幕間
産屋敷家の娘が隊士として戦おうとしている。
既に引退済みであったり、当時柱であった全員に伝えられた話だ。
皆の間に動揺が走ったことは言うまでもないだろう。
どうしたものかと頭を抱えた者もいた。厳しく指導し、隊士になることを諦めさせようとする者もいた。
そんな歴戦の猛者から逃げ出さず、血反吐を吐こうが、生理的な涙を流そうが、筋肉痛や訓練中に出来た傷のせいで身体中に痛みが走ろうが、少女は諦めなかった。
文句一つ言わず、一見理不尽そうな訓練にも意味があるのだと信じて乗り越えた。
そんな健気な少女を気に入らないわけがないのだ。
「炎の呼吸が一番自分に合っているのだと思います。だから、私に基礎を教えて頂きたいのです」
そう言って任務明けすぐにその場で指導を乞う少女。
まだ隊士ですらない小娘と自称し、頭を簡単に下げてしまう。
なのに、どうしてだろうか。少女を下に見ることは出来ない。
人の上に立つ運命。それ故に何をしても威厳がある。
どんなに傷を負っても、その眼だけは真っ直ぐで。
けれど、足りない。
少女の瞳はきっと、もっと美しいもののはずだ。
その目に灯火を与えるのは一体誰なのだろう。
少女の世界に色彩を与える名誉。それはどれだけ、甘美なものだろうか。
嗚呼、羨ましいな。
その人間はきっと、少女に頼られるのだ。
師匠の誰もが頼られることはないと言うのに。
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