幕間



 名前、名前か!
 何度も復唱し、その度に笑み堪えようをとして失敗する。
 自分で渡せなかったものを千寿郎経由で手渡されたのは恥ずかしいが、受け取ってくれたのだから良しとしよう。そもそも彼女は「いいえ」と拒否するのが苦手な人ではあるのだが。

「気になるのであれば近くで見守りなさい」

 母上が自分の娘を見るように彼女を見つめる。どうやら気に入ってくれているらしい。
 父上と千寿郎は母が見守りますからと背中を押され、名前の後を着いて行く。
 これは余談なのだが、母上は父上が別の女性と親しくなろうとした時に妨害していたらしい。死んだ人間がどうやって手出ししていたのだろうか。
 それは兎も角として、そんな妨害をしなくとも父上は母上以外を愛すことは絶対にないと伝えれば、母上は心底幸せそうに笑った。そしてピシャリと言う。

「あの子はどうか分かりませんね」

 確かに名前は押しに弱いが!しかしだからって、死した人間が彼女の幸福の邪魔をするなど……!

「杏寿郎以上に彼女を幸せに出来る人間がいるのですか?」
「いません!」

 気付けば母上の口車に乗せられてしまった。

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