数ヶ月経ち。音柱である宇髄天元とその奥方三人、そして竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助が上弦の陸を打ち破ったとの吉報が舞い込んできた。
 その際に天元は片腕と片目を無くし、柱を引退することになってしまったのだが。それでも生きて帰って来られただけで儲けものだ。百年以上、私たち鬼殺隊は上弦の鬼を倒せたことがなかったのだから。生きて帰還するだけでも褒められたことであるのに頸を斬り落とした。快挙である。
 そして同時に。炭治郎に痣が発現した。例のあの痣だ。
 私は上弦の弐と出会ったあの日以来、一度も現れたことはなかった。しかし炭治郎には発現した。
 痣持ちは一人現れると連鎖する。
 これから先、痣持ちが増えていくのかもしれない。
 紛れもない吉報であり、凶報。
 槇寿郎さんから送られてきた、少し早い炎柱襲名祝いの羽織を撫でながら思いを馳せる。
 人が鬼に勝る日が遂にやって来る。しかし、それにどれだけの人が犠牲になるのだろうか。生き残ったとして、痣を持つ者は二十五を超えて生きられるのか。
 悲しいことだが、それでも私の成すべきことは変わらない。
 もっと強くなる。全てを糧にして、鬼を全滅させる。
 屋敷の縁側からヤシロが入り込み、大きく鳴く。

「刀鍛冶ノ里ニテ鬼ノ襲撃有リ!救援ヘ向カエ!」

 刀掛けから日輪刀を取り、腰へ差す。
 大丈夫。私は間に合う。絶対に!
 鴉の後を追い、今までで一番の速度で駆け抜けた。
 被衣を被ることすらせずに。





 里へ向かう途中、同じように招集された蜜璃と合流する。挨拶もそこそこに手分けして鬼を討ちに行こうとするが、明らかに嫌な気配がする。
 事前の鴉の情報から、里にいる鬼は上弦の肆と伍。伍は無一郎が相手をしている。

「キノエさん……!」

 無一郎が私の弟子であると誰かから聞いていたのだろう。そちらに向かってと目で訴えられる。
 けれど、優先すべきは濃い気配の方だ。私たち二人でも抑えられるかどうか分からない程の強い気配。

「無一郎なら大丈夫。こんな私の弟子だけれど、あの子は強いから」

 だから絶対に負けない。信じてる。あの子はまだまだ成長出来る。
 あの子は私の前では甘えてしまうから。甘えて良いのだと擦り込みをしたのは私だが、今のあの子の成長において甘えは不要。初めての強敵との戦い。あの子が変わるのならば、今この瞬間しかない。

「私はきっと今の無一郎には邪魔になってしまうから。だから、そっちには行けない」
「……分かりました!」
「それから、なんだけど。私のことは名前って呼んでね」

 え?と足を止めそうになった蜜璃の腕を引き、里内に入る。目的地には血鬼術で作られた木の竜に襲われる炭治郎の姿があった。既に禰豆子と玄弥が捕らえられており、絶体絶命の状態。
 呼吸を研ぎ澄まし、お互いのやるべきことを判断する。

「炎の呼吸肆ノ型、盛炎のうねり」

 その名の通りにうねる炎が木の竜の首を落とす。
 蜜璃は炭治郎を背中に抱え、少し離れた場所で彼を下ろした。頑張ったことを褒めることを忘れずに。
 私は私で木の竜を切った際に玄弥と禰豆子の腕を引き、着地出来る体勢まで引っ張ったため、解放後の大きな傷はないはずだ。
 上弦の鬼に対して蜜璃が怒りを口にする。

「黙れ、あばずれが。儂に命令して良いのはこの世で御一方のみぞ」

 あばずれ、誰が?蜜璃が?
 そんなわけないだろうと、背後から頸を狙うが、流石に気配に気付かれて竜の口から雷を起こされる。それに蜜璃が対応し、技を相殺した。

「キノエさん!」
「久しぶり、炭治郎。それとこれからは名前って呼んでね。玄弥は後で自己紹介くらいさせてくれると嬉しいな」

 安心させるように微笑めば、玄弥は顔をぼっと赤くさせて何度も何度も頷いた。禰豆子にもまだ余裕があったため、軽く手を振ってあげる。
 情報が出回っているわりに鬼は私の顔を見ると戸惑うので、多少の隙が出来ている。それを逃さずに追撃するが、上弦ともあれば防がれてしまった。
 蜜璃と二人で技を相殺し、更に傷を与えていく。苦し紛れに広範囲の技を使われ蜜璃の顔に焦りの表情が浮かぶが、私もいるのだから問題ないと蜜璃は恋の呼吸伍ノ型を、私はまた盛炎のうねりで対処。
 蜜璃が頸を狙うが、炭治郎からアイツは本体ではないのだと伝えられ、動きが鈍り、蜜璃が敵の技に当たりそうになる。
 そういうのは先に言っておくべきだよ、炭治郎……!
 その場から急いで壱ノ型である不知火で間合いを詰めて蜜璃を庇うが、腕が痺れるような痛みに襲われる。震えを止めるために刀の柄で腕を強く叩いた。
 気絶した蜜璃を狙う腕を刀で受け止めると、その後ろで炭治郎たち三人が蜜璃を抱えて飛び出した。
 ならば四人は大丈夫だろうと、敵に集中する。
 上弦の肆は雷神の様な姿をしている。憎と書かれた太鼓を叩き、雷を落とした。
 私は背後の四人を庇いつつ敵に近付き、その足を切り落とす。
 体勢を崩した鬼の攻撃を目覚めた蜜璃が全て斬る。

「私悪いやつには絶対に負けない!覚悟しなさいよ、本気出すから」

 泣きながら宣言する蜜璃は純粋な女の子で、あばずれなんかじゃない。
 かっこよくてかわいい、とても素敵な子なのだから。
 前言撤回してもらわなきゃね。

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