端的に言おう。現在行方不明の従兄弟を監禁したのは私です。従兄弟が元気になったら自首します。
最初からクライマックスか?と思った人が大勢いることだろう。その通りである。
では私が従兄弟を監禁することになった経緯を説明する。
「ナマエちゃん……!?」
私の従兄弟は東京は渋谷に住む、日本人にしては色素の薄い少年である。名前を佐野万次郎。マイキーだなんて渾名があるけれど、親の影響で世界的に有名なシンガーソングライターでありダンサーである某人を応援していた幼かった私は「マイケルのマイキー!」と言われて「なら呼ばない!」と叫んだものである。私の中のマイケルはあの人だけ!とは幼いながらに過激だった。
そんな万次郎くんには十歳離れたお兄さんと一つ年下の妹がいた。そのお兄さんである真一郎くんと私は七つ歳が離れているのだが、彼が私の初恋であったことは余談である。
田舎の農家の娘である平々凡々な私とは違い、万次郎くんは中々複雑な家庭環境だったが、私たちの祖父や真一郎くんにエマちゃん、彼の友人たちに愛情持って接され、すくすくと育ち、自由人でありながら持ち前のカリスマで人の目を奪っていた。
歯車が狂い始めたのは真一郎くんが亡くなってから。
万次郎くんの大切な仲間が自身の兄を撲殺したのだ。
万次郎くんにはもう両親がいない。だから真一郎くんが親代わりでもあり、万次郎くんは真一郎くんに憧れているから、きっと妹のためにも自分が兄のようにしっかりしなくてはと考えていたのだろう。
真一郎くんの殺害理由も相まって、万次郎くんは自分を兎に角追い詰めてしまっていた。
お通夜、お葬式と万次郎くんは泣かなかった。いや、事実に心が追い付かず泣けなかったのだろう。当時はそんなことに気付けもしなかったが、万次郎くんの姿があまりにも痛々しかった。
だから火葬を行う際、待ち時間に万次郎くんの腕を掴んで人気のない場所まで引っ張ったのだ。
「苦しいね……!」
振り返り、まだ同じくらいの身長だった万次郎くんを抱きしめた。
緩々と背中に回された腕は力無く、肩に顔を埋められる。荒い呼吸音が聞こえ、背中を撫でた。
上手く泣けない彼の代わりに私が号泣し、やっと顔を上げた万次郎くんには腫れた顔を笑われる。
ああ、良かった。笑ってくれた。
◇
真一郎くんが亡くなってから二年。
私はそもそも東京にすら住んでいないため詳しくは知らないのだが、どうやら今度は万次郎くんのお友達が亡くなったらしい。おじいちゃん曰く、道場にも通っていた幼馴染らしい。
そして――エマちゃんも亡くなった。
エマちゃんは異母兄妹というやつで、万次郎くんとは生まれた時から一緒にいたわけではない。そしてエマちゃんの死には彼女が「ニィ」と呼んでいた、佐野家に来る前のお兄さんが関わっており、そのお兄さんも亡くなったのだとか。
エマちゃんの喪主は万次郎くんが務めた。彼のお友達も沢山来ており、万次郎くんは淡々と事を進める。
光が殆ど宿らないその目を見て、私は万次郎くんを放ってはおけなかった。
高校を卒業後、私は家で働く。我が家には葡萄園と桃園があり、将来的に私が自分の意思で受け継ぐのだ。
出来れば私が農家として一人前になってからと考えていたのだが、高校卒業後に会った万次郎くんの瞳は真っ暗だった。
普段から何を映しているのかが分からない瞳なのだが、今のそれは違う。どんよりとしていて、直感的に万次郎くんを一人にしてはならないと判断した。
「おじいちゃん!私、万次郎くん連れて帰る!」
「そうか……うん!?」
新聞を読みながら話半分に聞いていた祖父から言質を取った。
オレに関わるなと言った態度を取った万次郎くんを無視し、前にエマちゃんが修学旅行用に買ってもらったのだと自慢してくれたキャリーバッグを拝借。その後万次郎くんの部屋へ勝手に侵入。そのまま万次郎くんのお洋服やら下着やらを容赦無く詰め込み、最後に万次郎くんの愛車であるバブの鍵を手に取る。
「返して欲しければ大人しく付いてきなさい!」
唖然と私の行動を見続けるしかなかった万次郎くんも愛車の鍵を人質……ならぬ、物質にされてハッとする。
焦ったように付いてくる万次郎くんの足音を確認しつつ、電車でやって来ていた私は自分の荷物を万次郎くんに預け、キャリーバッグをカラカラと引き摺りながら、二人で電車に乗り込むのだった。
◇
帰宅後、両親にはこっ酷く叱られたが、万次郎くんのことは二人も心配していたらしく、家に住まわせるのは大賛成だった。
無理矢理連れて来られた万次郎くんは無一文で東京に帰ることは出来ず、更に私はバブの鍵をタンスの中に隠したため、我が家で大人しく監禁される他ない。
因みにタンスの中は中でも、私の下着類が入っている場所だ。元々人の下着が見たい場合には勝手に漁れるタイプの万次郎くんだが、探し物をしている際にたまたま見付けてしまったのであれば、罪悪感で漁ることはしないだろう。多少弄ってサイズ確認とかはされそうだが。
「ナマエちゃん」
「なにー?」
「オレ、そろそろ帰りたいんだけど……」
「ダメです」
大盛りのお茶碗を万次郎くんの前に置き、ご飯を食べさせる。
文句を言いながらもご飯は沢山食べる万次郎くんは心做しか顔色も良くなり、よく笑うようになった気がする。
遠慮なくおかわりも出来るのは農業を手伝わせているため、住み込みで働いている気分だからなのか。
「ごちそうさまー。ナマエちゃん」
「おそまつさまでした。なに?」
「家に帰りたいなぁ」
「ダメです」
この問答も何度繰り返したことか。これも既に日常の一部である。
本気で帰してほしいと嫌がっていた万次郎くんに、じゃあ雇ってやるから家で働けと言ってから早数ヶ月。
初めの頃は朝早くに起きられなかったり、お昼に寝てしまったりと仕事にならなかったのだが、自分も一緒に育てた葡萄と桃に感動した万次郎くんは最近では自主的に働いている。
夜に寝る時だって中々寝付けなかったはずなのに、今では隣に寝ている父がどんなに煩いいびきをかいていても眠れるようになった。
健康優良児そのものである。
「ナマエちゃん」
「家にはまだ帰さないよ」
「まだ、ね。それよりナマエちゃん、思ってたより胸大きいんだね」
「……人のタンス勝手に開けたな!?」
「ワー、怒ったぁ」
ぴょん、と椅子から降りて逃げ出す万次郎くんを追いかける。お皿をシンクに入れなさいと叱る母の声を無視し、万次郎くんの背中を追った。
足には自信があるのだが、中々距離が縮まらない。
最終的にぶどう園の中をぐるぐる回り続けて息切れした私を万次郎くんが背負って帰宅。二人にして母から拳骨を貰った。
◇
「ナオト!今マイキーくんって……!」
「田舎で農業を営んでいます」
「そっか、やっぱり農業を……え?」
「最近では品種改良をした葡萄が高い評価を得ています。賞も貰っていますね。新聞にも名前が掲載されています」
「マイキーくん!?」
「結婚もしていて、元々此処は奥さんの実家だそうですよ」
「結婚してるの!?」
「今朝もニュース番組に出演していて……ああ、姉さんが録画していると思います。あの番組、姉さんが好きな俳優もゲスト出演していたので」
「待って」
「そういえば、奥さんと結婚した理由を聞かれて監禁されたからと答えていましたね」
「ドウイウコト……?」
監禁?→夢主の家と果樹園から出ることを禁止していました。田舎なので車かバイクがなければ駅にすら辿り着けそうにないので、万次郎は大人しくしていました。
軟禁では?→お金が無いことを逆手にほぼ無理矢理家業を手伝わせているので(後に自主的に)。
なんで自首?→親族以外は急にマイキーが消えた理由を知らないから。元東卍メンバーは焦りながらも、まあマイキーだし大丈夫だろと思っています。
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