が破けてしまう。だからなのだろう。あれ、でも爆豪くんって人に気を使えるタイプだっけ?
「帰んぞ」
手を取って立ち上がらせてくれた爆豪くん。私のスクールバッグを手に持ち、背中をポンッと押してくれた。
ふっと微笑んだ爆豪くんにきゅんと来てしまったのはきっと気のせいだ。
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