「炭治郎たちは本体を狙って!こっちは私と蜜璃で相手をする!」

 動き出す炭治郎に鬼は気付き、彼らを足止めしようとするがそんなものは想定内だ。全て私と蜜璃で破壊した。
 もっと、もっとだ。訓練中、心拍数が上がって明らかに動きの良くなった瞬間があった。それを維持するんだ。血の巡りを早くして、全身の筋肉を解せ!
 大丈夫。私たちが押している。一人で相手をしているんじゃない。

「蜜璃!……っ!」

 攻撃が当たり、頭から出血をした彼女に気を取られ、木の竜に横っ腹を噛み付かれる。そのまま地面へ叩きつけられそうになるが、その前に弐ノ型、昇り炎天で脱出。その勢いのままに体勢を安定させ、着地した。
 考えることを止める必要はない。今回の敵については情報が少ないが、あれの頸を切っても良いものだろうか。
 炭治郎はあれを本体ではないと言った。その敵に対し防戦一方だった彼らがどうしてあれが本体ではないと知っている?
 最初に戦っていたのは本体であり、本体では炭治郎たちに勝てないと判断。その後偽物を作り出して本体は隠れた?これが妥当だろう。
 偽物は切る度に強くなり、何十回も倒さなければならなくなったり、偽物の頸を切ると分身が増えるなんてことも有り得るのだろうか。
 勝利条件は一つ。本体の頸を落とす。この偽物よりも弱い本体であれば、炭治郎たちが何とか出来るだろう。
 ならば私たちがすることはこれだ。

「最短で炭治郎たちが本体の頸を切り落とすまで!最長で日の出!それまで足止めするよ!」
「はい!」

 倒すのではなく足止めを目的にする。もしまた偽物……分身が現れるようであれば、私たちなら気配で分かる。その時は二手に分かれれば良い。
 これが最善。負けることもなく、被害を最小限に抑えられる手。彼らなら鬼を絶対に倒せる。
 魂を燃やせ。守るために!





 日の出と共に鬼は消滅した。
 だがこれは日の光で消えたというより、本体が倒されて偽物も消えたのだろう。ということは、だ。

「炭治郎くんたち本体の頸を切ったんだわ」

 やったー!と抱きついてきた蜜璃に持ち上げられ、くるくると回される。流石は捌倍娘だ。
 その蜜璃の胸元に四葉に似た痣が浮かんでいることに気付き、息がひゅっと止まる。
 今、言うことでもない。私の勝手な判断で伝えるわけにはいかない。

「あれ?名前さん、太腿にそんな痣があったんですね!」

 言われて気付く。切れてしまった隊服の先。太腿には炎のような花という表現が合う形をした痣が出来ていた。
 ちょっとだけかわいい、と呟く蜜璃に癒され、炭治郎たちのところへ向かおうと声を掛けると、そうだった!と蜜璃は走り出す。
 抱えないで、下ろしてもらえると嬉しかったのにな。
 みんな!と叫びながら蜜璃は炭治郎たちに近付き、そのまま全員を抱きしめた。
 全員生きて勝った。里に被害は出ているが、それにしたって最良の終わり方だと思う。
 抱きつく際に落とされた私は首に回る蜜璃の腕から脱出した。

「師匠」

 無一郎は笑っていた。今まで見たことのないくらいに素敵な笑顔で。
 一瞬にして理解した。記憶を取り戻し、過去を乗り越えたのだと。
 そんな無一郎を抱きしめ、優しく頭を撫でる。

「よかった、本当に良かった……」
「師匠、あの、今までありがとうございました。それから、迷惑をかけてごめんなさい」

 彼を離し、気にしなくて良いのだと微笑む。
 無一郎がこうして元気になってくれただけで充分なのだ。
 感動していると、するりと背後から腕が回ってくる。肩に顎を置かれ、幸せそうな声が聞こえてきた。

「よかった?よかった、ねぇ!」
「こ、こら!禰豆子……!」

 炭治郎に引き剥がされた禰豆子は不服そうな表情を浮かべ、炭治郎は邪魔をしてごめんなさい!と謝ってくる。
 禰豆子が太陽を克服し、喋る事が出来るようになった事実に驚くが、そんな二人の頭も撫で、良かったねと伝えれば最高の笑みを見せてくれた。
 禰豆子の太陽の克服。先を思えば嫌な予感がする。けれどこれは良い予感でもあるのだ。
 また色々と策を考えなければならない。
 突然難しそうな顔をした私に無一郎が首を傾げる。そんな彼の背を何でもないと安心させるように二回叩き、私はとりあえず一件落着であると笑って見せた。

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