幕間



 黒漆に金で描かれた鶴の鞘。刀鍛冶が腕に縒りを掛けて作った日輪刀を抜く。
 色が変わることはなかったが、それで構わない。
 姉さんは幼い頃から私の姉さんで、唯一私が頼ってもいい存在だった。
 背丈は成長するに連れて私の方が大きくなったはずなのに、昔からその背中は姉さんの方が大きい。
 腕を引いてくれることはないけれど、私の盾とはなってくれる。背中を押してくれる。肩を貸してくれる。私の目になってくれる。手足となってくれる。見守っていてくれる。間違えれば、正してくれる。――手を繋いでいてくれる。
 姉さんのその丈夫な体を妬んだことはあったけれど、それ以上に姉さんのことを愛しているよ。
 生きる理由を見つけてほしい。私のためではなく、もっと自分のために。欲望のままに、生き汚く。
 姉さんが私の幸せを願ってくれているように、私も姉さんの幸せを願っているのだから。
 なんて、この思いに気付いているからこそ、姉さんは難しくて頭を悩ませてしまっているのだろうけど。
 刀を鞘に収めた。
 全ての思いをこの短刀に込めて、姉さんに捧げる。
 これから先何が起こっても、どうか無事で、生きて帰ってきて。

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