弐
翌日に柱合会議を開く予定のようで、今回は私にも参加してほしいのだと耀哉は言った。明るい時間帯。きっと耀哉の身内だと気付かれてしまうと顔を顰めてしまったが、悲願を果たせる日は近いのだと耀哉が呟いたことを思い出し、自分から出席を決めた。
那田蜘蛛山で義勇としのぶが炭治郎と出会う。ならば、禰豆子について裁判が行われるのは道理。私も監視を行なった身として擁護しなければならないし、何より自らしたいと思っている。
産屋敷邸に暫く残って姪っ子たちと遊び、暗くなる前に帰宅するその途中、千寿郎に出会った。
私に気付いた千寿郎は籠に入った沢山のさつまいもを抱えながら、パタパタとこちらへ駆けてくる。
「お久しぶりです!お元気そうで良かった」
「うん、久しぶり」
ひょいっと籠を奪い、煉獄家へと向かう。私の屋敷から煉獄家はそこまで遠くない……いや、遠いのだが。今の私の足であれば、そう時間は掛からない。
女性に荷物を持たせるだなんてと慌てる千寿郎に他に買い物はないのかと尋ねると、それはありますが……と答えられる。
「じゃあ、そこも寄って行こう」
「そんな、悪いです!」
「このくらい構わないよ」
少し微笑んで見せれば、千寿郎はおずおずとお願いしますと頭を下げてくる。
礼儀がなっていてとても良い子だ。輝利哉と歳も近いだろうし、お友達になれたらきっと素敵なことだろう。今度勝手に産屋敷邸へ招待したい。家を出た身なので、実際のところは不可能なのだが。
千寿郎の晩御飯の買い出しを手伝って、今度こそ煉獄家へと向かう。
その間、千寿郎は沢山の話を聞かせてくれる。幼い頃の話何かは杏寿郎からも聞いたことがあり、別視点からだと更に面白味が湧く。主に杏寿郎の話ばかりをして、本当に兄が好きで好きで堪らないのだろう。
そうこうしていると、あっという間に辿り着いてしまい、千寿郎は少し寂しげな表情をしたが、良いことを思い付いたとばかりににこにこ笑う。
「今日は父上は泊まりで家にいないんです。だから、その、もし良かったら晩ご飯を食べては行きませんか……?兄上も帰ってきますし!」
元々はこの後も任務があるつもりでいたため、普段から雇っているお手伝いさんに晩ご飯を作ることは頼んでいない。帰ったら適当に何かを作るつもりだったので、こちらとしてはとても魅力的なお誘いだ。
久しぶりに杏寿郎と会えるのは素直に嬉しいし、千寿郎の期待の眼差しを曇らせたくはない。
「それじゃあ、お邪魔してもいいかな?」
「勿論です!」
但し仕事もないのに年下にだけ働かせることには罪悪感があるため、食事は一緒に作ることとする。
◇
煉獄家の味付けについて学びつつ、産屋敷家の味付けの物も作ったりと二人で楽しんでしまった。
あまりの盛り上がりに杏寿郎が帰ってきたことにすら気付かず、食べさせ合いっこをしている姿を見られたことは恥ずかしかったが。
「まだ照れているのか?」
「兄上にこの気持ちは分かりません!」
「その通り」
「よもやそんなことは」
「あります!」
思春期に差し掛かっているのだろう。私以上に照れた千寿郎はカンカンだった。
見られただけならよかったのだが、杏寿郎の「二人は本物の親子……いや、姉弟みたいだな!」という一言を気にしているらしい。
お皿を洗う音がカチカチと鳴り、手が震えている様子だ。
「まあ、私は嬉しくもあったけれど」
「うっ……!お、俺も嬉しかったですが!でもそうじゃないんです!」
「そっか、嫌じゃないなら良かった」
お皿を洗い終わった千寿郎に濡れたままの手を頬に当てられ、その後にぐいっと引っ張られる。ちょっとだけ痛い。
「何を言っても通じなさそうなので、これで許します」
「うん?うん、そっか。手、ちゃんと拭かなきゃ駄目だよ」
「そういうところですよ……。兄上もですからね!」
そう言いながらちゃんと手を拭く千寿郎は良い子である。
対して杏寿郎はそんな私たちの様子を微笑ましそうに見守っており、それがまた千寿郎の癇に障ってしまったらしい。
こう言ってはいけないのは分かっているが、それにしたって可愛らしい怒り方だ。輝利哉もいつか、私に甘えなくなったりしてしまうのだろうか。それは少しだけ寂しい。
許してくれ、千寿郎!と抱き着く杏寿郎は幸せそうである。千寿郎も離してください!とは言ってるものの、抵抗は全然していない。
見ていてほっこりする。
「もう!こういうことはキノエさんにしてください」
「千寿郎!?」
何故巻き込まれた?
よく分からないが抱きしめれば良いみたいなので、杏寿郎も千寿郎も纏めて抱きしめた。
二人が私を呼ぶ声が重なる。
顔を見れば、似た顔の二人が揃って顔を真っ赤にしていた。
「ふ、あはは!」
それが面白くって笑ってしまったら、二人して仕方がないなぁと許してくれるのだ。
三人でぎゅっと抱きしめ合い、こんなところで何をしてるんだと冷静になってからまた笑った。
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