Dear. 食べたいのはきみのハート

※捏造過多。ネームレス。キャラの親族。


 世界で一番尊い推しがいる。
 目に入れても痛くない程可愛い従兄弟が何時からかサッカーにハマり、十年程前、録画した試合を再生しながら熱く語ってくれた中に推しはいた。
 当時は所謂彼の中で低迷期というやつだったそうだが、私には彼が一番輝いて見えたのだ。
 日本から海外へ向けてファンレターを何度も送ったし、アルバイトが出来るようになってからは只管にお金を貯めて、彼の試合を見るためだけに海外へも行った。来日した日には同じ国で息を吸っている事実だけで頑張れたし、生で彼のゴールシーンを見られた時は号泣した。
 そんなちょっとヤバいファンな私の部屋は推しのグッズでいっぱいである。
 推しの名はクリス・プリンス。
 あのノエル・ノアと並び、世界一のサッカープレイヤーと評される男。推しがそう世間に呼ばれるようになって久しいが、その成長過程を見られただけで生まれて良かった。私は今日もプリンスウォーターを箱買いします。
 箱買いしたプリンスウォーターの写真をSNSに上げると、同志たちからポコポコといいねが付く。身バレは避けているものの、私は所謂古参ファンというやつに当たるらしく、クリス界隈でこのアカウントは少しばかり有名らしい。自分ではあまり分からないのだが、日本人よりクリスの地元や所属する――もしくは"した"――クラブチームの地元の人からのフォロワーが多く、たまに「友人に紹介してもらいました!フォロー失礼します」といったリプが届く。同志であれば大歓迎なので、推しトークに花を咲かせていた。
 数年前。スランプから抜けたクリスがインタビューでこう答えたことがあった。

「結果が乏しいにも関わらず、試合に出る度に手紙を送ってくれるファンがいたんだ。しかもそれが日本人でね。遠い場所に自分を応援し続けてくれている人がいて、自分を切っ掛けにサッカーを好きになってくれたんだって。彼女からの手紙を読む度、初心に戻れたんだ。クリス・プリンスの理想を思い出せた」

 この日本人の彼女が私とは限らない。けれど、もしかしたらという期待に溢れ、私があのクリスの力になれていたのかもしれないと思うと堪らなく幸せだった。
 そして何より。彼はファンレターをきちんと読んでくれる人だとハッキリしたので、より筆を持つ手に力が入るというものだ。
 サッカーボールの上にクラウンが描かれた手作りのシールを貼り、封を閉じる。私は今日も推しに手紙を綴った。





 従兄弟がブルーロックプロジェクトの看板ストライカーになった。
 あんなに小さくてまろい頬っぺただった……いや、頬は今も柔らかいのだろうが、大きくなったものである。
 推しへの愛からイギリス英語に堪能になった私は翻訳関係の仕事をしているのだが、それを従兄弟の情報から経由して知ったのだろう。ブルーロック側からの仕事の依頼があり、サッカー好きでもある私は緊急ではあったがオーケーを出し、少しだけ携わっていた。
 具体的には海外選手に対する施設の案内だ。会社勤めの頃には通訳の仕事も多く引き受けていたので問題なく勤め、一回ポッキリのお仕事だったが、有名選手からサインも貰えてラッキーだった。
 着物を持っているかと聞かれたのは不思議だったが、まあ良しとする。
 さて、そうして一度運営に携わったからだろうか。今回は絵心さんの名前ではなく、サッカー協会から仕事の依頼が届いた。
 前回と違い長期となるため、突然時間を空けるのは難しい。しかも最新技術の翻訳イヤホンを使用するため、機械の不調がなければ選手たちに関わることはほぼない。有料チャンネルで彼らの日々を放送するため、映像編集後に誤訳がないかの確認は行う。一番大変そうなのはリアルタイム配信される予定の試合だろうか。イヤホンから音声が直接入ってくるので、選手たちの声は生配信中もハッキリと聞こえる仕組みになっており、致命的な機械の翻訳ミスがないかを試合中は集中して確認しなければならない。む、難しすぎない……?複数人雇われるにしたって、中々無茶をしている。
 けれど、まあ。フリーランスなので頑張れば何とかなるかと予定を立て直し、仕事を引き受ける。何せ可愛い従兄弟が参加しているプロジェクトなので。協力したい気持ちが勝ったのだ。
 でもだからって、私はそんな――。

「何度か試合を見に来てくれているよね?クリス・プリンスだ!よろしく」
「ヒュッ……」

 推しに会えるだなんて思っていなかったから、心構えが出来ていないんですけど!?





 推しに、推しに認知されている……!
 確かに試合を見に行くどころか、スタジアムで出待ちをしてサインを貰ったこともあったけれど!だからって認知されているとは思わな……いや、私の推しなら自分のファンを全て把握することだって出来る。クリス・プリンスに不可能はない。
 何とかあの場を取り繕い危機を脱した私だったが、裏方として関わる機会がこれからも零というわけではない。

「すまない。ボールの補充を頼みたいんだが、誰に声をかければ……?」
「へぁ、は、はい!伝えてきます!」

 どのスタッフが何の仕事をしているかだなんて、一回じゃ覚えられないのが当然だ。それくらいなら……。

「誠士郎たちのデータなんだが……」
「ぉぁ、か、確認お願いしてきます!」

 時間が空いてイングランドチームの備品チェックの手伝いをしていたから、たまたま……。

「やあ!休憩かい?もし良ければ一緒にお昼はどうだろうか?」
「ヒュッ……ぁ、そんな、選手たちとご一緒されたりは……?」
「それもするが、たまには指導者と共にしない時間も大切だからね」

 ――いや、滅茶苦茶話しかけてくるのだけれど!?
 選手たちと一緒に食べない理由は分かった。クリスが言うのだからそうなのだろう。でもだからって私を誘わなくても、一人で食べるとか……いやこれ社交辞令か!?何回か話したことがあるスタッフがいたから、一応声を掛けてくれただけ!?だとしても私がクリス・プリンスの誘いを断れるわけがない。でもここは断られることを前提に声を掛けられているのか?分からない。私には分からない。

「駄目、だろうか?」
「だめなんかじゃありません!是非ご一緒させてください!!」
「勿論だ」

 シュンとした顔をされたら、断るなんて選択肢は大気圏を突破して宇宙の彼方へ飛んで行く。再突入はしない。
 ヒィ、笑顔が眩しい!これは太陽にも負けない輝き。室内なのに後光が差しているようにも見える。私の推しはいつの間に天使に?ダビデ像にも劣らない肉体を持つ天使……控えめに言っても有り。

「行こうか!」
「ピッ……」

 さり気なく腰に手を回された。あまりに自然な動作。私じゃなきゃ見逃しちゃうね。
 平常心、平常心。日本人がスキンシップになれていないだけで、推しは足を止めたままの私に気を遣ってくれただけ。え、気遣いの鬼か?しゅき……。やめろ、本人の前で気持ち悪いぞ。

「あ、あの、実はスタッフルームにお弁当があって……」
「お弁当?もしかして手作り?」
「そうですけど……」
「うん、ならスタッフルームに取りに行ってからにしようか」

 ニコニコ笑顔のクリス。見上げる形だが、明らかに推しとファン以上の距離の近さで頭がクラクラする。これも推しの顔が良すぎるのが悪い。嘘、クリス・プリンスに悪いところなんて一つもない。私は推しの全てを愛しているので、どれもこれも彼の魅力にしか感じないのだ。
 移動中、何を話していたかは正直覚えていない。物理的な距離の近さと、こうして真正面から話す機会が与えられたことに対する緊張で記憶がすっ飛んでいるのだ。
 そんな私の意識がはっきりしたのは唇の端に触れられた瞬間だった。ぴゃっ!と体が跳ね、イスが大きな音を立てる。
 食事スペースに残っていた選手たちの視線を集めてしまったのが分かり、ボボっと顔が赤くなる。

「驚かせてしまったね、ごめん」
「ぁ、いや、私が過剰に反応してしまっただけなので!」

 どうやらボーッとしてしまっている間にご飯粒を付けてしまっていたらしい。恥ずかしすぎる。
 ご飯粒を取ってくれたクリスはそれをティッシュで拭き、興味深げに私の手元を見る。心做しか目がキラキラと輝いているのは気のせいだろうか。

「それ、おにぎりだよね?」
「はい」
「具は?」
「ぐっ、これはただの塩むすびです……!」

 場所が場所なので住み込みで働かせてもらっているのだが、だからこそギリギリまで寝ていることが増えてしまった。そのせいで今日は寝坊してしまい、昨日の晩ご飯の残りと冷食を詰め、おにぎりはシンプルで一番楽な塩にしたのだが、推しに見られるって分かっていたらもっと良い物を作ったのに……!見栄を張りたかった。
 悔しがる私とは違い、クリスは興味深げにおにぎりを見つめてくる。

「もし良かったら、一口貰えないかな?」
「は、え?あの、か、カロリーとかは……?」
「一口くらいなら大丈夫さ!次の食事で調整も出来るしね」

 お茶目にウインクをする推しに胸を撃ち抜かれる。あざとい。かわいい。カッコよくて可愛いとか無敵でしかない。これは貢ぎたくなる。
 私の反応を見て断られることはないと踏んだクリスはおにぎりを持つ私の手を掴み、自分の方へと寄せてガブリと食いつく。

「ん、日本のお米は美味しいね!海苔も良い。確か海苔は食物繊維が豊富なんだよね。これなら……」

 満足気な顔をしたかと思えば、次は体作りのために真剣な表情をして考える。メディア向けではない、サッカーと向き合っているときの顔は親しみやすさよりも凛々しさを感じる。そういうギャップも好きです!と私はクソデカ大声で叫べる。ただし推しの目の前にいるときは除く。
 ていうか口デッカい。私の三口分くらいが一口だろうか。かわいい。

「料理は好き?」
「ええっと、必要に駆られてって感じです。でも、自分が好きな物を作っているときは食べる時を想像して楽しくなります」
「そうか。キミの手料理なら毎日でも食べたいと思ったんだけど、それは負担になってしまうのかな」
「……?え、それ、あの……?」

 一体どういう意味で?と鈍感ではない私の頭は混乱する。
 そんなことは露知らず、クリスは私の手からおにぎりを奪い取ってテーブルに置くと、私の両手を包み込んで手の甲を撫でる。

「日本ではこう言うって聞いたよ。毎日、キミのお味噌汁が飲みたい」

 真剣な眼差しで、少し緊張しているのか手は冷たい。
 何がどうして突然こうなったのかは分からないが、一つ間違いないのは私がこの瞬間宇宙猫を背負ったのは当然のことである、とだけ。





夢主
世一の従兄弟だからかサッカー選手からやけに好かれやすい体質。翻訳の仕事をフリーでしているが、会社に勤めていた際には通訳もしており、実はその際のご縁で一部サッカー選手の通訳も続けさせてもらっている。
学生時代からの推しはクリス・プリンス。ノエル・ノアとどっちが世界一かの言い合いは世一と会う度にしている。仲良し。
推しが名前は出さないが夢主に会いたいとよくメディアで言っており、ファン歴と日本人という特徴から現地ファンからは特定されている。それでやけにSNSでの外人フォロワーが多い。
推しに逆らえないので、その気になれば簡単に落とせるチョロいやつ。
尚、本人は気付いていないが、クリスと話しているときはずっと耳が赤い。


推し
上手くいかずに弱っていたところ、たどたどしい英語で書かれたファンレターに励まされた。だからこそ名前を覚えており、何ならお返事をしたかったのだが、その頃にはスランプから脱して活躍し、ファンを大量に獲得していたことから、やろうにも出来ない状態だった。
弱みに付け込まれたようなもので、若さから淡い恋心を抱いてしまった。
当時は自分を応援してくれる海外ファンがかなり珍しかったので、出待ちの時点で手紙の主が夢主だと気付いている。だからこそインタビューやらで会って話したいと明言していたのだが、夢主から「自分のことでは!?」と連絡が来なくてやきもき。でもそんな主張が激しくないところも良い!と恋は盲目。
相手はファンだし無理に出会いを設けるつもりはなかったが、ブルーロックプロジェクトで運命の出会い。毎年一回は試合を見に来てくれている彼女の顔を知らないわけがない。これは運命に近いとガンガンアタック。
告白については凪が「考えるのめんどくさ……」からゲームのストーリーでたまたま見たやつを教えた。多分途中で読むのが面倒くさくなってストーリーはスキップしている。玲王「それプロポーズじゃねぇか……?」

「彼女が通訳の仕事もしている?なるほど!」
→以降、来日する際には夢主が呼ばれることになるので逃げ道はない。


BACK/TOP