▼ 自然体で振舞ってよ


※作者はアニメ知識はありますが、漫画の方はあまり知りません。結構酷いことを言ったり、下ネタ(?)っぽさ有り。なにせ、モブくんと交戦直後の彼ですから…。





 黒酢中学の裏番長、花沢輝気くん。あだ名はテル。類まれなるそのルックスで人を魅了する、運動も勉強も出来る完璧超人だ。ちなみにこの類まれなるルックスとはゴリラみたいな顔で逆に注目を浴びてしまっているというわけではなく、普通にイケメン的な意味でだ。ハッキリ言って私も顔は好みである。顔は。しかしあの性格は何とかならないものなのか。自分が中心に世界が回ってますぅ〜みたいな感じが気に入らない。いやまあ、確かに黒酢中は彼が統率を取っているお陰で不良と一生徒の間でいざこざが起こることは少ないのだけど。でも調子に乗りすぎでしょ。私、心の中で調子乗っテルテルって呼んでるよ?皆は呼ばない?呼ばないですよね知ってた。ていうか今はそんなことどうでも良いんだ。
 ――なんで、なんで…!
 うちの学校大破してんの!?ええええええ、どうやったらそんなボロボロになるの!?ショベルカーとかある!?いや、ないよね!?ナニコレ。かと思えば徐々に元の形に戻っていく校舎。ナニコレ。どうなってるの?超能力か何か?いや、まさか…そんなもの存在しないよ。え、存在しないよね……?
 放課後、学校に戻ってきたのは本当にたまたまだった。机に明日提出の課題を忘れてしまい、取りに来ただけ。それなのに、何が起こったんだ。怪しみながらも、先日担任に「次課題を提出し忘れたら、居残りしてもらうからな」と言われたことを思い出す。既に十回連続で課題をやっていないのだ。放課後は遊びたいし、居残りはしたくない。仕方がないと校門を潜った。

(ああああ…!!なんで不良共がぶっ倒れてるの!?)

 黒酢高校でやんちゃしている不良軍団が校庭で伸びている。ひっそりこっそり来たは良いが、どう考えてもこれは何かが起こった。学校が大破したように見えたのは幻じゃなかった。いいよ現実じゃなくて…幻でいいよ……!ていうか他校生もいる…?他校の人がうちの校内に入ってもいいの?意味が分からん。
 失神していた黒酢の不良たちが起き上がると、一人が調子乗っテル…ゲフンゲフン。花沢くんの名前を呼んだ。そしてみんなが花沢くんがいると思われるであろう方向を見て、あんぐりと口を開いた。そしてやべぇ!と咄嗟に逃げ出す。なになに、花沢くんガチギレしてたりするの?そう思って私もそっと花沢くんの方を向く。

「…!? ぎゃあああああああああ!!!」
「っ!? え、あ、ミョウジさん…!」
「ふ…! あ…! え、ええ!?」

 女の子らしいとはお世辞にも言えない声を出し、腰を抜かして座り込む。ああ、ダメだ。今の花沢くんを見てはいけない。手で両目を覆い、視界を塞いだ。
 今日の朝。朝にはいつも通りの花沢くんだったはずだ。なのになんで今の花沢くんは、頭部が禿げていて全裸なの…!?痴漢なの!?そういう趣味だったの!?いやいや落ち着け私。とりあえず男の人の大事なところは見てないんだからセーフだ。…なにがセーフ!?

「見てない! 見てないからね! 大丈夫だよ!」
「あ、う、うん…」
「ほ、ほほほ保健室! 保健室に予備の体操着あるはずだから取ってくるね! ただ、その、下着は……ご、ごめん! なんでもない! とりあえず保健室!」

 震える足にムチを打ち、テルくんのいない方向を見て校内に一目散に逃げる。教室より先に保健室だ。生きていた中で一番のスピードで体操着を取り、そのまま校庭へ戻る。もちろん花沢くんの方は見ないようにして。後ろ手に体操着を手渡すと、ありがとうとお礼を言われる。うん、あの、取りに行くこと自体は大したことないから。お礼とか良いから。
 明らかにいつもの様子と違う花沢くん。黒酢中に来ていた他校生も帰って行った。花沢くんはずっと黙ったままだ。そりゃそうだよね、だって女子に全裸を見られるだなんて恥でしかない…。でも校庭で全裸になる方も悪いと思うよ!?そういう性癖だったとしても!
 あまりに気まずいので、思わず会話を切り出してしまった。

「あー…えっと、さ」
「……」
「その、今の花沢くんのが良いと思うよ、うん」
「そういうのいいから」
「アッ、ハイ。じゃなくって!」

 いい加減着替え終わっただろうと、振り向いて花沢くんを見る。髪が落ち武者みたいだ。笑うな、笑うな私。さすがに髪は何か事故が起こってなってしまったんだ。そう、裸で校庭にいたから不審者だと間違われて攻撃を受けた…とか。自業自得じゃねぇか。それは今は置いといて。

「本当に思ってるからね。 いつもの(調子乗ってる)花沢くんより、なんか雰囲気が落ち着いてて」

 正確には落ち着いてるじゃなくて落ち込んでて…なんだけどね!調子乗っテルテルは正直ウザかったから、これで懲りてくれたと思うとなかなか良い気分だよ!ごめんね!じっと目を見つめて、これからは調子に乗らずに学校生活を送ってねと訴える。すると、花沢くんは口元を手で覆って視線を逸らした。イヤなの?ねえ、イヤなの?

「ミョウジさん」
「なんでしょうか」
「ナマエって呼んでもいい…かな?」
「えっ」
「だめかな…?」
「ど、どうぞ?」

 許可を出すと嬉しそうに微笑んで、私の両手を取った。急にどうしたんだ花沢くん。私、きみのことよく分からないよ…。笑った顔は可愛いと思うけど、頭で台無しだし。
 後日、飼い犬の如く私に絡んでくるようになった花沢くんは髪の量がどう考えてもおかしいカツラを被って登校してきた。ある意味勇者だよ花沢くん。
BACK / TOP