Dear. 棘は刺さるが痛くない

※新アニポケ16話後の話。


 貨物船の上。足の間にエーフィが挟まり、心配そうにこちらを見上げて鳴いている。二又の尻尾は左の小指をきゅっと掴んでおり、愛おしさで胸がいっぱいになった。

「大丈夫だよ」

 エクスプローラーズの幹部の一人であるスピネルは私の直属の上司であり、上司と部下以上の感情を抱いてしまっていた。
 有体に言えば好き。一番はエーフィなのでそこは譲れないが、世界で二番目に好き。
 そのスピネルがリコという娘にご執心なのだ。

「ふぃー?」
「スピネル様が求めているのはあのペンダントだしね!別にあのリコとかいう子が欲しいわけじゃない!分かってる、けど……」

 実は意外とああいう女の子が好みだったりするのだろうか。ペンダントが欲しいというのが言い訳の可能性は?あり得なくはない。
 しゃがみ込む私からエーフィは抜け出し、宥めるように頬を舐めてくれる。嬉しいし可愛いのだが、この子はリア充。スピネルのブラッキーとお付き合いをしているのである。片思い相手が他の女性に夢中な私の気持ちを本当の意味で理解は出来ないのだ。
 多少は舐められても問題のないことを売りにした商品を買ってはいるが、化粧をしているため頭を撫でて頬を舐めるのを止めさせた。
 つぶらな瞳がこちらを見つめている。

「もうエーフィと結婚したい」
「ブラッ!!」
「ひっ!?」

 無理だけど、と言う前に背後からブラッキーに威嚇される。コンテナから飛び降りてきたブラッキーにエーフィは甘えた声を出し、嫉妬してくれたの?とブラッキーの毛繕いを始めた。
 お似合いカップルだが、完全に自分の子どもに恋人が出来た気分である。
 何より自分がスピネルのことで悩んでいる今、そのイチャイチャは心にくるものがあった。全てが心の傷に塩を塗っていく。

「また馬鹿なことを」
「っ、スピネル様!」
「今の時代、ポケモンと人間が結婚など許される地方の方が少ないでしょう」
「最初から冗談のつもりでしたよ……」

 スピネルの相棒はブラッキー。つまりブラッキーがいるとなれば、そこにはスピネルもいるはずで──彼の姿を見て急いで立ち上がった。
 勢いがついて少しふらついてしまったのだが、それをしっかりと見られてしまったようで恥ずかしい。もっとデキる女である姿を見ていてほしいのに。

「体調が優れませんか?」
「いえ、この通り元気です!」
「そうですか。しゃがみ込んでいたようなのでてっきり」

 スピネルが私の心配をしてくれた。
 嬉しい!とエーフィを見ると同じようにニコニコ笑顔。ブラッキーから離れ、足に擦り寄ってくる。
 ブラッキーもブラッキーでスピネルの足元でお行儀良く座っていた。スピネルを見上げ、尻尾で彼の足を叩いている。

「貴方が万全でなければ、エーフィのパフォーマンスも落ちますから。そうなればブラッキーの調子も、」
「ブラッ!」
「……ああ、はい。そうですね、ブラッキー」

 先程より強くブラッキーがスピネルを叩く。目を逸らしていたスピネルはこちらを見て、ゆっくりと口を開いた。

「何より、私が心配ですから。無理はしないように、いいですね?」
「は、はいぃ……!」

 去っていくスピネルの背中を追いかける。
 好きな人に少し優しくされただけで、鬱々しい気分など何処かに吹き飛んでしまった。
 何かもう、悩み事なんてどうでもよくなっちゃった!

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